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第七話だ! ラッキーセブンだな! 俺のように!



 学び舎から学生寮までの帰り道を歩きながら、俺はひたすらにイラついていた。

 というのも、ここのところ空振りに終わる行動があまりに頻発する。


 アルテミス=アルタイルといい、イザベラ嬢といい、俺の思い通りにならない女がやけに多い。


 まるで俺の行動を先読みしているかのような逃げっぷりだ。

 まさか本当に予想されているんじゃないか? だが、俺の高尚な思考を予測することなどそうそうできることではない。となると、もっと別の形だ。

 そう、たとえば蟻にとって象の一歩が天地を揺るがす出来事であるように、俺という存在の一歩は奴らにはあまりにも偉大すぎるのかもしれない。

 故にこそ、目につく――!


「なんたることだ。俺の大いなる影響力がとどまることを知らんとは……!」


「あ、立ち直った? 思ったより早かったな」


 イザベラの不在に肩を怒らせていた俺だが、その不機嫌が収まったと見るやボッシュがいそいそと隣に戻ってくる。ずいぶんと現金な態度だが、寄らば大樹の陰。

 自分の器に自覚があるが故の行動だ。咎め立てはするまい。


「ご機嫌伺いまで気遣わせるほど傲慢ではないからな!」


「色々と唐突なのはいつものことだけど、今度はどうして急に上機嫌?」


「いつも通り、俺の偉大さに対して世界が小さすぎることを許してやっただけだ」


「……わかるように要約すると?」


「俺のでかさで世界がヤバい」


 ……俺の偉大さを語る場面のはずが、頭の悪い会話になった気がするのは気のせいか? おい、お前、こっち向け、弁解をしろ。


「――おい、大変だ、クラウス」


「そうだな! 俺を無視したことで、累積クラウスポイントに大きな打撃だぞ! あと10ポイントで降格処分でリーグ脱落だ、留意しろ」


「自分が何リーグに参戦してたのかも気になるけど、それは後回しだ。それよりもちゃんと見ろ。ほら、寮の前だ」


 ペナルティの通告も聞き流して、ボッシュがやけに俊敏に道の植え込みの陰に潜んだ。何をしているのかと思いながらも、さっと俺もその傍らにしゃがみ込む。

 隠れたはいいが、何が問題なのか。その疑問はすぐに晴れた。ボッシュの言う通り、寮の前で実に俺的にマズイ展開が進行している。


「アルタイルと……」

「ああ、女子だな」


 互いに限界まで引っ付きながら、俺とボッシュはその光景に釘付けになる。

 寮の前ではアルタイルと一人の女生徒が、何やらもごもご言葉を交わしていた。


 なぜ、寮の前でやる。

 お前らは何か甘酸っぱい行動を起こすとき、わざわざ人目につくような形でやらなきゃならない縛りでもあるのか。いや、それを言い出したいのは山々だが、隠れて行動を起こされていては見落としていてもおかしくなかった。

 ここは目の前の迂闊な二人に感謝しておくべきだろう。粗忽者どもが!


「で、だ。ボッシュ、お前にはどう見える」


「そうだな……あの女子がアルタイルに手紙を渡したように見えた。彼女のほっぺたが赤いのは、たぶん夕焼けのせいばかりじゃないな」


 詩文的な表現も交えて報告とはちょこざいな。

 だが、その見立てには俺も同意見だ。女生徒がアルタイルにぐいぐいと手紙を押し付けると、相変わらずの氷の仏頂面で奴が受け取った。

 そのまま何度も頭を下げて、女生徒は全力でその場から走り去る。おお、フォームはめちゃくちゃだがなかなか速い。乙女心の為せる業だろうか。


「オレは知らない顔だけど、クラウスは知ってるか?」


「見覚えのある顔ではないな。付き合いのある名家の同窓生であれば忘れようがない。つまりは木端貴族の出だろう。ファンクラブとは無関係……いや、ファンクラブに所属していても、抜け駆けを仕掛ける可能性は否定できんな」


