第1章 第16話 お風呂
「さぁて、何があったのか説明してくれるかな?」
部屋に戻ると、心が仁王立ちで待っていた。いや、まぁ心配してくれてたのは分かるよ。わかるし、新聞部員の件任せっきりにしちゃってたの忘れてたのも悪いとは思ってるよ。だけど、どうしてそんなに怒ってるの!?
「え、え〜っと……ど、どうして怒ってるの?」
「どうしても何も怒るよ!というか!色々言いたいことありすぎてどこから言えばいいのかわからないの!どうしてくれるのよ!!」
おい待て!それは八つ当たりじゃないか!?まぁ言いたいことが沢山あるのはわかったけどさ。けどさ!それは私悪くないじゃん!
「とりあえず!洗濯するから制服脱いで!」
「あっ……」
そうだったぁぁ!制服血まみれだったの忘れてたぁ!そりゃ開口一番怒るよ。私だって怒るもん。いや、あの……すみませんでした。
私はとりあえず心の中で謝罪しながら、赤黒く染まった純白だった制服とスカートを渡す。一応予備で黒色のやつはあるけど、それを着るには生徒指導室に行って手続きだの指導だの色々受けなければならないわけで……
「うへぇ……なんかぬちゃっとしてる……なんか生暖かいし……気持ち悪ぅ」
「ぬちゃっとしてるのはごめんね。だけど、生暖かいのは私が着てたからだと思う……ほんと迷惑かけるね」
「ほんとよ!あ〜もう!下着まで染み込んでるじゃん!もうお風呂入っちゃいなよ!その間に全部済ましちゃうから!」
今更ながら気づいたが、被害は制服だけにとどまらずスカートからでてる脚はもちろん、長袖で守られていたはずの腕も、アンダーウェアも全て血まみれで赤黒く染っていた。
やっべ……完全に忘れてたや……
「わかった。お先失礼します」
「脱ぐの手伝おうか?肌にひっついて脱ぎづらいでしょ?」
「い、いえ!大丈夫です!一人で出来るので!あと裸見られるの恥ずかしいのでちょっと出てってください!」
そこまで言っても心はいいじゃんいいじゃんと迫って来たが、鍵という必殺技を使って追い出した。
「そろそろこいつとも向き合わなくっちゃ……でも、まだ他の人には見せたくないな」
そんなことを小声で呟きながら一糸まとわぬ姿になる。全身は赤黒く染められ、どれほどの血を浴びたのか想像したくなかった。
私は、胸の真ん中──ほとんど膨らんでない胸の中央部を押さえた。未だ激しい拍動を鎮めるため。そして、そこに刻まれている小さな刻印を隠すために。
「あーもう!私らしくもない!お風呂入ってリラックスしよ!」
「うわぁ!びっくりしたぁ……いきなり叫ばないでよ!びっくりするじゃない!」
「ごめんごめん。でも!ありがとう!」
「え?あ、うん。どういたしまし、て?」
ドアの外で状況が読めてない心を放っといて、私はお風呂に入った。
全身を綺麗にするのにどれだけの時間が掛かり、そしてその間何も出来ずにドアの前でずっと体育座りして待っていた心の虚しさは、想像に易いだろう。
実際、私が風呂を出てホクホクした表情でドアの鍵を開けた時、般若の形相で突撃してきた心に軽く説教された。
まぁ、仕方ないといえば仕方ないけどね。




