第3章 第38話 双魚宮
「ねぇ、莉音」
双魚宮世界の中に入って少しして、真っ暗闇の中を歩いていた時に苺がふと声を発した。
「ん?どうしたの?」
「なんで……私たちはずっと2体ずつ?」
「あ〜、そのことね。それはね、単純に余裕の問題。チームでみると、私たち以外2人だよね?」
「あ、そっか……わかった」
「え?どういうことです?」
完全に理解した感じの苺とは裏腹に、全く意を汲み取りかねているヤウィーに、莉音は加えて説明していく。
「えっと、例えば2人チームが2体と戦うと、2人ともが戦いに全力を注がなきゃなるの」
「あ〜、確かにそうですね」
「うん。でも、それが3人チームだとどうなる?」
「あ!1人分の余裕が」
「そう。その人は2人の支援だったり、遠くから観察して状況を伝えたり、手こずっている方を助けたり。あとは……う〜ん、まぁなんか、そんな感じ」
ヤウィーも完全に理解した様子で、歩く足取りが少し軽くなっていた。
しばらくして、急に莉音が足を止めた。莉音を先頭に1列縦列で並んでいた上に真っ暗だったため、苺、次いでヤウィーと前の人の背中にぶつかっていった。
「うぎゅっ」
「むきゅっ」
「え?あ、ごめん急に止まっちゃって」
「ううん……平気。それより……え?海?」
波が3人の足元を軽く撫でる。それでようやく、後ろの2人は莉音がどうして止まったのかを理解した。そして、その意味も。
「双魚宮……やはり、海に」
「そうっぽいね。でも、これならちょっと刺激したら出てきてくれそう」
そう言うと莉音は剣を抜き、地面に軽く刺した。足元は砂だったのだろう。少し力を入れただけで沈んでいきそうな勢いだった。
「雷属性魔法『雷電』」
『うぉ?!』
「魚だけに?」
「苺さん……少しは緊張感持とうよ」
「あはは。さぁ!始まるよ!」
寝起きを襲われてことで完全に不機嫌な双魚宮は、莉音を噛み殺そうとせん勢いで莉音に向かって飛んできた。が、すんでの所で止まり、真っ二つになることは無かった。
「やっぱりそう簡単に捌かせてくれない……か」
『おいこらてめぇ、釣りじゃねぇんだよ』
半分呆れたような、怒っているような双魚宮の声をよそに、1度距離を取って戦闘準備を一瞬で終わらせる。
「行くよ。双魚宮!」
『来い。我らが相手をしてやろう』