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戦場に咲く赤き青薔薇  作者: 九十九疾風
第2章 白夜学園その②
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第2章 第72話 心の整理

  空高くまで届いた火柱を見ながら、苺は静かに泣いていた。これが、過去との戦いの結末だった。最後の瞬間、霧の中で男は無意識の内に焦っていた。逆に苺は、常に冷静に、そして冷酷になっていた。それがこの戦いの勝敗を分けた。


「………ねぇノア…これで、良かったんだよね……」


  苺は愛剣に話しかけた。でも、霧の方舟は何も応えてくれない。男が持っていた魔神剣は、苺の語りかけにちゃんと応えていた。時には笑い合い、時には喧嘩のようなこともした。その時が少し懐かしくなり、不思議と笑みが零れた。


「もう、終わったんだよね……方舟閉幕」


  いちごは涙を拭い、呟くようにそう言った。次第に雲は消え去り、最後に残ったのは苺と、たった1本の剣のみ。男の姿は跡形(あとかた)もなく消えていた。


「あ……れ?」


  大きな安堵感と底なしの虚無感に襲われ、苺は立っていられなくなって地面にぺたりと座り込んだ。


『久しぶりだな。見ない間に本当に強くなったな』

「え?……誰?」

『誰ってお主、儂のことをもう忘れたのか。仕方ない。今お前のほうに行ってやろう』


  その声とともに、苺の近くに1本の短剣が突き刺さった。禍々しい中にどこか妖艶さを孕んだそれは、苺もよく知る物だった。


「あ……うん。そう、だね。久しぶり。魔神剣さん」

『あぁ。本当に、時間はあまり経ってないと思っていたのだが…強くなったな。苺』

「ありがとう…あなたに言ってもらえるなんて、夢にも思わなかった」

『そろそろ頃合いだな。苺、儂を使わぬか?』

「え?でも……」

『言いたいことは分かる。が、苺は儂を持つに相応しい器になった。それ以外に理由は必要か?』


  実際、苺は迷っていた。ずっと一緒にいた魔神剣と再び一緒になれる。けど、それでは自分はこれ以上強くなれない。その二つの間で、苺はひたすら葛藤している。


「剣から直接頼んでくれてんだ。迷う必要なんてないんじゃねぇのか」

「り、龍護?!いつの間に?」

「ほんさっきだ。っておいおい、無理に立たなくてもいいよ。さすがに疲れただろ。お疲れさん。いい戦いだったぜ」

「あはは……じゃあ、背中貸して」

「お安い御用さ。さ、早く行こうぜ。みんな待ってる」

「うん」


  苺は目の前の魔神剣を引き抜き、どこからが出現した鞘に収めた。そして、龍護の背中に体を預けてみんなの元に向かっていく。


「ねぇ、龍護……」

「ん?どうした?」

「怖かった……辛かった…もう、ダメかと思った……」


  龍護はゆっくりと歩いた。苺が心を整理できるまでの時間を作るために。


「最初の鍔迫り合いの時、初めて……自分が戦ってる物を知った……」


  その暖かさが、苺の深い虚無感をすくい取り、それが声という形で溢れ出てきていた。それは、苺が初めて人に見せる、自分の弱いところだった。


「だから……怖かった。何度も、逃げ出したいと思った……でも、最後……どうしてかわからないけど、1歩、踏み出せたの……」


  龍護は何も言わず、苺の言葉を受け止め続けた。背中に感じる湿っぽい温もりを感じながら。


「それは多分、皆がいたから……皆のおかげで、私は過去に勝てた……だから、ありがとうって、みんなに伝えたい」

「うん、いいと思う。じゃあ、今から言いに行こっか」

「君は昔から優しいね……ありがとう、龍護。1番最初のありがとうは、君に贈るよ」


  荒廃した世界に2つの影が重なって歩く。それはまるで兄妹みたいで、とても明るく見えたという。






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