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トリニティ大陸に三つの強国あり。


圧倒的な技術力のもと、多くの国々を併合してきた科学王国:ジャスティス。


国民の9割が暴走族という愚連隊国家:レイジラ。


そして、路地裏で異能を研ぎ澄ませてきた少年少女達が猛威を振るう特異国家:ネオング。


これら三国は覇権を競いながらも微妙な均衡を保ってきた結果、トリニティ大陸には長き平穏が訪れていた。


だが、20年前に突如出現した侵略者達によってその均衡は脆くも崩れ去ろうとしていた。


侵略者達の強大な力と圧倒的な物量の前に為す術もなく蹂躙されていく三大国家。


トリニティ大陸全土に諦念の空気が色濃くなる中、現状を打破するべく希望を胸に立ち上がる者達がいた。


――今、大陸の趨勢を賭けた決死の攻防戦が始まる――!!









 科学王国ジャスティス領:ヤシマ。


 現在この地は侵略者達の猛攻によって、風前の灯となっていた。


「ハァハァ……おのれ、覚悟はしていたがよもやこれほどとは……!!」


「……ソウジロウ、弱音なんか吐いてる場合じゃないよ!!どうやら敵さんはまだまだ遊び足りないみたいだってさ……!」


 刀を構えた侍の青年に対して、爪を研ぎ澄ませた人狼の女戦士が額から血を流しながらも不敵な笑みを浮かべて呼びかける。


 息も絶え絶えになり身体の至るところに生々しい傷跡を残している事からも満身創痍であることは明らかだが、彼らにとって倒れるわけにはいかない理由が眼前に広がっていた。


 現在この場所には、女性を苗床に繁殖する蟲型の妖魔や知性を得て陸上にまで生存圏を広げようと目論む深海魚人の勢力、更には深い森の奥から出て人里に略奪しに来たオークの軍勢や世界を闇に染め上げようとする悪の組織だけでなく、異世界から突如この大陸にやってきた帝国の兵士達まで加わった膨大な数の連合軍がギッシリと押し寄せていた。


 妖魔蟲:五万匹、深海魚人:一万体、オーク:二万体、悪の戦闘員:五千名、異世界帝国兵:一万五千名……合計十万にも及ぶ膨大な兵力を前に、このヤシマは存亡の危機を迎えようとしていた。


 だが、ソウジロウという名前の青年は、この絶望的な状況ですら切り抜けられるといわんばかりに、覇気を込めて傍らの人狼女戦士に言葉を返す。


「……侮ってくれるなよ、ライカ殿。このヤシマの未来を担う者達や戦えぬ者達がジャティスの本国に無事逃げ切るまで、我が刃と意思が折れる事はないと心得えられよ……!!」


「……ソウジロウ」


 己の命を燃やし尽くしてまで、他の多くの人々を救うために戦う事を決意したソウジロウの悲壮な覚悟。


 そんなソウジロウに対して、単なる仲間の枠を超えた強いつながりを感じさせる眼差しでライカは彼を見つめていた…次の瞬間!!


「キシャ―ッ!!」


 巨大なワーム型をした妖魔蟲が2人に襲い掛かる――!!


「ッ!?……クッ、このぉっ!!」


「ライカ殿!!」


 慌てて迎撃しようとするモノの、牙が立ち並ぶワームの口が2人を呑み込もうとする勢いの方が早い。


 絶対絶命かと思われた――そのときである!!





