影武者テール姫
婚約破棄モノではありませんがちょっと軽めのざまぁストーリーです。恋愛かどうか微妙ですが、他のジャンルがわからないので恋愛にしておきます。
やっほ~!皆げんきぃ~?わたし、マーム。花も恥じらう15歳の乙女なの。
そんなわたしが今直面している状況を簡潔に説明するわね!
「マーム!貴様を次期国王の名において処刑する」
「…俺も次期国王である、ジハイド殿に同意だ。次期国王と公爵子息であり現王陛下唯一の子である王女テール様の婚約者の俺ホーランド、次期国のツートップと言っても過言でない存在に平民如きが逆らえると思わんことだ!」
「お忍びの留学生としては口を挟みたくはないが、致し方ない。もしもの際にはこの私。隣国オラウン公国の第二皇子オーギュスト・マウント・ササル・オラウンが証言をしよう」
……はい。すいません、わかり辛過ぎましたね。
まあ、簡潔に言うとわたしを目の前にいる四人の人たちが糾弾しているって言いたかったわけです。
えっ?もう一人は誰かって?
それは彼らに守られる形で偉そうにしている女性がいるんですよ。まあ、そのうち話し出すと思うんですが――
「さあ、マームさん。素直に罪を認めるというのならば、あなただけの罪に留めて差し上げてもよろしくってよ?……ご家族に迷惑はかけたくないでしょう?」
――いつか話し出すとは思ってましたが、口を開けばなんとまあ高慢ちきな…!
そして、偉そうに上から目線で言っている割にその目線はわたしには向いてないなんて失礼にもほどがありますっ!
憤慨しているわたしに対し、視線を向けられた先にいた少年はわたしを抑えようとしているのがわかりますが…。
「……あ、あのっ、ひ――姉さん、落ち着いて…?」
はい。わたしの弟です。
一緒にいたところを狙ってきたようなのですよねぇ~。何ででしょうか?そう言えば、彼女はやけに弟に色目を使っていたような…?
あっ、ちなみに弟の名前はツィンです。年は双子なので同じ15歳です。かなりの童顔なのでこれから先が心配です。今でさえ10歳ぐらいに勘違いされることがあるというのに…。
「…姉さん?何か余計なこと考えてない?」
ハッ!?話が逸れてました。
それにしても最近妙に勘が鋭くなってきたような…?まあ、長い間行動を共にしていれば思考パターンぐらい読めますよね。
「…ふふっ、ズバリ今日の夕飯には目玉焼きが食べたいと思ってるでしょ!」
「……何を言ってるの?」
ズバリ言ってやったらわたしが食べたいだけでしょと呆れられてしまいました。事実ですが。何だかんだと作ってくれるのでよしとしましょう。
将来的には専属シェフにするのもいいかもしれません。
「何をゴチャゴチャと…!そちらが、その態度ならばこちらにも考えがある。来いっ!」
「はいはい。ジハイド様、お呼びでしょうか?」
「……ジ、ジハイド…君。あまり教師を――ぶふぅ~――待たせるものでは…ありませんよ?ぶひー」
現れたのは腰の低そうな眼鏡出っ歯と歩くのも億劫そうな肥満のおっさんだった。いや、おっさんなんて言っちゃダメね。一応は貴族でこの学園では教師なんだし。
無能肥満教師のブーブヒル男爵でした。
ちなみに、腰の低そうな男は宰相子息のヨークリ…だったかな?
「…そちらのお二方がどうかしましたか?」
「彼らにはお前の悪事を証言してもらう」
「……悪事、ですか」
身に覚えがなさ過ぎてきょとんと首を傾げてしまいました。ただ、その態度が気に障ったのかギリッと奥歯を噛みしめています。目的のために抑え込んだのである程度は許容しておきますか。
何も言わないのを観念したと思ったのか、彼ら曰く証言者に早速わたしが何をしてきたか話すように促していました。
「では、私からいかせていただきますよ。まず、私が見たのはそちらのマームさんがオウル様に近付いているところでした」
オウルというのはお忍びのオーギュスト様の偽名ですね。ただし、近付いているだけでは身分を隠している以上はしょうがないと思います。
「――ただ近付いている場合は学友としてと考えることも可能でしょうが…、彼女はまるでオウル様に情報を渡しているようでした」
「…ほぅ、それはどんな情報だ?」
「残念ながらそこまでは…。私もその様子を見ていたに過ぎませんので」
「――それについては私が証言しよう。私は元々次期大公になるためにこの国で情報収集をしていた」
へぇ~そうだったんだ。オウル様ことオーギュスト様から語られる内容はある意味では暗躍していたと白状しているようなもの。それを次世代中核を担う人たちの前で言うなんて…脳みそが無くなったのでしょうか?