「恋は戦争っていうもんな。それは女子も同じ……いや、クラウスもだったっけ」


 しみじみと哲学的なボッシュだが、そのセンチメンタリズムに付き合う暇はない。

 寮の前に残されたアルタイルは、受け取った手紙の表と裏を何度か確かめると、それを懐に仕舞ってさっさと寮の中に戻っていく。

 そのときの顔は普段通りの無表情――だが、俺には耳の裏まで真っ赤になっているのが見えたし、最後に右手と右足が同時に出ていたのも見逃していない。

 完全に動揺している。詰めの甘さは昔から同じだ。これはさすがにボッシュにも不審に思われるんじゃないかとハラハラする。


「さすがに慣れた態度だったな」


「……そう、だな」


 が、予想に反してボッシュはいっそ感心したようなことを言っていた。

 ひょっとすると、アルタイルをアルテミスと知らない俺以外の人間には、奴の行動に対してフィルターがかかっているのかもしれない。俺としては助かるが、あいつそれに頼りきりで学院生活送ってるんじゃないだろうな。

 そうなるとますます、俺の行動が先々の問題に対処する形になりそうだ。


「ボッシュ。お前はなんとかして、アルタイルが受け取った手紙の内容を確認しろ。手紙を回収することができればベストだが、そこまでは望まない」


「え? 突撃していって、目の前であの手紙を破り捨てるんじゃないのか?」


「そんな非道な真似ができるわけないだろうが……血も涙もない鬼か、お前」


 アルタイル=アルテミスと知っている俺からすれば、実に滑稽なすれ違いであると言えないこともない。だが、その事実を知らないとはいえ、一人の乙女が悩みながら懸命に書き綴った恋文かもしれないのだ。それに対してその行いはひどすぎるだろ。

 ラズベリー家の人間ですら思いつかない、まさに鬼畜外道――!


「やはりお前、汚れ仕事の似合う側近として最適な男になりそうだな」


「……微妙に納得いかないけど、クラウスのスタンスはとりあえずわかった。それで、オレが手紙をどうにかする間、そっちはどうするんだ?」


「決まっている。お前が手紙ならば、俺は送り主……今の女生徒を追いかける。その上できっちりと、その無益な願いの花を手折って引導を渡してやろう」


「引導って……そうだな、恋敵が悪かったな。可哀想に」


 あの女生徒に同情的なボッシュだが、事実を知れば俺を支持するだろうに。

 アルタイルが実はアルテミスである以上、女に懸想するあの女子の恋心はスタートの時点で終点に辿り着いている。ボッシュにはそれがわからないのだ。


 まぁ、アルタイルの秘密は俺が主席を奪うまで、誰にも話すつもりはないがな!



△▼△▼△▼△



 アルタイルへの手紙の確保をボッシュに任せて、俺は恋文を渡した女生徒を追いかけて走り出していた。


 王立貴族学院は、男女が学び舎を共にする共学形式だ。

 共同生活のコンセプトもまた男女共有したものであり、生徒用の学生寮はもちろん女子にも用意されている。学院の敷地内に、二棟の学生寮が建つ形だ。

 とはいえ、容易に行き来ができないよう、二つの寮は敷地内の対極の位置に建造されている。互いの寮の真ん中に学び舎がある形だ。貴族の子女を預かる学院だけに、各寮では異性の訪問に厳しい規制が課せられている。

 もっとも今しがたの出来事のように、寮の前や学び舎の中であれば接触自体は簡単なので、半ば形骸化しているような決まり事ではあったが。


 いずれにせよ、今の説明で俺が何を言いたかったのはわかるだろう。

 つまり、男子寮と女子寮はだいぶ遠いのだ。故に、


「ひ弱な女子の足に追いつくことなど造作もない!」


 などと俺が意気込む必要もないほど、目的の女生徒はあっさりと捕捉できた。とぼとぼと肩を落として歩いており、何やら声をかけるのが躊躇われる雰囲気だ。

 アルタイルの前からは実力以上の健脚を発揮したようだが、奴が見えなくなってすぐに失速したらしい。運動不足もたたったのか咳き込んだり、肩を上下させたり、もう見ていて単純に生命力の弱々しさを感じる。生物的に弱い感覚だ。