「ふん、相変わらず異教徒の割に骨はあるようだが……まだ脇が甘いな!!」





 一閃、瞬く間に一筋の軌跡が巨大ワームを刺し貫いていた。


「ギシャー!!」


 妖魔蟲がのたうち回りながら後退していく。


 振り落とされそうになりながらも、その身体から自前の長槍を素早く抜き去った神官兵の青年が颯爽とソウジロウの近くへと降り立つ。


かたじけない、リオネス殿。おかげで拙者もライカ殿も危機を脱する事が出来た」


「……礼は言っておくわ。ありがとう」


 謝意を述べる2人だったが、それに対しても憮然とした表情を崩さないままリオネスは逃げていった敵を見据えていた。


「ふん、異教徒と異種族に感謝されるなど異端の誹りを受けてもおかしくない不名誉だ。……我が不信心もここに極まれり、と言えるやもしれんな」


「……何だとぉ~!!人が下手に出てれば良い気になって!」


「落ち着かれよ、ライカ殿。リオネス殿は自身にとって不名誉となる事が分かっていながら拙者達を助けてくれたのだ。そう突っかかるものではない」


「でも……」


 リオネスの憎々しい嫌味に対して激昂したライカを諫めるソウジロウ。


 その言葉を受けて落ち着きを取り戻したライカだったが、今度はリオネスがバツの悪そうな表情を浮かべることとなった。


「フン!サムライとやらは刀よりも弁舌を振るうことが得意な輩のようだな。……せめて私だけは歴然たる武威によって真たる行いを証明したかったものだが、まさか、この神槍ですら妖魔蟲一匹を殺めることが出来んとはな……!!」



「……敵は単なる妖魔じゃない。何者かの力によって強化されている。……リオネス様」


 忌々し気に呟くリオネスのもとに、小柄な盗賊シーフの少女が忽然と姿を現した。


 この場にいた三人の若者はみな歴戦の戦士だったので、盗賊の少女の接近自体には気づいていたのだが、それよりも彼女の発した言葉を受けて驚愕の表情を浮かべていた。


「……リンネちゃん、それってどういう事?強化されているって一体誰の手によって?」


「説明は後。まずはみんな怪我の治療が先……」


 そう言って、リンネがソウジロウとライカに回復ポーションを手渡す。


 そして、リオネスにも渡すのかと思われたが、彼女は「あぁ、うっかり……」と感情のん起伏がない声でそう応えながら、淡々と言葉を続ける。


「……リオネス様にもポーションを渡したかったけど、2人に渡した分でなくなってしまった。……こうなったら、私特製:秘伝の回復薬をリオネス様に使ってもらうしかない……!!」


 リンネがゴソゴソと何やら液体らしきモノが入った瓶を取り出す。


 それを見た瞬間、リオネスの顔色が目に見えて青くなっていた。


「ッ!!クッ、卑しい盗賊風情が私に変なモノを飲ませようとするなッ!!」


 その様子を見て、ライカが再び憤慨する。


「ちょっと!心配してくれたリンネちゃんに対してその言い方はないだろ!!第一、アンタは以前まで『この薬はそこいらのポーションよりも効き目があるな……!!』とかベタ褒めしていたくせに、何でそんな風に拒否するようになっちまったんだよ!?」


「そうでゴザルな。リンネ殿はポーションを切らしてしまったときでも、リオネス殿には毎度その妙薬を残しておられたように思える。……異教徒とやらである拙者や衝突する事が多いライカ殿はともかく、そういった気配りをしてくれるリンネ殿にそのような態度をするのは些か関心出来ぬぞ、リオネス殿」


「クッ……貴様らは、この薬がどうやって作られたのか知らぬから……とにかく、盗賊!さっさと先程言いかけた事の説明をしろ!!」


 2人が溜飲下がらぬ様子でリオネスを問い詰めていたが、彼に促される形で話を始めようとするリンネを前に、場は一旦落ち着きを取り戻した。


「了解しました、リオネス様。……近年猛威を振るう妖魔蟲達はこれまでと違って桁違いに強くなっており、私が独自に調べただけでも不自然なほど人為的に手を加えられた痕跡が見つかっている」


「人為的……となると、20年前に突如この世界に出現したとかいう帝国、とやらの仕業か?」


「断定は出来ないけれど、その可能性は高い……ただ、確信を持って言えるのは妖魔蟲を強化した存在はそれだけじゃなく、深海魚や野良オーク達に知性を与え進化を促した上に、悪の組織を生み出すほどの驚異的な技術力を持った勢力であることは間違いない……!」


「ッ!?なっ、リンネ殿!それではこの大軍勢が偶然などではなく、たった一つの勢力の作為のもとに生み出された、と申されるのか!?」


 驚きの声を上げるソウジロウ。


 だが、冷や汗を流しつつもリオネスがリンネの発言へと同意を示していた。


「確かに普通ならば馬鹿げた戯言と一笑に付すところだが……これだけの種族や思惑が違う勢力が統率された動きで大規模かつ高度な侵攻作戦を行っている以上、裏でそれらを操る何者かが潜んでいる……と考えるのが自然だな」


