第2章 第68話 殺された
「ふぅ……危なかったね」
何とか追いつかれる前に異空間結界魔法の中に入り込むことに成功した心達は、微かな休息を取ると共に作戦会議と莉音の状態確認を行うことにした。
「いやぁ、あそこまで気を張らなきゃならねぇ戦いは久しぶりだったぜ。それにしてもよ」
龍護が浅く切られた二の腕の治療をしながら、皆が気づくはずのないほど微かな違和感を指摘した。
「なぁ苺……お前、あの暗殺者と知り合いなのか?」
「はぁ……いつから?」
「さぁな。途中から不思議で仕方なかったんだよ。お前、戦いに参加しようとしてなかったろ。それに、暗殺者もお前はあまり狙っていなかった」
「じゃあ、教えてあげる。覚えてるかわからない、けど。私が孤児院から連れ出された時のこと。私、なんで連れ出されたか、分かる?」
心は、少し虚を突かれたような表情で苺を見た。苺と同じ孤児院にいた、心だけがその事実を知っていた。
「あのね、私は人質だったの。1つの魔神剣を鎮めるための」
「え?そんなことって……」
「うん……それで、私は1本の魔神剣を身篭った。正直辛かった。1年?かな。私が私でいられた時間」
ぽつりぽつりと苺が語る。誰も知らない、たった一人で抱えてきた物を。
「それからはほとんど覚えてない。その時の私は、もう死んでた……でも、今から二年前……あの日、あの人が私の前に現れた」
頷く者もいなければ、何か言葉を発しようとする者すらいなかった。静寂の中に一人の少女の声が微かに響く。
「2年前のあの日、私の心臓は1度貫かれた……痛みはなかったけど、目の前に真っ黒な血が広がった…その時私は、殺されたことを理解した」
殺された。そう言った苺は、少し笑ってその先は何も覚えてないけどねと言った。そして、ひとつの覚悟を持った目で皆に告げた。
「だから、私が一人でやる。これは、私の戦い」
それに対して、誰も何も言わなかった。そして、微かな休息は終わりを告げ、再び戦いの地に足を戻す。
「とても今更だけど………久しぶり」
そして始まる。苺の過去との戦いが───