「だがそのわりに、ずいぶんと大胆な行動を起こしたものだな」


 目の前の女生徒の手渡した手紙、それが恋文であったとすれば一大決心のはず。

 相手は顔はいいが、愛想のなさで知られるアルタイルだ。家格の問題はないかもしれないが、主席の座にあることで俺にも目を付けられている。

 そのアルタイルと仮に『いい仲』になった場合、俺の目の敵にされるというデメリットも交際には付きまとうのだ。その覚悟があの女生徒にあるのか? もしもあったとしても耐え切る自信があるのか? 俺の大胆な陰湿さは容赦がないぞ。

 いや、そもそも女子と女子の交際は成立しないのだから、あの女生徒の覚悟の有無はこの際は関係ないのだが。

 色々と思うところはあるが、どれもなかなか推測の域を出ない。


「いずれにせよ、真意は本人から問い質せばいいだけの話だな」


 女生徒を捕捉したまま、俺は静かに彼女のあとを追い続ける。

 今は普通に通学路の道中、ここで呼び止めればよくも悪くも人目につく可能性が高い。それだとややこしいことになりかねないので、尋問は人気のない場所がベスト。


 息を殺し、尾行のために身につけた技術の粋を凝らす。

 踵からゆっくりと土を踏み、風に紛れて呼吸を隠す。この尾行術は実家で100人の暗殺者に手ほどきを受けた本格派だ。獣でもなければ今の俺を捉えきれまい。


 日は傾き、すでに夕刻も終わりそうな時間帯だ。西日の沈みかけの空には夜の訪れが垣間見えた。うっすらと世界が暗くなると、ただでさえ弱々しい女生徒の姿がぼやけてしまいそうでちょっとおっかない。そろそろ声をかける頃合いか。


「ひとまず、物陰に引きずり込んで肩と肘を極めればいいだろう」


 護身術の一つや二つは嗜んでいるだろうが、俺も護身術を破る体術を100人の柔術家から習得している。問題なく押さえ込むこともできる。抵抗された場合は骨の二、三本で大人しくさせて……いやいや、落ち着け、相手は女子だ。

 いかん、暗殺者ムーブのせいで思考がバイオレンスゾーンに入っていた。


「スマートに声をかけて誘えばいいか。壁に押し付けて、手でドンとかやると効果的と最近聞いたな。よし、それでいこう……む!」


 スマートでソフトな尋問を開始しようとした俺の目の前で、唐突に女生徒の細い体が横からかっとんでいってしまった。

 予想外の動きに思わず目を見張る。だが、俺の尾行に気付いた女生徒が眠れる獅子の血を覚醒させて逃亡を図ったわけではない。

 ちゃんと小さな悲鳴が聞こえた。出し抜かれたわけではない。


「だが、先を越された! 消されるか!?」


 しまった、悠長に構えすぎた!

 まさかアルタイル=アルテミスを知っている何者かが、俺と同じ目的で女生徒を口封じに消しにかかったのか!?

 いや、俺以外にアルタイルがアルテミスだと知っている人間がいるはずがない。知られていると困る! だから俺だけ! 俺だけの秘密!