「……そ、そんなまさか」


 衝撃的な推論を前に、ライカが思わず絶句する。


 だが、彼らが考察出来るのもここまでだった。


「グフフッ、オシャベリハ、スンダカナ……戦士タチヨ?」


「そうだ、そうだ!!海底から這い上がってきた俺様達による圧倒的な下剋上フ〇ックの前に屈服しろ!お前達陸上生物の存在価値などこの世界にブルマをもたらした事のみだという事をその身に刻み込んでくれるわ!」


 四人が話し込んでいる内に、気づけば予想以上に敵の接近を許す事態になっていた。


 片言で離す大柄のオークやブルマを履いた屈強な深海魚人を前にして、一同に緊張が走る――!!


「クッ……野蛮な連中が調子に乗ってくれるじゃないか!だけど、私達にとっておきのコレ・・がある事を忘れてもらっちゃ困るね!!」


 そんなライカの呼びかけに呼応するように、ソウジロウ達がそれぞれの武器を構えて侵略者達に対峙する。


 これらの武器こそが、一騎当千の能力を秘めた奇跡の宝具:聖光武具セイント・ウェポンである――!!


これらは、ジャティス王国が誇る天才科学者:コスモスとヤシマの大魔導士:カオスの両名が互いの科学力と魔術の粋を集め資産家のネルトン氏の潤沢な支援のもと、長い年月と膨大な費用の果てに生み出された強大な武器である。



 科学と魔術の粋を集めて作り出されたこれらの宝具は、並みの武器では到底及ぶことのない性能を秘めているが……その分、代償も大きかった。


「クククッ!!強大な武器を持っていたところで、たったの四人で我等十万もの軍勢をどうにか出来ると本当に思っているのか!?」


「イ~マぺ~!!www」


 帝国兵が嘲りの言葉を投げかけ、悪の戦闘員が盛大に高笑いする。


 そう、この場には侵略者十万に対して、たったの四名しか立ち向かう者がいないのである。


 聖光武具セイント・ウェポンは強大かつ高性能な分、現在のジャティスの技術力では到底量産する事が出来ない代物だった。


 そこでヤシマの上層部はジャティス本国からの指示のもと、今だ打つ手がない侵略者達に対して総力戦を挑むために『質よりも量』という方針により、ヤシマ国民を全て本国に租界させそこで敵を迎撃する策を取ることにしたのだ。


 国民達が租界するための時間稼ぎとして、言うなればソウジロウ達は捨て石にされた形であった。


 現在は何とか侵略者達を足止めする事が出来ているものの、リオネスの聖光武具セイント・ウェポンを用いた槍術をしても妖魔蟲を一匹も倒せていないことからも分かる通り、戦況は完全にソウジロウ達に不利であった。


(今は辛うじて均衡を保っているが……もし僅かでも天の采配が傾けば、こちらが敗北する!!)


 例えば、現在このヤシマを侵攻しているような下級な兵力だけではなく、三大国の主要都市を攻めている独自の閉鎖空間を生み出す高位の妖魔蟲や深海から這い上がる邪神、『ベヒモス』の異名を誇る怪獣級オークや改造手術の末に生み出された戦闘怪人、そして『絶対恩寵チート』という圧倒的な権能を保持する帝国の将軍のどれか一体、もしくは誰か一人でもこの戦場に現れた時点で、自分達の奮闘は無意味なモノと成り下がる事を4人の戦士達は自覚していた。


 かと言ってこの場を覆す決定打などあるはずもなく、このままでは絶望的なまでの物量差で侵略者達に押し切られることになるのは、火を見るよりも明らかだった。


(クッ……しかし、これ以上打つ手はないでゴザル……!!)


