第1章 第15話 「嬉しい」
「お見苦しい姿を見せちゃってごめんね……」
結局2人は私が泣き止むまで待ってくれた。どうして涙が出てきたのか、あの先が声にならなかったのかわからない。でも、なんとなく感じてた。
あの時、自分がまともじゃなかったこと。
「質問……」
「ん?どうしたの苺ちゃん」
「違う。そういう意味じゃ、ない」
私は意味がわからず首をかしげてしまった。すると苺ちゃんは俯きながら泣きそうな声で言った。
「私の質問……まだ、答えもらって…ない」
「えっと……ごめん。覚えてないや」
その一言で苺ちゃんの何かが爆発した。多分、私のことを思ってのことなんだろうな……ほんと、さっきから悪いことしてばっかりだな……
「目……」
「え?」
「魔剣使ってた時の目……あれ、何?」
この子、多分この学園で……いや、私が出会った人の中でトップクラスの観察眼を持ってる。たった1回見せただけで代償に気づかれ、さらには隠したかったことの一つまで言い当てられた。
さすがにこれは笑えないな……
「う〜ん……実感ないからわかんないや」
「そう……」
だから私は嘘をついた。我ながら醜い嘘だと思う。でも、咄嗟についてしまった。私は卑怯者だ。本当に、あの時から何も変わってない。
「もうそろそろお開きにしましょう。ルームメイトが心配していると思いますよ」
玲奈が空気を変えるために手を叩きながら話題転換した。玲奈がずっと黙っていたのは、このタイミングを狙っていたからなのかな?よくわかんないや。でも、ありがとう……
「そうだね……今日はごめんね。急に変なこと言い出して。このことはもう忘れてね」
「謝る必要ないわよ。むしろこっちが感謝したいわ。私たちを助けてくれてありがとう」
君たちは感謝を知ってる。優しさを持ってる。ちゃんと自分を持ってて、それをしっかりとコントロールできる。
そっか……そういうことか……私がこの2人になら大丈夫と思った理由。
「ねぇ……お父さん。私、お父さんが言ってたこと、わかった気がする」
「?莉音どうかしたの?」
「……ううん!なんでもない!」
私は玲奈の背中を追いながら煌めく星々を纏った黒いカーテンの下を駆ける。
久しぶりに感じた、「嬉しい」という感情は笑顔となって現れた。
「きゃあ!もう、莉音。いきなり飛びついてきたら危ないじゃない」
「いいじゃんいいじゃん!ね?苺ちゃん」
「私に振らないで」
ワイワイと話しながら3人は寮に向かって歩く。その顔には、もう沈んでしまった太陽を思わせるように、笑っていた。