「――で、首尾はどうでしたの?」


 慌てふためきそうになった心を素数で落ち着かせていると、そんな声が聞こえた。

 ちらっと声の方を見ると、それらしい雑木林が俺を手招きしている。

 女生徒が連れ込まれたのはそこだ。そして、どうやら彼女だけではないらしい。

 俺はひっそりと影に同化し、滑るような動きで林の中の様子をうかがった。


「ちゃんと目的は果たせましたかしら。ファンクラブの全員を出し抜いて……」


「そ、そんな言い方をされなくても……」


「結果が同じなら同じこと。あなたがどう言おうと、周囲はそう思いませんわ」


 そこでやり合っていたのは二人の女生徒だ。

 片方は俺が尾行していた、アルタイルに恋文を渡した地味めな印象の女生徒。

 そしてもう一人は、金色の巻き毛をしたスタイルのいい女生徒――見間違えるはずもないな。自己主張の強い髪型と、いるだけで発される本物の貴族の雰囲気。


 彼女こそ、アルタイルファンクラブの部長とされる、イザベラ・ホプキンス嬢だ。

 しかし、イザベラ嬢……最後に見たときと比べて、また一段と巻いたな! 前から主張の強い巻き毛だったが、今や巻きすぎて三面鬼面みたいになっている。

 ホプキンス家だとああするのがトレンドなのだろうか。謎だ。


「何を悔しげになさっていますの。それがあなたの選んだ道でしょう? そのことから目を逸らそうだなんて、都合がよすぎると思いませんの?」


「……っ」


「まったく、だんまりばっかり得意ですのね」


 泣きそうな顔の女生徒に、イザベラ嬢の言葉はなんだかとにかく棘がある。厳しい険しいキツイの3Kすぎて相手の女生徒が可哀想になってきた。

 勇気を出して恋文を出したのに、外野に殴りかかられてアレではあまりに不憫だ。


「本来、俺が擁護する義理など微塵もないのだが……」


 仕方ない。イザベラ嬢とも知らん仲ではない。このまま静観を続けて、逆上した女生徒にイザベラ嬢が刺されても事だ。証言台に立つ前に俺がとりなすとしよう。


「ええい、待て待て待てーい! その言い争い、俺が預かろう!」


「むむっ! 何者ですの! 立ち聞きとは品がありませんわね!」


 草をガサガサ言わせて顔を見せると、イザベラ嬢が威勢よく乗ってくる。

 俺はその反応に気を良くして、いっそ堂々と彼女らの前に姿を現した。

 途端、俺の正体に気付いたイザベラ嬢の顔つきが変わる。


「まあ。ラズベリー家のクラウス様ではございませんの。こんな時間にこんな場所で、いったいどうされましたの?」


「久しぶりだな、イザベラ嬢。学院に入る前、夜会で踊ったとき以来だ。挨拶が遅れて申し訳ないと思うが、その切り返しはいただけないぞ」


「それは……どういう意味でしょうかしら?」


「往生際の悪さはかえって自分の価値を下げるぞ。俺が偶然、この場所に居合わせたとは考えられまい。事情はわかっている。君と、こちらのご令嬢との関係もだ」


 イザベラ嬢と相対するように、俺は俯いていた女子の隣に並んだ。その肩に優しく触れてやると、弾かれたように女生徒が俺を見つめる。

 うむ、近くで見れば意外と見れる顔だ。ただし、今は涙で眦を赤くしているのがよくない。女は笑うべきだ。涙が武器などとたわけたことを抜かす輩もいるが、どうせなら涙より笑顔の方がよっぽど人を動かす力になるだろう。


「名誉あるホプキンス子爵のご令嬢が、こうして弱いものイジメなど優雅でないな」


「それを言うなら、クラウス様の立ち聞きだって褒められたものではありませんわ。このことはあくまで、わたくしとラーミアさんとの問題……殿方はご遠慮なさって」


「立ち聞きの無礼は詫びよう。神に愛された俺は耳すらも特別製なものでな。ついつい拾ってしまえば無視はできん。……か弱い女性の悲しげな声というものをな」


 言いながら、女生徒――ラーミアと呼ばれていたか。

 ラーミア嬢の手を取り、俺は軽く微笑んでみせる。するとラーミア嬢は頬を赤らめ、俺とイザベラ嬢のどちらを見ればいいのかわからない顔で俯いてしまった。


「……悪い殿方。そうやって何人の女性を泣かせてきましたのかしら」


「俺は自分の中の決め事に恥じないよう過ごすだけだ。常に本心と向き合って、な。そういう意味では、建前を押し出して他者を糾弾する行いの方がよほど醜い。イザベラ嬢もそうは思わないか」


