第2章 第93話 皆崎vs龍護
「同じ魔剣が2本……不思議な光景ですね」
「呑気な事言ってられるのも今のうちだよ!」
「戦場に1番要らないものを今から教えてあげるよ」
2本の魔剣と1本の魔星剣が向かい合う戦場に、最早他の人間が立入る隙は無かった。
「いんや、その必要は無いと思うぜ」
この男以外には。
「ちょ!?龍護あんたは下がってなさいよ!ここはあんたがムグゥ」
「……大丈夫なの?」
「お陰様でな。あと、せめて心に最後まで言わせてやれ。なんか泣きそうな顔してるぞ」
龍護を押し戻そうとした心を無理矢理抑えている莉音に、半ば呆れた顔で龍護は言った。そこにはさっきまでの頼りない龍護はいなかった。
「なら大丈夫そうだね。よし、3人で皆崎を倒そう」
「むぅ……なんか納得いかないけど、莉音が信じるなら私も信じる。ただし!足引っ張ったら巻き込むから」
「おおっと……それはお厳しい」
「お話は終わりましたか?」
「そっちこそ、準備はいい?」
「もちろんですとも。では──」
刹那、皆崎の姿が消えた。皆崎が持つ魔星剣の能力は、相手が少人数であればあるほど厄介なものだった。
「──あなたから黄泉へ送って差し上げましょう」
「やっぱ俺からか」
「黒百合烏の力、舐めないでもらいたいね」
後ろにまわった皆崎は龍護に連続攻撃を仕掛けた。斬撃、刺突、蹴り……ありとあらゆる方向から飛んでくるそれらを、龍護は一切能力を使うことなく避け切った。それも、その場からほとんど動かずに。
「そんなもんか?」
「いいえ。正直あなたを見くびっていました。では、私も本気で行きましょう。魔星剣奥義──」
一度距離を取り、皆崎は魔星剣に魔力を流し込み始めた。ただでさえ禍々しかった右腕はより不気味さを増し、体の侵食が進んだ。
「なぁ、せっかくのとこ悪いんだが、今は俺に託してくれないか?」
「いいよ。心がなんと言おうと、私は君に託す。だからその後は、私達に託して」
「へっ、いいぜ。それに、これ以上なったら俺は無理だからな」
「え?何何?何か起こるの!?」
「それはあとのお楽しみ。それじゃあ龍護、頼んだよ」
「おう!」
莉音と心は戦線から1歩引いた。来るべき戦いに備えるために。
「──黄道十二星座の力を今ここに!蟹座解放!」
「また厄介そうなのを……仕方ねぇか。甲虫解放魔法第7門 尖灯門」
2人の男が立つ戦場で今、2つの大きな力がぶつかろうとしていた。




