第3章 プロローグ
世界の深淵。それはかつて存在していたとされる者共が住まう場所。
そこで今、1体の獣が長い眠りから醒めた。獣は、ゆっくりと世界を見下ろし、そして確信する。
「この世界は、もう一度我らの手で正さねばならぬ」
と──
・・・
「あ、あの……!」
学園戦争後で全員で騒いでいる生徒会室に、突然幼い声が響いた。
「あ、えっと。その……」
全員の視線が声の主に集まる。タイミングがタイミングだったため、既に臨戦態勢の者も居た。
声の主は莉音くらいの体格の少女で、前髪が長く少し俯いていたため目元があまりよく見えない。だが、どこか慌てている様子だった。
「あはは……さすがに剣構えられたら怖いよね。玲奈は早くその物騒な物しまってしまって」
「むぅ……せっかく私の心の傷を埋めるためのサンドバッグが来たと思ったのに」
「八つ当たりかよ!?とりあえずここはあいつに任せておこうぜ」
莉音は怯えている少女の傍へ行き、優しく問いかけた。
「それで、どうしてここに来たの?」
「え、えっと……」
この時は誰も想定していなかった。少女がこの場所に来た理由の壮大さと果てしなさを。そして、もたらされる大いなる絶望も。
「さ、桜崎 莉音という方がここにいると……聞いて」
「ん?私?私がどうかしたの?」
「あの……私は、あなたにしか頼める方が居ないんです!お願いです!助けてください!」
少女は、目の前にいるのが莉音だとわかった途端、泣き出すかのように莉音の胸に飛び込んだ。そして、そっと顔を上げ、絶望に染まった声色で呟いた。
「神獣が……神獣が、目醒めました」