「あなたという人はまったく……」


 俺の返事を聞いて、イザベラ嬢は怒るどころか気抜けした様子だ。

 付き合いもそれなりに長いので、このぐらいのやり取りならば挨拶代わり。イザベラ嬢はどこから出したのやら、扇子で口元を隠しながらラーミア嬢を睨む。

 翠の瞳に射抜かれて、ラーミア嬢の細い肩が震える。その震える肩をそっと支えてやると、震えが止まった。さすが俺。


「ふぅ……今日のところはクラウス様の顔を立てて差し上げますわ。ですけれど、またいずれちゃんとお話いたしましょう。では、クラウス様もごきげんよう」


 最後にはちゃんと微笑み、優雅なカーテシーを残してイザベラ嬢は立ち去る。

 去り際、扇子にあおがれて縦ロールがばっさばっさ揺れていた。そのまま雑木林に突入するので、引っかかりやしないかひやひやしたのだが、さすがに縦ロール慣れしている人間は違う。どうやってなのか、あっさりと木々の隙間を抜けて消えていった。


「あ、あの……その、ありがとうございました」


 イザベラ嬢の無意味に人を威嚇するシルエットが消えると、ようやく肩の力が抜けたラーミア嬢が俺に頭を下げてきた。

 うむ、素直に礼が言えることはいい。それに持ち直すのが早い。まだおどおどとした態度は残っているものの、目の前に立つのが俺とあっては仕方ない。

 俺を前に委縮するのは、これすなわち本能であるからだ。だから寛大に許そう。


「気にすることはない。改めて名乗らせていただく。俺はクラウス・ラズベリー。ラズベリー公爵家の嫡男にして、いずれ世界の全てを手にする男だ」


「……はい、存じております。あの、私はラーミア・トルリランです。トルリラン男爵家のもの、です」


 名乗ったラーミア嬢の声が小さくなる。気にしているのは借りの大きさ、よりは家柄の方か。自覚は大事だが、卑屈は別だ。


「家格に引け目を感じるな。一線を引くことは必要だし、上の立場を敬う姿勢を忘れてはならない。が、それで自分を卑下するのは違うぞ。家の格に見合ったものになれるかどうか、それは当人の生き方が決める。胸を張ればいい」


「……! は、はいっ」


 もちろん、公爵家の俺に平伏するのは止めないが、必要以上にへりくだられるのもそれはそれでけっこう嫌なものだ。話が進まないことが多くなるしな!

 程度がひどいとラズベリーの名を聞いただけで、「ひええ、ラズベリー!」となって震え上がり、会話が成立しなくなるものまでいる始末だ。嘆かわしい。


 で、ラーミア嬢だが俺の今の言葉に感銘を受けた様子だ。

 おまけにイザベラ嬢の3Kから救い出してやった救世主でもあるので、俺に向ける信頼の眼差しがすでにカンストして半端ない。

 これは話し合いを始めるにあたって、幸先のいい状態といえそうだ。


「本当に、助けていただいてありがとうございました。ですが、クラウス様はどうしてこのようなところに? お一人でくるようなところでは……」


 雑木林を見回して、ラーミア嬢は不安げに言葉を紡ぐ。

 まぁ、こんな暗がりの雑木林に単独で足を踏み入れるなんて、どう考えても悪いことをしようとしているとしか思えまい。不安がるのも当然だ。

 どれ、その不安を払拭してやろう。


「無論、こんな場所に用はない。あまり帰りが遅くなっても面倒をかけるから、単刀直入に話そう。俺が用があったのはラーミア嬢、あなただ」


「私に……ですか? その、なんでしょう?」


 可愛らしく首を傾げるラーミア嬢に、俺はさっさと本題を伝えることにした。


「――アルタイルにこれ以上近付くな」


 なんでだか、ラーミア嬢の顔が激烈に曇った。




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