第2章 第80話 繋げること
「私、やったよ…莉音は、見てくれた?」
シェリーは背後で何かが落ちる音を聞きながら、そんなことを呟いた。その言葉が本当に莉音に伝わったのかは分からない。でも、愛剣を収めるシェリーの背中には、微かに莉音の面影があった。
「シェリー!大丈夫!?」
「え?」
心が焦った様子でシェリーの元に駆け寄った。シェリーはどうしてなのか理解出来ていなかったが、それ以外の誰もが事態の深刻さに気づいていた。
「あれ?体から力が抜け……て?」
「早く寝て!急がなきゃ!!」
心はシェリーを半ば強引に体を倒させると、治療魔法を使い始めた。抉られた左の脇腹を治療するために。
「な……にが?」
「もう喋らないで。避けきれなかったんだよ。正直、私も予想外だった。すれ違いざまにあそこまで肥大化するなんて……」
男からしたら幸運であり、シェリーからしたら不幸なことだ。男はシェリーに首をはねられる瞬間、魔力の使いすぎで暴走したのだ。暴走によって急激に肥大化、拡散した魔法は、僅かにシェリーの脇腹を抉っていった。
「ふぅ……とりあえず応急処置はできたよ。けど、まだ動かないでね。次の敵は私達で倒すから、莉音と苺と一緒に待っててね」
心は優しい笑顔でシェリーに言った。その言葉には、笑顔とは裏腹に固く強い意志が秘められていた。それはまるで、心自身への戒めでもあるようだった。
「心、ありがとうね……でも、皆崎は……」
「分かってる。だからこそだよ。だからこそ、今は私たちを信じてちゃんと休んでね。大丈夫。私、強いから」
「……うん」
その声を最後に、シェリーはそっと目を閉じ、柔らかな寝息を立て始めた。
「ねぇ、カール、龍護」
「ん?」
「どうかしたか?」
「今まで、3人とも強敵だったよね…でも、莉音も、苺も、シェリーも、真正面からぶち当たって相手を倒したよね」
心は2人の男に言った。それは戦えなかったことへの戒めでも、自分達への鼓舞でも無かった。
「3人が繋いでくれたから今がある。私たちの役目は、それを繋げること」
「あぁ、そうだな。さて、いっちょやってやるか」
「うし。腕がなるぜ」
心強い2人の言葉に、心は嬉しくなって笑いがこみ上げた。4人目……最後の刺客との戦いは、このもう少しあと。
皆さんお久しぶりです。
九十九 疾風です。
長らくお待たせ致しました。リアルが忙しさを増し、それに慣れることが出来ず更新が1ヶ月ほど止まってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。
これからは更新出来ると思うので、本作をよろしくお願いします。




