第3章 第39話 どうしてこうなったのか
水面から1つの頭だけを伸ばし、莉音と双魚宮は互いに仕掛けるタイミングを計りながら動かずにいた。
「ひとまず、私が秘石魔法で……」
「待って……今、少しでも、動いたら……負ける」
苺は支援魔法を使おうとしたヤウィーを止め、全てを莉音に委ねた。莉音の不意打ちとも言える攻撃を寸前で回避し、もう片方の頭を隠した状態の双魚宮は、言わばなんでも出来るような状態であった。
「……」
『どうした?我らを倒したいのだろう?』
「はぁ……あなた、もう1つの頭は?隠したまま私に勝とうなんて、いい度胸してるね」
『隠す?何を馬鹿な。貴様らの魔力は常に感じておる。他の神獣が負けているのに、我らが余裕持って戦えるはずがない』
「え?」
「……つまり」
双魚宮をまとっていた紫色の魔力が少し弱まる。莉音はその隙を見逃さず、長い胴体に横から斬り掛かった。
「夢幻想造伝第2の剣 雷炎の双刃」
『させねぇよ!』
「避けるのね。でも、どんどん行くよ!苺ちゃん、ヤウィー!」
「了解!」
「わかりました!!秘石魔法『加護』『強化』!」
莉音の攻撃開始に合わせて、苺は剣を抜き、ヤウィーはすぐさま秘石魔法の詠唱を行った。
「せやぁ!」
『くっ……仕方ない。水極!』
莉音に負けじと双魚宮も能力を発動する。水極は、体の一部でも水と接していれば発動することが可能で、触れている部分から一定範囲の水を自由に操ることができるようになる。
「あっ……そっか。君のもう片方は……」
『戦い中だろ!』
「そうだね。でも、これで確信した」
憐れむような莉音の態度に怒りが耐えられなくなったのか、双魚宮が全身に水をまとったまま突進してきた。その速度は時速100キロにまで達しており、どれほどに頑丈な盾でもいとも簡単に貫けるようなものだった。
「あなたは負ける。そう、今この場でね」
『負けなどない!負けなどない!負けなどないぞぉぉ!!!』
「ヤウィー!」
「はい!!秘石追加!秘石魔法『破壊』」
莉音の剣が双魚宮とぶつかる寸前に赤く、そして少し黒く光る。力と力の単純なぶつけあいは、片1方だけになってしまった双魚宮にほとんど勝ち目はなかった。
「完全には殺さない。なぜこうなったのか、教えてもらうため」
『うぅ……ぐっ……なに……を?』
莉音の攻撃を受け限界状態で地面に倒れた双魚宮に、莉音は暖かく、でも冷たい質問を双魚宮にぶつけた。
「どうして、こうなったのか……私がいなかった間に何があったのか。教えて」