第3章 第1話 少女の正体
「神獣が......神獣が、目醒めました」
突然現れた少女の一言で、生徒会室にいたほとんどの人間が戦慄した。神獣が目醒めたという事実は、世界が終焉に向かっていくということに他ならなかった。
「とりあえず、わかった」
「じゃ、じゃあ......!」
「でも、私からも一ついい?」
少女をなだめながら、莉音は優しく呟くように冷徹な言葉を少女に突き刺した。
「それがどうかしたの?」
「......え?」
「だから、神獣が目醒めたんだよね。それで?」
目の前の少女がキョトンとした表情でいるのを見て、龍護が軽く笑いながら莉音に近づいた。よく見ると、莉音の腕の中で少女は小刻みに震えていた。
「ちょっと莉音。怖がってるぞ」
「え?でも普通のことじゃない?」
「いや、お前の普通は多分普通じゃないぞ。神獣なんて普通に生きてたら触れることのない存在だし、ましてやまともに戦おうなんて輩は馬鹿かお前くらいだぞ」
「え、そうなの?っていうか、今私に馬鹿って言った?」
「ちょっと待てそれは誤か......ってぎゃあああああああ!!!!」
空気が凍り付いた部屋の中に、龍護の悲鳴と微かな笑い声が響いた。もちろん、龍護も莉音も幼少期のノリでふざけているだけなので問題はない。
「ちょっと莉音、こんなところで剣を振り回さないでよ。というか楽しそうじゃない私も混ぜなさい!」
「ちょっ!?心は本気でやりかねないからストップ!ストーーップ!!!」
そんな中に謎テンションの心まで参加しようとし始めるものだから、状況はただただ悪化していくだけだった。それを見てため息をつきながら、苺は少女にそっと近づいた。
「大丈夫......?」
「え?あ、はい......あの、これって?」
「いつものこと」
「さ、騒がしいんですね」
「そうでもない......慣れたら、大丈夫」
無表情のまま、苺は少女と他愛もない話を始めた。少女は最初こそ怖気づいていたものの、苺の雰囲気に飲み込まれるように明るくなっていた。なお、その頃も龍護は心から全力で逃げていた。
「それで......さっきの莉音の言葉」
「え?あ、その......」
「落ち込まなくても......いいよ。それに、莉音は......うん。あの言葉の意味、わかる?」
「いえ、全く」
「そっか......」
苺はそう言うと、じっと少女の顔を覗き込んだ。
「オッドアイ」
「え?」
「この世界でそれは......」
目の前で心にヘッドロックされている龍護を見ながら、苺の代わりに莉音が答えた。
「魔力所有者のオッドアイは特殊事例。つまり、君がここに来た目的は私にただ事実を伝えに来ただけじゃない。合ってる?」
「あ、あはは......最初からお見通しだったんですね。莉音さん」
堪忍した様子で少女は莉音に向き直った。
「私は世界境界観測官のヤウィー・コウヴァニア。私は、ともに神獣と戦っていただける仲間を探しに来ました」
オッドアイの少女は、深々とお辞儀をした。無理難題とも思えるそのお願いを聞いて、その場にいた全員が目を見合わせて言った。
「とりあえず疲れたから寝ていい?」




