第3章 第32話 扉の鍵
「どうすればいい……どうすれば」
『さぁ考えなさい挑戦者よ。余は絶対に動かんぞ』
「そうかよ……じゃあ、ありがたく考えさせてもらうとするよ」
カールは目を閉じた。
「カール……」
「大丈夫だシェリー。俺がやる」
「でも……ううん。分かったわ。私、一応見張っておくね」
「任せた」
カールは自分自身と語り始める。自分とは何か。自分の強さとはどこか。自分が今何をすべきなのか。
カールは次第に深いところに潜っていく。だんだん周囲の音が無くなる。だんだん体が沈んでいく。
『ほう?』
天蠍宮が初めて驚きの声を上げた。そのことにすら気づかないまま、カールの意識はどんどん深いところに沈んでいく。
・・・
「……ここは?」
沈む場所まで沈んだ時、カールは真っ白な世界にいた。ずっと真っ白で、果てが見えない。
「俺は……って、あれは?」
カールが辺りを見渡していると、1つの扉を見つけた。その扉には鍵がかかっておらず、両開きになっていた。
「ここは一体……?」
「やぁ」
「うぉ?!って……莉音?」
「そうだよ〜。にしてもおっきくなったね〜」
カールが扉の前に立った時、後ろから誰かの声がした。その声の主を見た時、カールは色んな意味で衝撃を受けた。
「え?でも……え?」
「どうしたの?」
「いや、え?なんで……莉音が、ここに?」
自分の深層世界に莉音がいる。それだけでも十分理解不能な上に、莉音は昔の姿のままだったのだ。そう、莉音と別れる少し前の。
「あはは〜。ちゃんと説明してもらってなかったんだね。じゃあ私から簡単に言うと、ちょっとしたサプライズ演出だよ」
「それって、どういうことだ?」
「つまり、私が君たちの寝てる間にちょっとした細工をしたの。でも、思ったより早かったね」
再会を楽しんでいるかのように、小さな莉音は笑う。かつてと同じような無邪気で、不器用な笑顔で。
「そっか……やっぱりお前らしいな」
「えへへ〜。褒めても何も出ないよ。さぁ、行こっか」
「行くって、どこにだ?」
「この扉の先だよ。私は、ある意味鍵だから」
莉音が扉に手を当てる。少しずつ扉が開き、奥に広がる世界を照らしているであろう光が漏れ始める。
「それじゃあ、私はこれでお別れ。カール、現実世界の私を、ちゃんと救ってあげてね」
「あぁ。もちろんだ」
「うん!ありがとう」
扉が開ききると共に、莉音が光になって消滅した。その光の中を通るかのように、カールはなんの躊躇いもなく扉の中の世界へと入っていく。
そして意識は、徐々に現実へと帰っていく。
・・・
カールが目を開ける。そこにさっきまでいた世界はなく、遺跡の部屋に天蠍宮とシェリーがいた。
「待たせたかな?」
『いいや。何かいいことでもあったか?』
「まぁな。昔の戦友に会ってきたって感じだ。行くぞ天蠍宮。今の俺はさっきまでとは違うぜ?」
カールが不敵な笑みを浮かべる。それは圧倒的な自信から来るものであった。
それを見た天蠍宮も、かすかに笑いながらカールに応える。
『来なさい。存分に』