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3/3

 そこからのライブは怒涛の連続であった――。


 それは、ライブが無事に進行し数曲を歌い上げた直後のことだった。


 サファイアが突如苦しみはじめたかと思うと、苦悶の表情を浮かべながら唸り始めたのだ――!!


『グッ、グウゥゥゥゥゥッ……!!』


「あっ!?いけないナリ!悪しき力が密集するこの場所の空気に充てられて、サファイアちゃんの聖剣の中に眠るかつての勇者:ロンズデーライト様の意思が目覚めようとしているナリ!!」


「た、大変!!遥か昔の魔王:イビル=コンニャクに敗れ去って復讐の化身と化したロンズデーライト様が目覚めたりしたら、せっかくの大航海ライブやこの世界が憎悪の嵐の前に台無しにされちゃうよ!!」


「ソンナ……ソレは一大事デス!!そうなれば、海だけでなく森も深刻な被害に遭ってサファイアが好きだったリンゴをあげる事が出来なくなってしまいマース!!」


「ふっ……そうさせないためにも、このファイブドロップという軍団レギオンの旗のもと全ての者達の力を結集し、呑み込まれそうになっているサファイアの心を救い出すのよ……!!」


 シオンの呼びかけに応じ、十万の軍勢が自分の全てを捧げようと両手(あるいは触手)を掲げ、張り裂けんくらいのありったけの大声でサファイアの名を叫ぶ――!!





『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!頑張れ、サファイア!!』





「絶対に呑み込まれるんじゃねーぞ!!」


「負ケタリシタラ、承知シナイ……!!」


「……ファイブドロップは、俺にとって絶対的な象徴であった帝国の旗を捨てさせるほどの気高き存在……その一員であるサファイア・サンライトという戦士アイドルが!!こんなところで終われるはずがないだろう……!!」


 集いし同士ファンの想いが届いたのか、サファイアの表情に活力が戻り始める――!!





「……アレッ?私、今どうしちゃってたの?」


「……良かった~!!サファイアちゃんがもとに戻ったナリ~~~!!」


「OK!無事、いつもの笑顔が眩しいサファイアがカムバックしましたネ~!」


「……フッ、この程度の事態など私の圧倒的な権能と会場に集いし軍団レギオンの力、更に私達の絆があれば、大した困難ではないわね……(まったく、心配させるんじゃないわよ……馬鹿)」


「まったく、シオンちゃんは素直じゃないな~!!とにかく、会場のみんな!サファイアちゃんを助けるために力を貸してくれてぇ~……あ~りがとね~~~!!」


『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!Yes, ma'am!!』


 キョトンとした表情のサファイアに喜びの涙を流しながら抱き着くハヅキ。


 クールに装いながらも隠し切れぬとばかりに上を向くシオン、そんな彼女達を微笑ましく見つめるフィオーレ。


 そして、そんなメンバーの気持ちを代弁するかのように皆に感謝の意を伝えるリディア。


 それぞれ形は違えど、互いに仲間を思いやる彼女達の心に触れ、観客もよりファイブドロップを応援する一幕であった――。









 それからしばらくして、今度はアップテンポな曲が始まるかと思われた――そのときである!!


 パァン!!という盛大な音と共に、花火がステージ上から発射される。


 沸き立つ会場だったが、花火と共に空中に巻き上げられたのは、ハヅキが退魔の武器として使っていそうな呪符の紙吹雪だった。


 それが何かを理解した瞬間、魔物を中心に会場が盛大にパニックに陥る――!!


「ヤ、ヤッパリ、ハヅキハ俺達ヲ成敗スルツモリダッタンダ!!」


「そのために、ライブを開きアイドルのフリまでしやがった、って言うのか!?……許せねぇ~、ブルマを履きながら三つ指ついて玄関先で俺を出迎えろ!!」


「ギュチチチチッ!!」


 そんな意見を皮切りに、会場内の至るところから


「ファイブドロップは裏切り者だったんだ!!」


「NO. 5 DROP!!」


「退魔師をメンバーに入れたのは、最初から間違いだったんだ!!」


 という憤怒や恐怖、失望や諦観が入り混じった観客達の悲鳴ともつかぬ声が響き渡る。


 だが、そのような喧騒もすぐにやむこととなった。


「イマぺー!!」


 戦闘員が指さす方へ、皆が一斉に視線を移す。


 そこに見えてきたモノは――。


「な、なんだアレは!?」


「空中に、ファイブドロップのみんなの姿が写ってやがるぜ!?」


 言葉の通り、空中に映し出されていたのはいくつものファイブドロップの姿だった。


 半透明ながらも、メンパ―の五人がそれぞれ様々なライブ衣装で踊る姿であり、一つの楽曲を同じ人間が別々の衣装、異なる表情で挑む姿はどこか幻想的な印象を抱かせるモノであった。