「だが、私は愚かだった。他国を貶めるのではなく、自国で活動して認められるべきだったのだ。それをここにいるリリスに気付かせてもらった」
「――オーギュスト様!」
おぉっ!感動の場面ですね~。ただ、オーギュスト様睨まれてますよ?それこそ射殺さんばかりに傍らにいるジハイドとホーランドのあんぽんたんコンビが…。
空気が悪くなっているのを感じたのか、ヨークリが口を開きます。
「…ごほん!もちろん、私が見たのはオウル様だけではございません。恐れ多くもジハイド様とホーランド様にもやたらとまとわりついていました。
ご存知の通り、お二方はどちらも次世代のトップ。そして、当然のごとく相応しい婚約者がいらっしゃいます。それなのに、まとわりつかれいらぬ噂を流されることがどれだけ悪影響を及ぼすか…」
考えただけで胸が痛みますと取り出したハンカチで目元をぬぐいながら語るヨークリ。…でもね?明らかに演技ってわかるようにされても白けるだけですよ?やるんだったら、もう少し演技を磨いてからにしてもらいたいものです。
って、よく見れば労わるようにリリスに目配せを…!しかも、それを受けて三人が彼女を慰めているではありませんかっ!
一人だけ我関せずでこちらを鼻息荒く見ている豚もいますが。
「ぶふぅー、では次は僕が説明を…」
ぬぅっと巨体を揺らしながら前に出てきたブーブヒル男爵。
もう少し痩せないと生き辛くありませんか?
「そこの、マームは僕が直々に、生徒会に誘ったにも関わらず生徒会に入らなかったでふ」
「…それの何が問題なのでしょう?この学園は今でこそ平民も入学できるが大部分が貴族教育に根付いています。身の程を弁えて行動していると認めていただけることだと思うのですが?」
「だ、黙べいっ!この僕が直々に誘ってやっているのにそれを断るのが問題だと、言ってるんでふー!!」
もうっ!鼻息が荒すぎです!かかるじゃないですか。
一応、この豚は学園に長い間在籍していてた生徒会顧問をしているのでした。あまりにも不快なので存在ごと忘れそうになってましたが。ちなみに、生徒会はジハイドを会長に副会長がホーランド、会計がリリスで書記がヨークリです。
聞くだけで不安になるメンバーですね。
つまりは、自分のプライドを傷つけられたってことでしょうが……それの何が問題というか証言なんでしょう?
「そ、そしてっそこにいる弟のツィンを生徒会に推薦したっ!」
「…確かにしましたね。わたしよりも遥かに生徒会には向いていると思ったので」
「ふんっ!お、おまえの魂胆はわかってるでふっ!!お前は生徒会の情報を弟に盗ませてたんでふぅ~」
「そうですっ!私がツィン君の様子がおかしいと思っていたら、時折こそこそとあなたに逢っているではありませんかっ!しかも、会っている時はとても怯えているように窺えましたのよっ!弟にそのようなことをして恥ずかしいと思わないのですかっ!」
凄い剣幕で言われても…。というか、それいつの話でしょう?大体、一緒に行動していますし…。呼び出した時は叱っていることが多いので、傍から見れば怯えていても仕方ないかもしれませんが…。ですが、内容を知らないことを考えると……。
「さあ、これだけ王族や他国にまで迷惑をかけている状態で言い逃れはできん!罪を認めろっ!」
「認めるならば、ツィンや家族には迷惑が掛からないようにしてやる」
「……この国で過ごしにくいと言うならばツィン殿は我が国に来ればいい。彼は優秀だとリリスから聞いているからな」
「早くお認めになったらいかが?」
一気にまくし立ててきましたね。しょうがないでしょう。
わたしは意を決して正面を向き――
「――くだらない。そもそもあなた方にわたしを裁くことなんて不可能よっ!」
そう言って魔法を解除しました。
「「「なっ…!?」」」
その姿に絶句する一同。そりゃあそうでしょうね。だって、わたしの姿は――
「「「テール!?」」」
「――いや、姫を付けなさいよ」
そう。わたしの正体はここ、サルオ王国現国王の唯一の子であるテールなのです!
