第3章 第40話 誰にも言わないで
『お前がいなかった……?どういうことだ?』
「そんなことは今はどうでもいい。私が聞いたことにちゃんと答えて」
莉音は真剣な顔で双魚宮を問い詰める。その雰囲気に気圧されて、双魚宮はおずおずと口を開いた。
『我に残っている記憶は断片的なものしかない。だから、我がお前たちに教えられることはほとんんどない』
「別にかまわない。少しでも情報が欲しい」
莉音は静かに怒っていた。その怒りは徐々に形となって現れ始め、髪の毛にまとわれていた魔力が膨れ上がっていた。
『……わかった。我が知ってることは本当にこの一つだけだ』
神獣としての威厳が完全に無くなってしまった双魚宮は、力なく真実を告げた。
『この紫色の魔力は、神獣であって神獣で無い者のものだ。そして、その者はもう完全にこの世界を支配してしまっている』
「その者の正体はわかるのか?」
『わからない。その記憶と、それまであったのであろうものと共に無くなっている』
「そう。ありがとう。もう君に用はないよ」
莉音はそう言うと、容赦なく双魚宮の首をはねた。その後、苺とヤウィーと目を合わせずに出口に向かって歩き始めた。
「さぁ、行こっか」
「……よかったの?」
「うん。これでいい。私は、こうしてでも前に進まなきゃ行けない。たとえそれが原因で世界中を敵に回したとしても」
「それが……本音?」
莉音は立ち止まった。振り返ること無く、声を発することも無く。
「莉音、急に変わった。莉音の中で、何があったのか……私にはわからない。でも……」
苺はゆっくりと莉音に近づいた。
「1人で……抱えすぎ」
「……ねぇ、もし私が泣いたら……どう思う?」
「私は、それでも……それでも、莉音は莉音だって思う」
「じゃあ……さ」
莉音は2人の方を向き、今にも泣き出しそうな顔で。しかし、莉音は顔の一部が魔力のようなものに浸食されているのが、髪の毛の間から見えていた。。
「こうなってしまっていても……私だって思ってくれるの?」
「莉音……それって……」
「あはは。ちょっとびっくりさせちゃったかな。でも、これが真実だよ。まだ、私が髪の毛の色を変えなければ目立たないけどね」
莉音は苦笑を浮かべながら髪の毛の色を白に戻した。それと同時に顔の水色の斑点があ消えた。思いもしなかった告白に、2人は何も声を出せなかった。
「これは、他の誰にも言わないでほしいの……」
莉音は優しく言うと、2人のそばに戻って優しく頭を撫でた。
苺は、悔しくて真っ白になるまで拳を握っていた。