 それらはあれほど魔物達が恐れていた呪符から発せられている映像だった。


 彼らはあれだけ怯えていた事が嘘であったかのように、その光景に魅入っていた。


「……凄いな。この世界の退魔術とやらはこのような事にまで使えるのか……!!」


「……難しいことは分からねぇ、ただ一つだけ言えることは間違っていたのは俺達だってことだ!!ハヅキちゃん、疑って本当にゴメン!!……許されねぇのは分かっている。だが、俺は今度からブルマと決別して、スパッツを履きながら生きていくことにするぜ!!」


「ッ!!イ、イマぺぺッ!?」


 自分達を滅するはずの退魔術がもたらす優しき光景を前に、会場内の魔物達からハヅキへの贖罪と感謝の言葉が溢れ出していた。


「そうか……ファイブドロップは裏切ったりなんかしないんだ……馬鹿だな俺。こんな簡単な事に今更気づくなんて……」


「YES. 5 DROP!!」


「ハヅキちゃんがいなくちゃ、ファイブドロップは始まらねぇぜ!!」


 一部のお調子者の発言を受けて、会場内がドッ!!と笑いに包まれる。


 と、そんなときだった。


「オ、オイ!!コノ呪符、メンバーノ直筆サインガ入ッテヤガルゼ!?」


「な、何!?……本当じゃねーか!!は、早く拾い集めねぇと!」


「スマン、リディアちゃんの分が被ったから、誰かシオン様の分と交換してくれないか?」


 最高にアップテンポかつ派手な演出のライブをそっちのけで、メンバーのサイン入り呪符を躍起になって観客が拾い集める一幕もあった。









 そうこうしている内に楽しい時間はあっという間に過ぎ去り――。


「はい、というわけで……なんと、お別れの時間が来てしまいました!!」


 賑やかな一時の終わりを告げる、明朗快活がウリのリディアらしからぬ非情な宣言。


 その発言を聞き、会場中から信じられない!と言わんばかりに、驚天動地の声が上がる。


『エェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?』


 ライブが終わる事を悲観する声が鳴り響く。


 だが、事態はそれだけでは終わらなかった。


「ッ!!な、何だアレは!?」


「オイ!向こうからとんでもないのが迫ってくるぞ!!」


 それは、ここに集った十万の観客を遥かに超える群衆であった。


 男も女も大人も子供も老人も関係なく、一斉に押し寄せようとしていた。


 彼らは、戦乱から逃れジャティス本土へと租界しようとしていたはずのヤシマの民衆であった。


 自分達の故郷が奪われようとしている中、少数の者達にばかり全てを任せるなど許されない!!と義憤に駆られたのか、皆が皆鬼気迫る表情を顔に張り付けたまま、怒涛の勢いでこちらへ向かってくる――!!


 もしもこのまま互いの激突することになれば、これまでのファイブドロップのライブが意味を為さぬほどの凄惨な死闘の幕が開くこととなる。


 このまま何もしなければ、確実に悲劇の結末が訪れることとなる――そんな状況を、彼ら・・が許すはずがなかった。


「守るべき存在である民に刃を向けるのは本意ではないが……彼女達が紡いできた軌跡を、ここで途絶えさせるわけにはいかぬ!!」


「ハハッ、侵略者連合なんか屁でもないくらいの迫力じゃないか!!……けどさ、そんだけの気迫を出せるのならなおさら、その力を希望を潰すためなんかじゃない、祭りを盛大に盛り上げるためにでも振り絞りなッ!!!!」


