第3章 第26話 双児宮決着
莉音と苺は、相手をできるだけ離した状態で戦っていた。
『くっ……しつこい』
「まだまだ行くよ。第5魔剣 終焉崩壊第3の門解錠!」
「天候変化」
『また変わった?!』
そのせいか、少しばかり莉音たちの方が優勢ではあった。今のところは。だが、神獣相手に20分近く戦い続けていると、少しずつ集中の抜け目が出始める。
「莉音……」
「分かってる。さすがに時間かけすぎちゃってるかも」
莉音と苺が背中合わせになった時、どこからともなく誰かが駆けてくる姿が見えた。
「え?ヤウィー?!」
「莉音さん、お待たせしました。私も、今から戦います」
「……わかった!行くよ!!」
『わざわざそっちから姿を現してくれるとはね。手間が省けたよ』
『えぇ。ほんと、愚かな子』
ヤウィーの姿を確認した双児宮が勝利を確信したかのように笑う。その笑っている顔に向けて莉音が左手の剣で斬り掛かる。
『ははっ。無駄……だ?はぁ?何だこのちか……』
「吹っ飛べ!」
『ぐわぁぁ!!』
『ちょっと!あんた何やられ』
「あなたも、同じ」
『え?』
一瞬で距離を詰めた2人に双児宮が吹き飛ばされた。さっきまでとは違い、完全に攻撃が効いていた。
『くっ……何が!?』
「秘石魔法『加護』・『祝福』……私は補助魔法しか使えません。だから、2人の援護に回ります!」
「すごい!さっきまでと全然違う!」
「ありがとう。これで、勝てる」
『小癪なぁ!!終幕創造伝!』
双児宮に冷静さはなかった。怒りに任せて魔力を集め、世界を滅ぼす一撃を莉音達に放とうとしていた。
「それが敗因だよ」
『はぁぁぁぁ!!!!』
『砕け散りなさい!!』
「……あなた達はかつて、私に夢幻想造伝を教えてくれた時、その技についても教えてくれた。その技の力と代償。そして弱点を」
莉音は、今にも爆発しそうな魔力の前に立った。紫色の魔力は徐々に膨らみ続け、もう中央にいるであろう双児宮の姿は見えない。
「これでさよならだよ」
莉音は2本の魔剣を消滅させ、1本の短剣を出現させた。
「あの剣……」
「苺さん、あの剣を知ってるの?」
「知ってるも何も……今、私が持って……」
「行くよ。双児宮」
莉音はそう言うと、肥大化した魔力の中へと飛び込んだ。その中は負の念で溢れていて、1種の精神汚染を引き起こしかねない代物だった。
『なっ?!』
「さよなら。双児宮」
莉音はなんの躊躇いもなく短剣で2体の首を切り落とした。
『なぜ……魔神剣も持って……』
「“も”かぁ……惜しいね。少し違うよ。でも、もう戦いは終わり。君たちの負けだよ」
『そう……か』
魔力は空気中に分散し始めた。その中心で、莉音は双児宮と話していた。さっきまでとは違う、本当の双児宮と。
「最後に一つだけ聞かせて。誰があなたを操ってたの?」
『それ……は…………』
最後の魔力が空気中へと消え去った瞬間、双児宮は完全に動かなくなった。その場に1つ、鍵のようなものを落として。
「勝っ……たの?」
「うん。勝ったよ」
「え?私、役に立てたでしょうか?」
「もちろん!ヤウィーがいなかったら本当にギリギリだったから」
「やったぁ!まだ終わった訳でもないのに、めちゃくちゃ嬉しいです」
終わったことを確認するや否や、莉音の所に駆け寄ってはしゃぐヤウィーとは対照的に、苺はどこか腑に落ちない顔をしていた。
「苺ちゃんどうしたの?」
「……最後」
「え?」
「最後の剣……あれって」
「うん。君の剣だよ」
莉音はそう言って苺に笑いかけた。苺は、少し涙を堪えながら、莉音に歩み寄った。
「……ずるい」
「そう?さぁ、とりあえずこの世界から出よっか。あと10分しないうちに崩壊すると思うから」
莉音の言葉に2人とも目を丸くして、先に走り出した莉音を追いかけるように走り出した。
「「そういうことはもっと早く言えぇぇー!!!」」




