第3章 第6話 戦争の傷痕
「欧州連合発見!直ちに避難せよ!」
うるさい警報音とともに焦りに染まった声が響く。その日、ヤウィーが住んでいた村に敵軍が攻めてきた。雲1つない、青い空の日だった。
「に、逃げろー!!」
「早くしないと……殺される!!」
「うわぁぁぁぁ!!!!」
村人がひとつの塊になって逃げる。小さな村だったせいもあり、近くにある鍾乳洞のような所に村人全員で避難した。
鍾乳洞は少し離れたところにあるため、村がどうなってるのかわからない。時間が経つにつれ、村人たちはソワソワし始めた。
「お、おい……」
そうしていると、偵察のために鍾乳洞の入口付近にいた村人が青ざめた顔で戻ってきた。
「どうした?!」
「む、村に一体何が……?!」
「皆……落ち着いて聞いてくれ」
全員でその人に群がったが、その人はガクガクと震え、目は絶望に染っていた。
「欧州連合が……こっちに向かってきている」
その言葉は、我々の終わりを告げていた。欧州連合は無差別に人を殺し、死者数はもう1万人に達しようとしていた。
「な、なん……だと?」
「もうダメだぁ……おしまいだぁ」
「くそっ!俺たちが一体何したってんだよ!」
「もう……死ぬのね」
大人たちが項垂れながら、迫り来る地獄から必死に現実逃避していた。村でたった1人の子供であったヤウィーは、現実が受け入れられずにぱちくりと目を見開いていた。
「ちょっと待て……向かってきてたってことは、もう……!」
「行くぞ。集団魔法火の陣『火炎舞』」
「……あっ!」
時すでに遅し。気づいた時には欧州連合のものと思われる魔法詠唱が聞こえてきた。
そして、瞬く間に炎が鍾乳洞内に広がった。体が小さかったこともあり、奥の小さな隙間に入ってヤウィーは助かったが、それ以外の人間は全て焼き爛れ、炭のようなものになってしまった。
「あ……あぁ…………」
「おや?1人だけ残ってしまいましたか」
「どうします?」
「殺しておこう。後々面倒なことになりそうだ」
中に入ってきた欧州連合の兵隊が、ヤウィーを見つけるなり剣を振り下ろそうとした。
刹那、閃光が走った。
「なっ?!」
「こいつは!早くげ……ぐわぁ!!」
「まず……ぐはっ!」
そして、一瞬の内に20人程度の隊が全滅させられていた。生暖かい血しぶきがヤウィーの頬に飛んだ。
「え……?」
「大丈夫?ごめんね。間に合わなかった」
「い、いえ……ありがとう、ございます」
「礼は大丈夫。立てる?」
目の前に立っていたのは年端も行かない少女で、真っ赤に染った体と、青く輝く髪の毛をしていた。ヤウィーは、その少女に鍾乳洞の外に連れて行ってもらった。
「ここから少し東に行ったら孤児院があるから、そこに向かって。この辺りにいた欧州連合は片付いてるから、焦らなくても大丈夫。それじゃ」
「あ、あの!助けていただき、ありがとうございます!宜しければ、名前を……!」
ヤウィーは気づいたら少女に名前を聞いていた。その少女は、振り返ってふっと笑った。
「私は莉音。黒崎 莉音。また会えたら運命かもね」