 苦悶の表情を浮かべるソウジロウ達に対して、侵略者達が下卑た笑みを浮かべ耳障りな哄笑を上げながらジリジリと近づいてくる。


「リオネス殿、リンネ殿、……そして、ライカ殿。ここは拙者に任せてどうか逃げてくだされ。ここまで来たら戦況が覆ることはあり得ませぬ。……この場でこれ以上武器を振るうのは武士の本懐ともいえぬ単なる我儘わがまま。そして、そのような馬鹿に走る者は拙者一人で充分でゴザル!!」


「……それこそ馬鹿言ってんじゃないよ、ソウジロウ!!この場で逃げたら森の戦士の名折れだ。勇猛たるご先祖様達に顔向け出来やしないし……それ以上に、ここでアンタを見捨てて逃げたらアタシがこの先一生後悔する事になる!!」


「……ライカ殿」


 悲壮な決意を秘めた眼差しで互いを見つめるソウジロウとライカ。


 だが、そんな2人に対して「……やれやれだな」と冷ややかな言葉を投げかけるモノがいた。――リオネスである。


「フン、異教徒はこれだから正道というモノを知らぬ。……良いか、貴様は根本的に間違っている。まさに愚か者の所業だな」


「アンタ、この期に及んでまだ突っかかるつもり……」


 そんなライカを制し、視線でリオネスに続きを促すソウジロウ。


 リオネスは頷くこともなく、冷徹な表情のまま言葉を続ける。


「貴様の愚かな間違い、それはこの私が逃げ出すなどと思い込んだ致命的な思慮のなさだ!!……私が無辜の民衆を逃がすための役目を放棄するような不信心者に思えたか?異教徒や異種族を相手に背中を見せるような臆病者に見えたのか?……真の正義を舐めるなよ、イモザムライ!!私を差し置いて聖戦を始めようなど、思い上がりも甚だしいわ!!」


 フンッ、と鼻を鳴らすリオネス。


 一瞬、呆然とした表情を浮かべたソウジロウだったが、すぐにニッとした笑みを口元に浮かべる。


 それを見たリオネスは、ここに来て初めて相好を崩した。


 その様子を見たライカが面白そうに口を挟む。


「……ハハッ、何だい。アンタも結構可愛いところがあるじゃないか?」


「フン、今のうちに好きなだけ言っていろ。ここから先は言葉ではなく力によって、私の信仰と貴様の戦士としての名誉とやらのどちらが正しいのかを証明する事になるのだからな……!!」


「カァ~ッ!!少し褒めてやったのに可愛くないヤツだね!まだまだ文句も言い足りないし弄り倒してやるつもりだから、精々おっ死んだりするんじゃないよ!」


「それはこちらの台詞だ。神の加護がない分貴様等の方が不利なのだから、精々死なないように私の後に続いてくるんだな……!!」


 互いに憎まれ口を叩き合いながらも、これまでとは違って最後を覚悟してからか僅かながらも和やかな雰囲気となっていた。


 そんなリオネスに、後ろからおずおずとした形で盗賊の少女が話しかける。


「……リオネス様。ソウジロウやライカと違って、盗賊として生まれ育ってきた私にはリオネス様が言うような“正しさ”みたいなモノがない。生きるためならどんな事でもやってきた。……それでも」





 あなたの後ろについていってもいいの?





 言葉として漏れそうになったその言葉をグッ……と呑み込むリンネ。


 そんな彼女の方を振りむくことなく、リオネスが答える。


「……フン、敬虔たる信徒である私のいう事を殊勝に聞き入れる事が出来るのなら、お前は未だに盗賊などやっていないだろう。……何者にも縛られぬというのなら、最後まで好きにしてみるが良い……リンネ」


「……ッ!?ハイ、リオネス様。……でも、これで最後なんかじゃない、です。今は無理でも、いつか貴方の正しさで私を導いてください……!!」


 少女と共に堕ちきることを選べなかった聖職者の嘆きと、青年と同じ光のもとに歩む資格などないと思い悩んできた少女の悲痛な叫び。


 背後で必死に嗚咽を押し殺そうとするリンネに対して、果たしてリオネスはどのような表情を浮かべていたのか――。


「ダイブ待ッテヤッタカラ、ソロソロ始メテモ良イカ?」


 それぞれ感傷に浸っていた4人の戦士達だったが、オークのその呼びかけは残酷にも彼らの時間を引き裂いてく――!!


 それを皮切りに全力で突撃してくる侵略者連合軍。


抵抗する間もなく今度こそ万事休す!!かと思われた……そのときである!!





「待ちなさい、侵略者達!!私達のライブで不埒な狼藉は許さないわよ!」





『ッ!?』


 侵略者達の動きが一斉に止まる。


 彼らの視線の先には、大掛かりなステージとその上に立つ五人の少女達の姿があった。

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