何故わたしが平民のマームに扮していたのか。その理由は結構前に遡ります。
そもそも、わたしの生まれから話す必要があるでしょう。
わたしは――転生者です。
つまり、わたしには前世の記憶があります。それもここではない別の世界の記憶が。その時の名は捨てたので語りませんが、わたしは平凡な人生を送っていました。気ままに友達と遊び、門限を破って親に怒られ、気まぐれに恋をして――そして結婚した。
ただ、結婚した時に運悪く病気になってしまっただけ。
その体で子どもを産むことがどれほど危険な行為かは知っていたけれど、子どもは産みたかった。そして、産んだところまでは覚えてる。だって、今でも時折産声が耳に聞こえるもの。だが、覚えてるのはそこまで。
次に目覚めた時に聞こえたのは自分のあげる産声だった。
わたしは自分が転生したのだと理解していた。あまり読んだことはないがそんな感じの小説があるのも友達伝手に知っていたし、驚きはしたけどすぐに受け入れた。
ただ、そんな生活もすぐに飽きた。
理由はわたしの生まれのせい。わたしは、サルオ王国唯一の王の正当なる血筋を受け継ぐ者として育てられていた。
たまに高位貴族の子どもと会う以外は常に護衛や教師に囲まれ、碌に自由時間もないそんな窮屈な毎日。そんな日々を過ごしていたある日、いつものように抜け出して散策していたわたしは下働きの子どもが学園に通うという噂を耳にした。
そして、その子どもが平民であるがゆえに心配であると。
何でも、その学園は元々貴族の子息や令嬢たちのために作られたこともあり、閉鎖的で今でも差別や格差が平然と行われているのだという。それは、下位に行くほどに暗黙の了解として認識されており、その中でも最下位の平民なんてどんな目に遭うか。
だが、わたしはそれを聞いてチャンスだと思った。
すぐさま、その話に割って入り内密に子どもを城に連れてくるように命令した。
そこで連れてこられたのがマームとツィンだった。
『あなたがマームね。そして、ツィンね。わたしはテール。…ねぇ、マームわたしと少しの間入れ替わってみない?』
初対面でそんな提案をしたわたしに二人だけでなく二人の母親を含めたその場の全員が唖然としていた。呆気に取られているところ悪いが、わたしにとってこのチャンスは逃せるものではない。次期女王として生活するわたしには専属の教育係も付いているので学園に行く機会もない。ないのならば、作り出せばいいのだ!
未だに事態が呑み込めていない状態のマームの手をしっかりと――逃げられないように――握り、ある部屋を目指した。
『お父様っ!わたし、この子に変わって学校へ参ります!』
国王――つまりはわたしの父――の執務室に飛び込んで宣言してやりました。
飛び込む直前に思考がようやく追いついた人たちが止めようとしたけれど、遅すぎる。もう賽は投げられたのだから。
『……ええっと、テール?その子は一体…?それに、学園へ行くってどういう?』
流石は国王をしていられるお方。他の人と違って立ち直りが早いですね!流れでいいよと言ってもらうのが一番でしたが、こうなっては作戦変更です。
『お父様――いえ、陛下。我が国の将来を担うべき者たちが集う学園で未だに階級による格差がつけられております。わたしはそれをどうにしたいのです』
先程までの子どもっぽさは捨て、凛とした態度で臨みます。
陛下もそれを見ると、態度を改めました。一人の父親から厳格な国王へ。
そもそも、我が国では王政や貴族制度こそ続いていますが学問の機会などは民にも与えるなど平民も政に関われるような体制づくりを進めています。そして、学園などは最たる例として差別は徹底して無くさせるように王命が下されているほどなのです。
それが蔑ろにされている。それを無視するわけにはいかない。わたしは真摯にそう訴えました。
『先々代国王陛下、ならびに先代王太后様が進められた革新を嘲笑うかのような不敬な行動。とても見過ごすわけにはまいりません』
