第3章 第9話 覚悟の涙
「そう言えば、世界境界観測官ってどんな仕事なの?」
2人が生徒会室に向かっている時、ふと思い出したかのように莉音が聞いた。
「えっと、基本的には別世界軸からの侵略や干渉に対して派遣したり、今回のような世界の危機的状況でいち早く対応したりって感じですね。基本的には何も無くて様々な研究を部署関係なくやってるだけで、緊急時以外はこれといってやることは無いです」
「ふむふむ……その機関さ、終末戦争後に出来たでしょ?」
「確かそうだったはずです」
「なら、元アジア連合の人達もいるのかな?」
「何人かいたと思いますよ。でも、私は入ってから短いので、そこまで詳しくは……」
「そっか〜。ありがとね〜。また暇があったら顔出すかな〜」
生徒会室に着く寸前、ヤウィーは莉音の言葉にどこか引っ掛かりを感じつつも、気にする暇もなく生徒会室の扉が開かれた。
「お〜い朝だぞ〜!起きろ〜」
「うぅん……朝?」
「そう。朝というかもう昼くらいだけど」
「じゃああと1日……」
「甘えるんじゃない。あ、もっと寝たいなら永久の眠りをあげ」
「「それだけはやめろぉぉ!」」
生徒会室が悲鳴に揺れる。
「お?みんなちゃんと起きれるじゃん」
「心臓に悪い!」
「あはは〜。さて、寝起きのところ悪いけど、今から全員風呂に入ってサッパリして、ちゃんとご飯を食べてからここに来ること!時間は……今から2時間くらいかな。それじゃ、行ってらっしゃ〜い」
「「むちゃくちゃなぁぁ!!!」」
莉音が笑顔で告げると、寝ぼけた顔の全員が叫びながら走り出す。その光景を笑いながら、莉音はヤウィーに言った。
「さて、また2人だけの時間だね」
「そ、そうですね」
「それじゃ、答えを聞かせて欲しいな。私たちと一緒に戦うか。それともここにい続けるのか」
「わ……私は」
立ちっぱなしだと辛いから座ろう。と莉音にうながされて座るも、ヤウィーの頭の中ではずっと今日の夜の言葉が渦を巻いていた。
「いいよ。そのための2時間でもあるんだから」
「……はい」
ヤウィーは考え続けた。時間を忘れ、近くに自分を救った英雄がいることも忘れ、自分が世界境界観測官であることも忘れて。
そして、そろそろ2時間が経過しようとした時、ヤウィーは震えながら声を出した。
「たた……かいます。私も……世界を、背負い……たい」
「そっか」
莉音は、優しくヤウィーの頭を撫でた。
「よく頑張ったね。おめでとう」
「は、い……うっ…………うぅ……」
「いいよ。覚悟を決めるのは、辛いことだから」
音のなかった生徒会室に一人の少女の嗚咽が響く。少女の頬を伝う覚悟の涙は、温かかった。