第3章 第19話 隣に立つ
「……やっぱり何かが引っかかる」
龍護は部屋に戻ってからもずっと考えていた。図書室で読んだ「戦後録」のこと。そして、今朝会った莉音の様子。その全てに違和感を感じていた。
「よしっ……戻るか」
部屋の時計が午前11時頃を指している。龍護は、莉音がいる可能性のある生徒会室にもう一度向かうことにした。
「さて。あれ?誰かいるのかな?」
生徒会室に入ろうとすると、中から誰かの気配を感じた。龍護は音を立てないようにそっと扉を開けて中を見ると、中には心に膝枕してもらって幸せそうな顔で眠っている莉音の姿があった。
「よっ」
「あ、龍護来たのね。今莉音が寝てるから静かにね」
「分かってるよ。てか、莉音こんな感じで寝るんだな。初めて見た」
「そうなの?でもそっか……あんまりゆっくりできる時間はなかったら仕方ないかもね。そういえばさ、クロノア団時代の莉音って、どんなんだったの?」
心の質問に、龍護は少し考えながらゆっくりと答えた。
「う〜ん……簡単に言うと、良いリーダーかな。全員の実力に合わせたり、終始的確な判断ができたり、時には場の空気を盛り上げたり。どんな酷い失敗をしても絶対に怒らないし、どんなに自分のことを悪く言われても言い返さなかった」
「ははは。莉音らしいや」
「けど、俺たちのことをバカにされた時は本当の意味で怒ってた。時には相手を殺すんじゃないかって思っちまうほどだったよ」
苦笑いしながら龍護は続けた。もっと自分のために怒ってもいいのにな、と。心も時折うなずきながら、眠っている莉音の頭をそっと撫でていた。
「クロノア団の名前が魔法使いギルドの中で少しずつ有名になり始めた時、1つの依頼が来たんだ。内容は、『戦争への参加』」
少し空気が強ばる。龍護は、後悔と恨みのこもった声で心にその続きを伝えた。
「俺は無理だと思った。その時の戦争といえば、『終末戦争』だった。ギルド内でも、戦争に呼ばれたら死って言われてた。最初は莉音も断っていたんだ。でも、あまりにしつこくて……それでも莉音は断固として受けなかった。でも……」
「でも?」
「莉音が、依頼主に『直接話がしたい』と言われてそれに応じた。その日、莉音は帰ってこなかった」
「……え?」
「次の日も、莉音は帰ってこなくて、その次の日の朝……莉音が強制的に戦場に連れて行かれてたことを知った」
心の膝の上で眠る莉音を見ながら、龍護は今にも泣き出してしまいそうな顔で言った。
「そして莉音は英雄になった……と」
「あぁ……でもそれは結果論だ。俺はあの時後悔した。俺が強ければ……莉音より強くはなれなくても、せめて莉音と並んで立てるくらい強ければ……」
「でも、龍護には勝てないって莉音は言ってたよ。だから、そこまで自分を責めなくても……」
「実力だけが強さじゃねぇ」
龍護のその言葉は重く、強かった。
「確かに俺は莉音との最初の勝負に勝った。莉音からの評価もありがたいと思ってるし、すごい恐縮だなって思う。でも、俺はまだ莉音の隣に立てない」
「そっか……でも、私もその気持ちわかるよ」
「そうか……なら、一緒だな」
心と龍護は少し顔を合わせて笑った。その光景はまるで夫婦のようで、さっきまでの空気は完全にどこかへ消え去っていた。




