第2章 第88話 小さな光
「あちゃ〜、これ私も戦わなきゃいけない感じじゃん」
目の前に広がっている一面氷の世界を見ながら莉音は呟いた。結界魔法によって4人がバラバラになることは防げたものの、現状戦うことができるのは莉音と龍護のみ。その上龍護はまだ戦うことのできる状態ではない。
「それにしてもあいつ、よくもまあこんな無茶なことやってるね。普通に死ぬじゃん」
第八魔剣の解放は、ある種起死回生の能力だ。が、いくら強力な能力にも必ず代償と呼ばれるものは存在している。特に魔剣は、その重みが尋常じゃない。おそらくジョンダーは、一人一人確実に仕留めるためにそれぞれの世界に飛ばしたのだろう。しんでも構わないという気持ちで。
「まったく、無謀なことを……」
何が何だかわからないといった顔をしている龍護をよそに、莉音は目の前に現れるであろう敵をじっと見据えていた。その目には一切の迷いも躊躇いもなく、ただ純粋な輝きがあった。
「莉音は、なんでそんなに楽しそうなの……」
「楽しくはないよ。ただ、必死なだけ。この世界に追いつけないようじゃ、世界を変えることなんてできやしないから」
莉音は、一切怖気付くことなく言った。ほとんど宣言のような感じで、少女は言った。
「やっぱり強いよ……俺なんかよりずっと」
「そんなことないさ。私は自分のことで精一杯だから。今回の戦いも、本当は全部私一人で片付けるつもりだったのに……実際はみんなに頼ってばかりだった」
「そんなことは……いや、そっか。莉音が持ってんのは、そういう強さなんだな」
龍護が消え入りそうな声でそう呟いた時、何もない空間から突然ジョンダーが飛び出してきた。それを真正面から受け止め、莉音は優しい声で言った。
「君はもう負けたんだ。往生際悪いっていうのと諦めが悪いっていうのを履き違えないことだね」
何も言葉は返ってこなかった。わずかな静寂が、その戦いの全てだった。
「君の剣は、脆すぎる」
「ん……はぁ!?なん、にが?!」
「君はその魔剣に選ばれたんじゃない。利用されたんだよ。まぁ、今更すぎるけどね」
バラバラになって崩れゆくジョンダーを見下ろしながら、莉音は言った。龍護には、その言葉の真意が全く理解できなかった。が、また莉音に頼ってしまったということだけがわかった。そして、それが何を意味しているのかということも。
「ねぇ龍護」
莉音は、無邪気に笑いながら言う。
「君は強いよ。私なんかよりもずっと。だから自信を持って。私は何があっても君の味方だよ!」
崩れゆく氷の世界。そこに確かに、小さな光が差していた。




