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BOYS BE ETC   作者: 小村計威
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有馬煜の事情 其の四

 放課後、ぼく等以外誰もいない教室で転校生、桜花鐘とのやりとりは続いていた。それにしても有馬奇跡すらなし得なかったことを他の誰が実現できると言うのだろう。狼達の群れ(ヴォルフガングズ)は尻尾を巻いて逃げ出して兄さんの事を忘れようとしているに違いない。お得意の電脳ハッキングで自らを偽り、日常に溶け込みながらいつ捕まるのか怯えながら毎日を生きているんだ。


「ヴォルフガングズを作るって具体的にどうするつもりなんだよ」


「簡単な事だよ。同志を募るのさ」


「成る程、簡単そうだ。OFに縛られて稀にある誤作動でOFが表示されなかったり、開示出来なかったりするだけでパニック症状を起こしたりする現代人の中から、OFを廃止させる為に命を投げ出せる人間を探すだけで済むんだから」


「分かってるじゃないか」


 ぼくの皮肉は彼に届かなかったようだ。咳払いを一つ。


「精神状態や趣味趣向なんて物すら管理されてる保有者ホルダーって存在がぼく達だろ?そんなぼく達が政府を欺くなんて事出来るわけないじゃないか」


「出来るとも。有馬奇跡やヴォルフガングズが出来たようにね。それに有馬煜、君だって抜け道を知っているんだろ?」


 端正な顔が歪んだのはぼくの秘密を知った上でこちらがどう出てくるのか興奮しながら待っているからだろう、つかみ所のない男だ。


「どうやって調べたのか教えて貰いたいね」


「方法は知らないが、君は確かにOFの情報をかき消している。一体どうやって?何の為に?教えて欲しいんだよ、君がひた隠しにしている抜け道を」


「教えないよ。企業秘密さ」


「そうきたか。まぁいいだろう。では話を戻そう同志を探すとさっき言ったが、実はもう数名が志願しているんだ。今日はその中から代表で君のよく知る人物を呼んである」


 桜花がそう言うと、教室に忘れもしない男が入ってきた。仮想現実の中で何百何千とこの眼に焼き付けてきたぼくの復讐対象、佐伯衛サエキマモル。数々の犯罪者を屠って来た事から死神と言う在り来たりな二つ名を持つグリズリーの様な大男だ。それにしてもOF政府御自慢の死刑執行官クリーナーの総隊長が態々こんな所まで何の用だと言うのか。


「これはこれは死神と名高い佐伯衛さんじゃないですか」


「会うのはこれが初めてか」


「いや、あんたが兄さんを殺す映像シーンをぼくは何百何千と見ていたよ仮想現実バーチャルリアリティで」


「ほう、あれは誰もが再生出来る情報リソースだがそこまで再生する内容ではないだろう。危険思想の持ち主として施設行きになるぞ」


 ぶっきらぼうな話し方に益々怒りがこみ上げてくる。


「あんた何しにここに来たんだ?」


「お前を説得しにだ」


 大男がぬっとぼくとの距離を詰める。そのやり取りを側からみている桜花は何処かに連絡を取るべく拡張現実オーグメントリアリティを起動させてOFとのリンクをはかっている。


「説得?処刑執行官クリーナーになんてなりたくないよ、お前達が兄さんやヴォルフガングズを滅ぼしたんだ。そんな連中の仲間入りなんてごめんだ」


「本当に何も知らされていないんだな」



「みたいですねミスター佐伯」


 桜花が深刻そうな表情を浮かべている。


「有馬煜、私はヴォルフガングズの一員だ」


 この大男の言葉にこれ以上付き合いきれないと思った。仮想現実で何度も見た死神が実はヴォルフガングズの一員だなんて事があるわけがない。それとも何か、二重思考ダブルシンクしていてヴォルフガングズでもあり、処刑執行官でもあったとでも言うのか。


「あんた何言ってるか分かってるのかよ」


 ふつふつと湧き上がる怒りがもう限界に達しそうだ。本当に二重思考してるんだとしたらこの世界にビッグブラザーがいてもおかしくないんじゃないかとさえ思えてくる。


「煜、ミスター佐伯はオブライエンじゃないし、ましてやビッグブラザーなんて存在しない」


 勝手に深層心理に入り込もうとしないでくれ。


「はっきり言おう。有馬奇跡は生きている。そして政府もそれを知っている」


 嘘だ。


「何ふざけた事抜かしてるんだよあんた、兄さんはあんたに思いっきり殺されたろうが!」


「あれは我々が作った映像だ。政府のサーバーを乗っ取り全世界に配信し問い掛けたのだ」


「ふざけるな!そんなの信じられる訳がないだろ」


 佐伯衛に殴りかかる。ぼくの拳は反対に捻られ、拘束されてしまった。考えればわかる事だったと思う。ぼくなんかがこいつに勝てる訳がないと。それからぼくは支離滅裂で訳のわからない事ばかり口走ったと思う。