 群衆の暴走を食い止めようと声を張り上げながら、ソウジロウとライカだった。


 相手はマトモな戦闘能力を持っていない一般人が大半とはいえ、圧倒的な数の暴力を伴なったこの行進の前に身を投げ出すなど無謀というほかないだろう。


 だが、最初からそれで立ち止まる彼らではない。


 彼らは不可能と思われた十万もの侵略者連合を相手に、各々が掲げる信念のもとに死力を尽くして自分達の活路を懸命に切り開いてきたのだ。


 例えそれ以上に絶望的な状況だろうと、挑み続けてきた彼らがここで諦めることなどあり得るはずもなかった。


「ふん、認めたくないが概ね同意だ。……これだけの哀れな子羊達が迷っているのだ、あのファイブドロップとかいう娘達に差し出して終わりという訳にもいくまい。この私が直々にお前達を導いてくれる……!!」


「……リオネス様達だけを危険に晒せない。例え貴方の言いつけに背くことになったとしても、ボクは自分の意思で道を決める……!!」


 ファイブドロップに被害を出させないように食い止めようと、ソウジロウ達に続いて躍り出るリオネスとリンネ。


 最早、回避不能な目前の距離にまで群衆は近づいてきていた……!!


「……ライカ殿。貴殿とは長い付き合いでゴザルが、拙者はライカ殿と出会う事が出来て、本当に良かったでゴザル!!」


「……へっ、何をしみったれた事言ってんだ、ソウジロウ。アタシらにはこれからだっていくらでも時間はあるんだ。……だから、さっさと終わらせるとするぞ!!」


 そう言いながらも未だかつてない事態を前にして震えるライカの肩に、そっ……と自身の手を乗せながらソウジロウが力強く頷く。


「……あぁ、そうでゴザルな、ライカ殿!!拙者達は必ず勝ち残ってみせるでゴザル!!」


「へへっ、あたぼうよ!!それでこそアンタはアタシの……頼れる相棒なんだからな!」


 互いに胸の内に宿した本心を言えぬまま、二人は死地へと赴く――。





「……あれだけ言ったにも関わらずここまでついてくるとは。まったく、とんだ不信心者だな。……ここまでついてきた以上貴様には、どれだけ凄惨な死を迎え野卑なる性に呑まれし大衆に辱めを受けることになろうとも、最後まで私達と命運を共にしてもらうぞ!!これは命令だ!」


「……うん、分かった。リオネス様」


 僅かな沈黙の後に、おもむろにリオネスが口を開く。


「……ふん、私の言いつけを破らなくて良いのか?」


「……何を優先して何を拒否するかは自分で決めるって言った。……だから、怖がらせようとしてもダメ。私は絶対に貴方の傍を離れない」


「……そうか、ならば好きにしろ」


 信仰に生きてきた彼らしくない感情の色を滲ませた声で、リオネスはリンネへと答える。


 リオネスにそう言わせてしまった事に罪悪感を覚えながらも、自分の決断は変わらないという意思を込めて無言で力強く頷くリンネ。


 ――今、審判の時が迫ろうとしていた。





 額に珠玉の汗を浮かべながら、懸命に感情を抑え込む四人の戦士達。


 ここから先は僅かな隙が命取り。


 鬼気迫る表情を浮かべた群衆が、一気になだれ込んでくる――!!





『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』





 それと同時に、最前線にいた者達の絶叫ともいえる魂の叫びが、ソウジロウ達の耳へと入ってくる――!!





「ヤッター!!もう駄目かと思ったけど、最後のアンコールには間に合いそうだッピ!!」


「よっしゃ~~~!!今からでも、ファイブドロップのみんなを応援するぞ!!」


 そんな掛け声に応じて周りからも『応ッ!!』と威勢のいい声が上がり始める。


 その様子を目の当たりにして、覚悟を決めたはずのソウジロウ達は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「……すまぬ、貴殿ら。ここに集ったのは、『少数の絶望的な戦況差にも関わらず、侵略者達に必死に抗っている者達がいるというのに、自分達が逃げてばかりいるわけにはいかぬ!!』と、義憤に駆られて立ち上がった誠心を旨とする者達ではないのでゴザルか?」


「へへっ、何言ってんだ兄ちゃん?……俺達は国境を越えて響き伝わる“ファイブドロップ”のみんなの魂を震わせる華麗な歌声を聴いて、居ても立っても居られずに、ここへ駆けつけてきただけだぜ!!」


