第3章 第44話 死んでる
莉音は、急にこの世界に来た。連れてこられた、という方が正しいかもしれないね。獅子宮は無意味な行動をしないから、どうして連れてきたのかちゃんと意味はあったの。
「この子はいずれ世界を救う」
獅子宮はそう言って、莉音を育て上げたの。私の能力も教えられるだけ教えたの。獅子宮に頼まれてね。時に厳しく、時に優しく……獅子宮は本当に莉音のことを大切に思ってたし、実際大切に育ててた。
「ねぇ獅子宮、どうしてこの子を連れてきたの?」
「……この子は、かわいそうな子だからだ」
「かわいそうな子?それはどういうことなの?」
「そのままの意味だ。長老が、ワシには無理だと言っていたのだ。つまり、そういうことなのだろう」
「そう……このこの運命は、もう終わっていたのね」
「現にこうやって接するようになり、我はその意味を嫌というほど感じている」
獅子宮は、それ以上私に何も言わなかったわ。でも、この先この子は、否応なく戦いの世界に入っていかなきゃいけないんだって分かったの。異様なまでに世界時間加速が行われてたから。
1回莉音と直接話したことがあるの。その時のことを、私は昨日のように思い出すわ。だって、あんなに前向きに死んでる子を見たのは初めてだったから。
「ねぇ、莉音ちゃん」
「莉音でいいですよ。どうしました?」
「あの、莉音はどうしてここで修行してるの?」
「私には、何も無いのです。目指す場所も、目指すものも。でも、今こうして修行してることで自分がここにいるって感じられるので」
「そう……莉音は、どうして何も無いの?」
「捨てられたからですよ〜」
私は、言葉を失ったの。すごい無邪気な笑顔で、「捨てられた」って言うのよ。今までたくさんの人を上から見てきたけど、あんな子いなかったわ。
「私、師匠に拾われたんですよ。でも、目が覚めた時には師匠はいなくて、獅子宮がいました。短い間だったけど、師匠からたくさんのことを教えてもらえました。本当に感謝してます。でも、結局捨てられました」
「そ、それは……」
「託した。頼んだ。任せた。全ては『捨てた』という事実を隠す綺麗事です。でも、本当に師匠には感謝しています。師匠がいなかったら死んでますから」
「あなたは……莉音は、すごいね。小さいのに、そんなにちゃんと考えられてるんだから」
「これでも多分、この世界で4000年?くらいはたってると思いますよ」
「え……?」
私は、莉音の口から出た言葉を信じられなかったの。「4000年」という時間は、本当に途方もないもの。それをこんなにサラッと言えるのは、異常だって思ったし、この子がすごしてきた境遇が本当に歪んでいたんだなって感じたの。
「私にはもう、獅子宮の言うことを信じるしか道がないんです。でも、今はこれでいいと思っています」
「それは、どうして?」
「私が私でいられるので……私、怖いんです。自分の中で、ずっと何かが渦巻いてるような気がしていて」
莉音はそう言うと、立ち上がってまた修行に戻って行ったの。途中で振り返って、話せて楽しかった。とだけ言って。
私は、莉音という少女が本当にかわいそうな子だって思ったの。この子はもう、死んでるんだって。




