第3章 第30話 託された意志
天秤宮は話し終えると、少しずつ崩れ始めた。
『あとは……お前たちに託す』
「あぁ。託された」
その言葉を最後に、天秤宮は完全に瓦礫と化した。龍護と心はその光景を眺めながら、1つの世界が終わったという現実を受け入れていた。
「よし、行こう」
「うん……」
「立てるか?もし難しいならおぶってやろうか?」
「お願い。まだちょっとつらい」
「いいよ。と言っても、俺も結構ギリギリだから、歩く速度は遅いぞ」
龍護は心を背負って歩き始めた。入ってきた扉まであまり距離はなかったが、魔力不足に陥っている体にはかなり辛いものだった。
「ねぇ龍護」
「んぁ?どうした?」
「さっきの天秤宮の話さ、どう思う?」
「どう思うっつってもな〜。信じるか信じないかって話なら、俺は信じる。理由は特にねぇけど、莉音の強さの理由がそこにあるなら全然納得出来る」
「そっか。ねぇ龍護、莉音が持ってる魔剣ってさ、1本だと思う?」
「……何が言いたい?」
扉に辿り着く少し前に、心がふと1つの疑問を漏らした。その意図を理解してかしかねてか、龍護は足を止めて心に聞いた。
「私さ、莉音の持ってる魔剣は1本じゃないと思うの」
「そうか。やっぱり、お前もそう感じてたか」
「やっぱりってことは、龍護も?」
「あぁ。莉音はまだ手の内を完全に明かしきってはいない。数年間一緒に戦って、学園戦争?だったか。の時も一緒に戦ったが、まだあいつは底を見せてない。見せられないだけかもしれないけどな」
龍護が扉の前で、少し振り返って崩れゆく世界を見ながら笑う。
「でも、莉音は莉音だ。俺たちの最強の戦友さ」
「うん、そうだね」
2人は天秤宮世界から抜け出す。今は亡き、1体の神獣の意志を心に留めたまま。