「……それにこれだけの一大ビッグイベントに集まった多くの観客、アテら商人からしてみればこれ以上の稼ぎ時はありまへん!」


「そういう事だよ!!分かったのなら、アンタ達!そんなところに突っ立ってないで、さっさと退きな!」


 そんなオバさんの声を皮切りに、瞬く間に蹴散らされていくソウジロウ達四人の戦士達。


 侵略者連合・ヤシマ国民入り混じる1億人以上の観客による盛大な『アンコール!!』の掛け声を聞きながら、彼らはただただ圧巻される他なかった――。





「……まったく、さっさと終わらせると言ったけど、まさかこんなにあっさり解決されるとそれはそれで肩透かしだね……!!」


「良いではないか、ライカ殿。……そのおかげで、拙者らはこうして生きて新しい関係を築いていく事が出来る……!!」


「ッ!?ソウジロウ……!!あぁ、そうさね。それじゃあ、次のファイブドロップのライブまでに新しい家族を連れていけるように、今から頑張らないとな♡」


「あ、それは……流石にライブ会場に赤子は連れていけぬのではないかな……って、ライカ殿!?些か性急すぎるでゴザルよ!!」


 アンコールの合唱に紛れて、ソウジロウの悲鳴がかき消されていく――。





「……リオネス様。大勢の信者の人達をゲット出来たかもしれないのに、みんなファイブドロップに興味釘付けで残念だったね……」


 リオネスの横に並びながら、度重なるアンコールの果てに再びステージ上に現れたファイブドロップを静かに見つめるリンネ。


 対するリオネスは憮然とした表情のまま、つまらなさそうに隣の少女へと返答する。


「……ふん、その割にどことなく嬉しそうではないか。信仰に生きる者が吹聴したほどの結果を出せなかった姿を見るのは、さぞや楽しかろうな?」


 そう口にしてから、気づいたように苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリオネス。


 だが、リンネの表情は心なしか明るい。


「……うん、楽しい。信仰の話とかはよく分からないけど、いつもみたいに後ろについていく形じゃなくて、リオネス様と並んで一緒の気持ちを分け合いっこしている感じがするから……」


 だけど、とリンネは言葉を続ける。


「……こうしていると、みんながライブに夢中になっている隙に、今だけ私がリオネス様の事をこっそり独り占めしているみたい……こんな風に思うのも、私が盗賊だからかな?」


「……何を言いだすのかと思えばくだらんな。この程度の事が罪深いだと?……笑わせる。お前は私からそれ以上のモノを奪い去っている、と何故分からない……」


 ぶっきらぼうながらも、彼にしては珍しい羞恥の色を顔に浮かべながらそう答えるリオネス。


 そんな彼の様子をジッ……と興味深そうに見つめるリンネ。


「……それって、私がリオネス様にお返し出来るモノ、なの?……どうしたら、良いのかな?」


「ふん、真に悔い改める気があると言うのなら、贖罪の証としてその秘伝の回復薬とやらを私の傍で作り続けろ!!……丁度良い、このライブとやらの激しさで喉も乾いてきた事だ。せっかくだし、さっきの差し出した分を飲ませてもらうとしよう……!!」


 何か吹っ切れたような顔をしたリオネス。


 それとは別に、今度はリンネが彼女らしからぬ慌てた表情でたじろぐ番だった。


「リ、リオネス様の傍でこれを作り続けるとか……私、お母さんからあの製造法しか聞いてないのに……!!リオネス様。もしかして、私がこの回復薬を作っているところを見てたの……?」


 リンネは盗賊の父とマンドラゴラの母の間に生まれた異端児だった。


 そのため、彼女の体液はマンドラゴラ譲りの滋養強壮に優れた万能薬ともいえる効能を秘めていたのだ。


 リオネスはそんな彼女の回復薬の作り方を、以前に意図せず目撃してしまったのだが、最早神に縋るまでもなく、気持ちに決心がついたらしい。


 ある種ふてぶてしいともいえる様子で、彼らしからぬわざとらしい演技を始める。


「ククッ、さてな。……だが、どうする?お前が迷っている間に、今もこうして哀れにも目前の敬虔な信徒が飲み物に飢える事態となっているぞ?」


「……まったく、神に仕える立派な人のはずなのに、嘘をつくうえに自身の行いを信仰で正当化しようとするなんてダメダメです……そんなんじゃ、盗賊に大事なモノを盗まれても仕方ないかもしれないですね」


「ふん、これで分かっただろう?……神官やら盗賊として生きようと、どうやら私達は大差ない存在であるらしい……そうは思わないか、リンネ?」


「……対等、っていうのなら、与えられたのなら必ずどこかでお返しをしなくてはいけませんね……分かりました。これで良ければ差し上げます……受け取ってください。リオネス、さん……!!」


