第2章 第75話 どうして?
「なんだなんだぁ?てっきり逃げたと思ったんだけどよぉ」
「まさか。あなたこそ、思いの外早いですね」
3人目の刺客は効力の範囲に入る寸前で止まり、まるでそこに罠があることを知っているかのように平然と話し始めた。
「それにしても、なにか仕掛けてくるかと思ったが……全員集合とはなんのつもりだ?」
「ちょうど次の作戦を考えていたところですよ。こちらは主戦力2人が戦闘不能なのでね」
「おいおい、まさか本当に何も仕掛けてないんだろうなぁ?」
「ええ。遠慮なく近づいてもらって結構」
「あぁそうかよ。じゃあ───」
相手が目の前から消えた。いや、正確には自分の懐に潜られる速度が早すぎて目がついていけなかった。
「遠慮なく行かせてもらう」
「いい速度だね。まぁ、莉音よりは全然遅いけど」
心は、相手の剣を難なく避けていた。まるで未来でも見ているかのように。地面に刺さったままの魔剣を抜くことなく、常に触れた状態で避け続けるその光景は、心が相手を弄んでいるようにしか見えなかった。
「クソ!なんで当たらない!」
「君、私たちを舐めてるでしょ。まぁ仕方ないか。私の剣のデータ持ってるの玲奈だけだし、ほか3人は新入りだし」
「はっ。そっちこそ俺を舐めてるんじゃねぇか?剣を地面に刺したままで戦いやがって」
「まぁ、そうだね。じゃあ、始めよっか。4対1だからってずるいとか言わないでよね」
「ふっ、戯言を」
心は魔剣を地面から抜いた。設置してあるトラップをそのままにして。
「ねぇ、莉音…………」
全員が剣を構え、突撃しようとした刹那。1人だけ莉音の名を呼ぶ者がいた。
「よし!行くよ!!」
「「おおー!!!」」
そんなこともいざ知らず、1人を除いた3人が刺客に立ち向かっていく。その背中を眺めながら、シェリーは泣きそうな声で呟いた。
「どうして私……戦えなくなっちゃったの?こんなに、弱くなっちゃったの…………?」




