第3章 第3話 割れた星空
「この世界を救ってください」
そう言って深々と頭を下げる少女は、地面に落ちる涙を拭おうとすらしなかった。ただただ莉音に頭を下げ、心の底から頼んでいた。
「はぁ……頭を上げて」
「……はい」
「ちょっと座ろっか。あそこにちょうどベンチがあるし」
莉音は少し離れた場所にあるベンチを指差し、ヤウィーの肩をポンポンと叩いた。
「よいしょっと。さ、ヤウィーも座って」
「し、失礼します」
「そんな固くならなくてもいいよ。そっか。君があの時人質にされてた女の子なんだね」
「はい……毎日が地獄、でした……」
「そっか。私ね、2年間ずっと考えてたの。私がしたことは正しいことだったんだろう?って。ずっと答えが出なかった。考えれば考えるほど、殺した相手しか頭に浮かばなくなる。絶望した顔。目の前に飛び散る血。その血の生暖かい温度……だから、私は間違ってたって思ってる」
莉音は、吐き出すように言った。将にも、苺にも、心にも、玲奈でさえも知らない、本当に誰も知らない英雄の葛藤。
「それで、玲奈に誘われてこの学園に来て……でも結局は間違ってたんだなって思った。私じゃ誰も救えてない。だから残らない。記憶にも、記録にも」
「それは……!」
「分かってる。考えすぎだって。でもね、無意識のうちに思っちゃうんだ。この国は私を……」
利用した。莉音がその言葉を言おうとした時、世界の空気が揺らいだ。いや、空気だけじゃない。世界全てが何かに呼応するように揺れた。
「な、何?!」
「はぁ……さすがに、今日来るとは思わなかったかな。何か用?ただ挨拶しに来ただけじゃ無さそうだけど?」
恐怖からかヤウィーは莉音にしがみついた。それを横目に、目の前の空間に向けて莉音が話しかける。
『やはりソナタだったか』
どこからか声が聞こえた。その声は重く、強く、響く。
「えぇ。何年かぶりの世界はどう?」
『少し、平和になったな。ソナタの仕業か?』
「さぁね。そもそも、あなたが私を向かわせたんでしょ?」
『確かにそうだが……だが、世界の根本は変わらん。この世界は、私利私欲にまみれている』
「否定はしない。けど、あなたの考えは極端すぎる」
空にヒビが入る。そのヒビはどんどん広がり、そして蜘蛛の巣のように細かくなり、そして割れた。
『なら、証明して見せよ。人類の力を、我々に』