 そう言いながら、先程は与えられなかった自家製の回復薬をほのかにはにかみながら、リオネスに差し出すリンネ。


 二人にとって、あたかもライブの眩い照明や音響が、まるで自分達を祝福するモノであるかのように感じられていた――。









「いや~、ファイブドロップのライブは本当に最高だったな!!これで来年まで生き残るための活力を得られたぜ!!」


「そうですよね~。途中色々ハプニングがあったりしたけど、それを上手く笑いにつなげるフィオーレ姐さん流石!って、感じでしたね!……何にせよ、侵略活動なんかしてる場合じゃない!!と他の地域の同士にも急いでこのライブの素晴らしさを布教する必要が出てきましたぞ!!」


 ライブの素晴らしさを語るために、これまでの片言や一律化した叫び声をやめて流暢に話し出すオークや戦闘員達。


「はい、お待たせいたしました。こちらコミチキです!」


「キシャ~~~ッ♡(ようやく、買えたぞ!)」


 即座に商店を開いて、侵略者達を相手に商売を行うヤシマの者達。


 異様な熱気が冷めやらぬ中、ライブの余韻に浸るかのように辺りには種族や立場を超えた交流が見られるようになっていた。


 そんな中、突如として空中に巨大な映像が映し出される。


 ざわつく1億人以上の観衆。


 一瞬映像にノイズが走ったかと思うと、そこに一人のローブを纏った邪竜人族の老人の顔が映し出された。





『初めまして、の者もおるかもしれぬな。……私の名前は、カオス。恥ずかしながら“大魔導士”などと呼ばれておる者だよ……!!』





 大掛かりな魔導術式を介して姿を見せた大魔導士:カオスを見て、周囲に動揺が走る。


 ソウジロウ達が持つ究極の宝具:聖光武具セイント・ウェポンの開発にも大きく関わり、この大陸で生きる者にとって知らぬ者はいないとされる伝説的な人物である。


そんな彼が、魔術式越しとはいえこの場に現れた意図とは一体何なのか……。


 未だにざわつく聴衆を尻目に、カオスが言葉を続ける。


『……ここに集いし者達よ。実は私は大魔導士というこの世界の趨勢を見極める者としての責務を果たすために、何かとてつもない異変が起こりつつあったこの地の情景を魔術式を介して観察していたのだよ……!!』



「……意外。カオス様って、ライブビューイング勢だったんだ……」


「次のライブは現地に合流出来たら、もっと楽しんでもらえるだろうな~」


 カオスの発言を受けた者達がそれぞれの反応を見せる。


『その結果、貴殿らが考える通り私は彼女達“ファイブドロップ”の圧巻のパフォーマンスに心打たれたのだよ!!……それと同時に、このような素晴らしい輝きを見せた彼女達を前に、恐ろしい罪悪を抱えた己自身の醜悪さというモノを深く恥じ入ることになったのだ……!!』


「ざ、罪悪……?カオス殿は一体、どのような罪を犯したというのでゴザルか!?」


「分からん……とにかくイモザムライよ、告解するモノの意思を妨げるのは感心せんな……!!」


 映像を眺める全ての者が、緊張した面持ちのまま固唾をのんでカオスの様子を見守っていた。


 そんな彼らに応えるかのように、意を決したカオスが驚愕の事実を告げる――!!


『……実は私とジャスティス王国の上層部は、レイジラ・ネオングという他の二国を出し抜き、ジャティス王国をこの大陸唯一の覇権国家にしようと画策していたのだ』


「ジャスティスを……大陸唯一の覇権国家に?」


 カオスの発言を受けてざわつく聴衆。


 確かにこの三国は長い間均衡を保ってきたのだが、それを出し抜くために一体どのような試みが為されようとしていたのだろうか。


『……自国だけでこの二国を相手にするには、流石に国力が足りぬ。かと言って、己の力を使わず二国を争わせ漁夫の利を狙おうにも、長年相手取ってきただけに互いの手の内を読み切っているために姦計が通じる隙もない。……そこで私やジャスティス上層部は、これまでのトリニティ大陸に表立って出る事がなかった、“不確定要素イレギュラー”を生み出し、これらをレイジラ・ネオングにぶつけて彼らの影響力を削ぎ落そうと考えたのだ……!!』