 落ち着きを取り戻した時にはかなり体力を消耗していて、桜花と佐伯の話をまともに聞ける余裕はほとんど残ってなかった。


 兄さんが生きてる。もし本当なら早く姉さんに伝えてあげたい。そしたらあの人はきっと昔みたいに本当にちゃんと笑ってくれる気がするから。


「話を聞かせて欲しい。本当に兄さんが生きてるなら今何をしててなんで今の今まで黙ってたのか」


「落ち着いたようだな。奇跡は今、桜花家にいる。勿論、我々も共にな」


 佐伯が桜花の顔を見ると、桜花がわざとらしくゆっくり歩き始める。


「僕の父上とミスター奇跡は交流があってね、今回の作戦に際して身を隠す場所が必要だと連絡があり直ぐさま答えたよ。ウェルカム!とね」


「世界に問うっていったって結局変わらずじまいじゃんか。政府はOFを介してぼく等を監視してる。異常者がいればそいつのOF自体が政府に居場所と状態ステータスを伝える」


「そうだ。だからこそ、それに抗うことの出来る人間を探していたのだ。お前はどうだ有馬煜」


「ぼくは別に……」


「お前のOFはお前がどれだけ危険な存在かを政府には知らせなかった。何故だと思う?」


 死んだ情報媒体(デッドメディア)を使っていたからだ。そう言いたがったが、ここにきて違和感に気づいた。思えば本一冊手に入れるのすら困難な御時世だ。製本してもらう必要がある。その為に金を払う訳だが、その金の流れは間違いなく政府により管理される物だ。記憶と記録へのダイブは確かに公的に許されてはいたものの、異常な回数で再生していた兄さんの死ぬ映像だって製作していたのがヴォルフガングズだとしても閲覧回数を見られればアウトだ。


 だけどぼくは自由に生きていられた。政府様は余程寛大らしい。


「気づいたか。この世界は吐き気がする程優しい。お前の行動は全て見られていた。そして許容されていたに過ぎない」


 ぼくは公共の敵(パブリックエネミー)には程遠いただの餓鬼という評価を受けていたという事だ。成る程、そうかぼくは多感な時期にありがちな勘違いをしていたんだ。腹を抱えて大笑いしたのはいつぶりだろうか、あまりにも滑稽で自分のしてきた事が馬鹿らしく思えてしまう。


「じゃあどうしたらいいってのさ?兄さんが生きてるなら別に良いじゃないか。また兄さんが戦えばいいだけだろ?ぼくは関係ない」


「あるんだよ煜。君はどうしてミスター奇跡が存在を消して生きていられているかわかるかい?」


 言われてみればたしかに謎だった。OFで管理されている以上誰がどこにいるかなんて丸わかりの筈。なんならヴォルフガングズだって桜花の家に匿われているとしても、身元は割れてる筈なんだ。


 何故、どうして、そんな事ばかりで頭がいっぱいになった後で馬鹿馬鹿しい考えに帰結した。


「OFを無効化してるってのか」


「その通り!ザッツライトだよ煜ー。そう、ミスター奇跡はOFを無力化出来る」


「故に我々はOFを使ってる者(ホルダー)には視認する事が出来ない」


「どうやって?」


「ミスター奇跡だからこそなし得る正に奇跡ミラクルといったところだね」


 この窮屈な世界から楽々と抜け出す事が出来るとは思いもよらなかった。この優しい、天国のような世界の外側にぼくも行きたいと思った。


「さて、本題に入ろう。率直に言うと我々は君を確保しにきた。政府も馬鹿ではない。あの絞首刑の映像がガセだと気付いていながら見て見ぬ振りはしないだろう。そうなった時、一番に捕まるのはお前だ」


「理不尽だなぁ、ただ弟ってだけで」


「そうならない為にも我々と来てもらう必要がある。身の回りに政府の犬がいないとも言い切れないからな」


「分かった。言う通りにする。ここまで知って政府にいいようにされるのはごめんだ。でも、挨拶しておきたい人がいるんだ。どうしても」


「よかろう。何かあったらこれを使え」


 佐伯は黒衣の胸ポケットから卵型の機械を投げてよこした。


「その真ん中のボタンを押したら君の居場所を我々が探知し、助けに行く」


「それを使う事がなければ何も心配はいらないんですがね」


 せめて、姉さんだけには最後の別れになるかもしれないから伝えないと。兄さんの事は言えないけれど、それでも。


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