第2章 第74話 雷電煉獄
「皆崎が……いるのか?」
「うん。空の上ってことしか分からないけど、でも確かに気配はあるよ」
誰も気にすることすら無かった場所を指し、心はひたすらに睨み続ける。それは神のような相手に対する抵抗とも取れれば、自分たちは今すぐにでもそこまでたどり着くことが出来るという宣戦布告とも取れる。
「我…魔剣に問う」
「おい、何する気だ?」
「そなたの力ならどこまで行ける……あの憎き男に届くか?」
心は剣先で天を指し、魔剣に魔力を送り始めた。
「今欲すは天穿つ雷光…我が魔力を以て顕現せよ」
魔剣がそれに呼応するかのように光り始める。本来、魔剣はそれ自体が生物と同義であるため、使用に魔力は必要としない。が、心の場合は少し特殊な事情があった。
「おいおい、ほんとに何する気だよ……」
「第3魔剣 雷電煉獄充填完了。解放!」
心の掛け声とともに刹那の光が遥か上空に向けて走った。そして、数刻遅れて耳をつんざく爆音が世界にこだました。
「ちっ……逃した」
再び訪れた静寂の中、渋い顔で心は悪態をついた。一撃必中の不意打ちのはずが、ただ自分たちの居場所を知らせるための信号になってしまった。
戦場において、奇襲の失敗は確実な隙となる。だから、獲物は引っかかる。そもそも、心は不意打ちが成功するとは微塵も思っていなかった。
「おい心、本当にどうするんだよ。今ので居場所が…」
「分かってる。だからいいの」
「はぁ?!居場所がバレることの何がいいって言うのさ」
「そっか。カールは知らないんだっけ。私の魔剣の能力」
心は自分たちが立っている場所の真ん中辺りに魔剣を突き刺した。
「さぁ!次の相手は、みんなで倒そう!」
徐々にひとつの気配が近づいてくる。奇襲の失敗を見ていた相手からしたら、このタイミングで攻撃を仕掛けることが最善であるから。だからこそ、それを心は利用した。さっきの苺と同じように。
「みんな備えて!」
背中から迫る気配を察知しながら、心は魔剣に手をかけた。そして今、3人目の刺客との戦いが始まる。