「……う、嘘だろ!?それって滅茶苦茶ヤバイことじゃないのか!!」


「……それよりも、“不確定要素イレギュラー”ってまさか……!?」


 皆の反応が聞こえているのか、神妙な顔つきをしながらカオスが頷く。


『……皆が思っている通り、ジャスティス王国の持つ科学力と私の持つ優れた魔導術を組み合わせ、共同で大掛かりな計画プロジェクトを起ち上げた……実験として妖魔蟲を強化したり、深海魚や野良オーク達に知性を与え進化を促そうと試みた。……だが、当初の彼らはそれまでに私達が費やした技術力や費用、時間に見合うような成果を出せる存在とは言い難く、期待外れと言わざるを得なかった……』


『そのうえ、開発者の人員の中から私達のやり方に異を唱える者が現れたかと思うと、技術の一部を盗み出して自身の理想を達成するための悪の組織を起ち上げる者まで出始める始末。……結果を焦った当時の私達は、自分達で都合の良い生物を作り出すのではなく、外部から驚異的な技術力を持った勢力を呼び出し、それをレイジラとネオングの二国にぶつけるという計画に切り替えることにしたのだ』


 そのような意図で行われたのが、時空間の扉をこじ開け異界の者達を呼び込む実験だった。


 そして、その結果――20年前、異世界からやってきた“帝国”がこの世界に覇を唱えることとなったのである。


『……そして、帝国が私達の予想以上に強大だったため、凄まじい勢いで大陸に進出した結果、その対応に追われている間に当初の実験体である魔物達も私達が予期せぬ速度で急激に進化し続け、悪の組織も勢力を伸ばすこととなったのだ。……この世界で生きる者達にとって、償い切れぬ過ちを私達は犯した。……この世界に生きる者にとって何の償いにもならないかもしれないが、本当に申し訳なかった……!!』


 深々と謝罪の意を示す大魔導士:カオス。


 それを黙して聞きながらも、この場に集った全員が衝撃のあまり二の句を告げられずにいた。





 ――かくして、大興奮の内に始まり終わったはずの“ファイブドロップ1st LIVE!!”は、最後の最後に衝撃的な爆弾を残して、幕を引いたのである。









 鮮烈かつ衝撃的なライブから1ヵ月後。


 世界は目まぐるしく変化していた。


 大魔導士:カオスの暴露によって、ジャスティス王国の上層部はレイジラ・ネオングの両国を中心に激しく糾弾される事態に発展していた。


 ジャスティス上層部は文書を改竄したりして何とか誤魔化そうと躍起になっていたが、カオスの告発を皮切りに次々出てくる証拠を前に、最早体制は風前の灯と化していた。


 そうこうしている間にも、大陸の他の地域は今も侵略者達の猛威に曝されていた。


 ――だが、悪いことばかりではない。


 ジャスティス国内では、これまでのジャスティスの科学力一辺倒な政策を辞め、危険も覚悟で恐ろしい陰謀を告発したカオスを見習って、彼が扱う魔導術を筆頭に様々なモノを取り入れよう、という考え方が根付き始めていた。


 また、侵略者連合側でも、あの日、ヤシマに侵攻しそこでファイブドロップのライブに感銘を受けた者達がみな武装を一斉に放棄し侵略者連合から独立、他の地域のに侵略者達を停戦させ、彼らにファイブドロップの良さを伝えよう!という動きが出始めていたのだ。


 レイジラやネオングといった他国との一触即発な近況は予断を全く許さないが、それでも未来は明るい。


 何故なら、一年が経てば彼らは必ずまた“ファイブドロップ”に出会う事が出来るのだから……!!





「今日も元気に~……か、かしこまり!」


「見果てぬ大航海ライブの果てを目指しちゃうぞ~!!……全力・全開・スパルタクス!!」


「どんな運命だって太極的にへっちゃら!オラ達には未来があるナリ~~~!!」


「次のライブは今まで以上にダイナミックに、みんなの心を射抜いてみせマ~~~ッス!!」


「ふっ……此方の永久刻印が疼いているわ……どうやら、私達の邂逅の時は近いようね……!!」





 頑張れ、ファイブドロップ、めげるな、ファイブドロップ。


 次のライブで出会えるそのときまで、彼女達の挑戦は続く――!!





 ~~fin~


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