第3章 第43話 託したいもの
宮殿の中は1本の道になっていて、外のきらびやかさとは裏腹に等間隔で壁に付いている松明以外に照明はない。
「ねぇ……カール」
「大丈夫だ。この先から敵意とか殺意の類のものは感じない。それに、いざって時は俺が守ってやるからよ」
「そう……じゃあ今は、カールに任せるわ」
「おう。ん?なんか不満か?」
「別に」
カールは首を傾げつつも、シェリーの歩幅に合わせて歩く。そうしているうちに、目の前にやたら大きな門が現れた。
「よし、開けるぞ」
「うん」
その門は少し力を加えると、大きな音を立てて開いた。その中は大きな真っ白な空間になっていて、その奥には体高4mほどあろうかという大きな白い羊が眠っていた。
「あの羊が……」
『ようこそ。私の楽園へ』
白羊宮はゆっくりと体を起こす。その軌跡を辿るように水色の魔力が煌めく。
「……白羊宮は、謎の魔力に支配されてないのか?」
『へびつかい座のことでしょう?それなら私の分身を支配しただけで諦めて行ったわ。もともと、私は干渉不可能な存在であるから』
「干渉不可能?それってどういう……」
『立ち話もあれでしょう?どうぞ、私の方に来なさい。私から話したいことが沢山あるの』
白羊宮はカールとシェリーを優しくもてなし、椅子を用意して紅茶のようなものまで振舞った。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
『お気になさらず。私はもう長くないので』
「長くない?それは、神獣世界の崩壊が原因で?」
『そうね。悲しい話だけど……だから、あなた達と出逢えて本当に嬉しいの。少しお話が長くなっちゃうかもしれないけど、良かったらゆっくりとくつろいで貰って構わないわ』
「それは構わないさ。な、シェリー?」
「えぇ。私たちにできることなら何でもします」
『ありがとう。でもその前に、あなた達の名前を教えて貰えないかしら』
白羊宮はまっすぐ、2人を見ている。優しく、透き通っているような目で。
「俺はカーリアスト・リン・ファヴォラーダ。長いからカールって呼ばれてる」
「わ、私はシェリー・レビットです」
『ありがとう、カール、シェリー。あなた達はきっと強くなれるわ』
「強く……?」
『えぇ。あなた達には、仲間を信じる力があります。その力は、容易に持てるようなものではありません』
白羊宮はそこで一呼吸おいて、慈母のような雰囲気で話し始めた。
『私はあなた達に託したいと思うの。この世界を、未来を、そして……莉音を』
「莉音を……?それってどういう?!」
『そのままの意味ですよ。あ、そうね。まずはそこから話していきましょう』
思わぬ名前が出てきたことで驚いている2人に、白羊宮は顔に優しい笑みを浮かべた。
『莉音のことから。ね』