第2章 第70話 方舟の特性
白い灰が空に舞う。それはまるで雪のようでもあり、空から降り注ぐ世界の涙のようでもあった。
そんな世界で、2人の戦士が剣を交じわす。
「はぁ!」
苺が放った不可視の剣戟を男は危なげなく防ぐ。そしてすぐさま男が反撃し、苺が受ける。そんな一進一退ともとれる攻防が続く。それによって地面の灰が空に舞い上がり、お世辞にも綺麗とは言えない戦いを彩っている。
「お前、相当やるじゃねぇか」
「あなたもね。まるで効いてないようだけど?」
「まさか。これまで戦ってきたヤツらの中じゃトップクラスに手強いって思いながら戦ってる」
一瞬の鍔迫り合いのさなか、2人はまた言葉を交わす。そしてまた離れ、ぶつかり合う。意地と意地の張り合い。互いに泥臭く、ひたすら自分を納得させるために戦う。それはまるで、過去と戦っているかのように。
「『霧の方舟』よ──」
「こんな時に呪文なんて、舐めてるのか?それとも、ただの馬鹿なのか……どちらにせよ好きに変わりねぇ!ケリつけてやる!」
苺は僅か10メートルの距離から呪文を詠唱し始めた。どこからどう見ても自殺行為であり、男の剣が苺に降り注ぐ───
「世界を劈く雷鳴を宿せ」
「な、なんだこれは……ま、まさか!結界魔法!?」
───はずだった。本来苺に降り注ぐはずの魔神剣が、薄い結界によって一瞬止められたのだ。詠唱完了にはその一瞬だけで充分だった。
「『霧の方舟』第3形態」
詠唱完了と共に男の剣をかわし、もう一度距離を取った苺は、空にノア=ミストを掲げた。
「ちぃ。これを使われる前に仕留めたかったのにな…」
「もう……終わらせる」
剣から出た大量の水蒸気が空を覆い、やがてどす黒い雲になった。これが、世界にたった4本しかない『方舟』と呼ばれる剣の特性──環境操作だ。これを使われたが最後、環境に完全に適応できるまで劣勢を強いられる。
「行くよ……『霧』」
「始まったか…いいぜ。抗ってやるよ」
濃霧と呼ぶことが優しすぎるほどに濃い霧が空間を支配する。これで、苺以外誰も周囲の状況を理解できない。まずは視界を奪った。
そして主導権は約束されていたかのように苺にもたらされた。
「第2陣『雷』」
そして、雷鳴が戦場に轟いた。驚くほど静かな男はその中で、何を思っているのだろうか……




