第3章 第35話 油断
戦場が砂漠ということもあり、足を取られて動きにくくなる。それはお互いのはずだが、磨羯宮は意に関せずと言った様子で動き回っている。
「思いのほかすばしっこい」
「だね。でも、一向に攻撃してくる気配がないのよね。一体、何が目的なのかしら」
『僕の能力は起きてる時はほとんど使い物にならないからね。だから、時間稼ぎ』
「姑息なことを」
「ならば、私たちと追いかけっこってことね!いいわ!受けてあげる」
玲奈と将は同時に宝剣を解放すると、逃げ続ける磨羯宮を全速力で追い回した。2人で別れて挟み撃ちにしたり、遠距離魔法で遠くから狙ったり。それでも磨羯宮は速度を落とすことはなく、攻撃を全てかわし続けていた。
『さぁ、僕を捕まえるんじゃなかったの?』
「ふぅ……想像以上に早いな」
「ねぇ将、その宝剣の力でどうにかならないの?」
「なる。やってみる」
『ほう?もう追いかけっこは終わりかい?』
「いいや──」
刹那、将の姿が消える。第2魔剣 天穿雷鳴程ではないにしても、その姿を視認することはほぼ不可能である。特別な目を持っている、莉音と神獣以外は。
『速いね。でも、まだ遅い』
「なっ?!」
『でも、いい力だ。狙い所も完璧と言えよう』
「じゃあ、なぜお前はこうも容易く防いだ……?」
『簡単な話さ。僕には目があった。ただそ──』
「せやぁぁぁ!!!」
恐らく完璧なタイミングで、死角から玲奈が磨羯宮の頭目掛けて剣を振り下ろす。
『なぁ?!』
「私の剣は!1本じゃないわよ!!」
玲奈の剣が完全に頭をとらえる。ゴンッと鈍い音がすると同時に、何も無かった空間から無数の剣が生まれて磨羯宮の頭部に突き刺さっていく。それは明らかに致命傷を超えてやりすぎで、磨羯宮はピクリとも動かなくなった。
「やったか?」
「だと……いいのだがな」
目の前で頭部をズタズタにされた磨羯宮が倒れている。目は虚ろを向いていた。だが、2人の安心は束の間だった。
「っておいおい……これはまずいんじゃないか?」
「えぇ……多分、ここからが本番、ね」
倒れていたはずの磨羯宮が起き上がる。身体中を紫色の魔力がおおっており、傷口そのままで玲奈と将に向かって攻撃の準備を始めた。




