第3章 第42話 白羊宮
「……なぁ、これって」
白羊宮世界に入ったシェリーとカールは、神秘的な世界に心を奪われていた。
「わからないわ。けど、この世界、どうしてこんなにも輝いているのかしら」
「さぁな。でもまぁ、これだけは言える。ここは普通じゃねぇ」
「……そうね。まだ2つ目だけど、この世界は不自然すぎるわ」
程よい間隔で立ち並ぶ樹木、大理石でできた道、大きくてきらびやかな建造物が並び、奥には大きな宮殿が見えている。この世界は、他の神獣世界と比べたら明らかに不自然であった。
「考えられる理由は2つ……1つはこの世界だけは助かったから。もう1つは……」
カールが言葉を言い終えるまでに、目の前から大きな白い羊がゆっくりと歩み寄ってきた。その目は負の感情全てを孕んでいるような色をしており、時折紫色の魔力が雷のように迸っていた。
「……どうやら、嫌な方だったな」
「つまり……?」
「この世界の形が、白羊宮が新たに作った形であるってことだ。さっきのやつみたいに話が通じるやつって感じもしない。いつ仕掛けられてもいいように構えとこう」
「わかったわ」
白羊宮は少しずつ2人に近づく。ゆっくりと。何も言葉を発することなく。
「……あと1m。あと1m近づいてきたら、こっちから仕掛けるぞ」
「了解」
距離が縮まる。3m。2m……そして、1m。
「行くぞ」
『お待ちなさい』
「なっ?!」
「え?」
2人が攻撃を仕掛けようとした時、突然、白羊宮が優しい声で語り掛けた。
『私は、あなた達と戦うつもりは無いのです』
「……じゃあ、なぜ?」
『私は主人の分身。言わば、本物の白羊宮ではないのです。主人に頼まれ、御二方を迎えに参上した所存です』
「そう……だったのか。じゃあ、白羊宮の所まで連れて行ってくれ」
『かしこまりました。どうぞ、こちらです』
白羊宮の分身は、軽く会釈すると、2人に背を向けて歩き始めた。
「ねぇカール……」
「どうした?」
「信じてもいいの?」
「信じてはいない。だが、利用価値は十分ある。それに、分身だと言うのは本当だろうしな」
「どうして分かるの?」
「簡単な話さ。神獣にしては魔力値が低すぎる」
「あ〜、そういうことなのね。わかったわ」
前を歩く白羊宮の分身に聞こえないような声で話していると、巨大な宮殿の前で止まった。
『この奥でございます』
「お前は行かないのか?」
『私は行けないのです。この先へは』
「そうか。よし、行くぞシェリー」
2人は宮殿の中へと入っていく。その背中を見守る白羊宮の分身はどことなく切なげで、何かに縋っているようだった。