『――それでお前が自ら赴くというのか?次期国王であるお前が』
『おっしゃりたいことは重々承知いたしております。ですが、わたしが行かねばならないのです!――確かに、あの学園には多くの貴族の子がいます。しかし、それでも現状が打破されていない以上、正確にことの真意を読み取り、なおかつ覆せないような者が行かねばなりません!』
それはわたしにしかできないことでもある。わたしは次期国王。発言力では今の段階ですら陛下に次いで高い位置にある。だからこそ、居並ぶ重鎮たちもわたしたちの会話には入ってこれない。
そして、陛下は渋々ですが了承してくれました。
ただし、マームには王宮で本来彼女が学ぶはずだった勉学を受けてもらうこと。それにサポート役にツィンを傍に置くことと、信頼できる者を学園に潜入させることが条件として付けくわえられました。
自由な学園生活は少し遠のきましたが、まだまだやれることはありますし大丈夫でしょう。
そして、わたしは学園へと赴いていったのです。
「――どうです?わたしの演技は?」
大したものだったでしょう?と告げると、正気に戻ったのかジハイドたちが喚きだしました。
「テ、テール!何故君がここに…?王宮にいるはずじゃないのか!」
「…そ、そうですっ!しかも、平民の姿で――いえ、そもそもどうやって……?」
「……ば、ばかなっ」
あっ、一人だけ放心状態から戻ってない人がいましたか。というか、彼女はなぜ発言しないのでしょう?あれだけ嬉々として追い詰めていたのですから真っ先に口を開きそうなものですが…。
耳を澄ませば、「……嘘よ。ありえない」「ルートが違う」「お忍びはホーランドの時のはず…」などとぶつぶつ言っています。
ルートとか何のことでしょうか?
そっとホーランドを見てみれば、喚くのに必死で何も聞こえていないみたいですね。まったく、民を導く立場の者が怒りで近くの声を無視するなど…。
「――言いたいことがあるのはわかりました。ですが、皆さんにまず一言。先程も言いましたが――姫を付けなさい!」
「「「っ!!」」」
叱りつけてやればようやく理解したのが口を噤みました。
さてっと。
「…あと、そちらのお二人のも逃げ出そうとしたって無駄ですよ?」
にっこりとほほ笑んであげると先程まで自信満々だったヨークリとブーブヒル男爵は顔面蒼白になって震えだしました。そりゃあ、彼らと違って身分に差があり過ぎますからねぇ…。しょうがいないと言えばしょうがないんですが。
「テールっ!?俺を謀って、ただ済むと思っているのか!!」
バカはどこまで行ってもバカなんですね。
バカ筆頭ことジハイドが口を開きました。こんなのが従兄だなんて恥ずかしい限りです。
わたしはわかりやすいように大きくため息を吐いてから、憐みの眼差しを向けてあげました。
「……ただで済まない?ですか。あなたは何を言っているのかわかってるんですか?」
「当たり前だっ!俺を誰だと思ってやがる!」
「うるさいですね。そんなに喚かなくてもあなたは元々地声がやたらと大きいんで聞こえてますよ。――で、あなたが誰かでしたよね?もちろん知ってます。バカで無能で役立たずなジハイドでしょ?一応、わたしの従兄にあたりますね」
「違うっ!!」
「…あら?何か違いましたか?できれば従兄ということが違うとありがたいのですが?」
「こんのっ…!俺は、次期国王のジハイド様だっ!現王の娘だからとその態度は不敬だろうが!!」
……はっ?今、なんて言いました?
次期国王?まさか、これほどバカだったとは…。
「呆れた。それはハッタリだと思ってましたが、まさか本気で言っていたなんて…」
ハッタリだったら、まだ国外追放辺りで許してあげたのに…。いや、こんなのでも王の血を引いているんだから外国に放逐は拙いですね。…だとしたら、修道院おくりが妥当でしょうか?それとも絶対に裏切らない臣下の娘に婿入りさせて軟禁した方がいいでしょうか?
「何がハッタリだっ!俺は――」
「――はいはい。わかりましたから、それ以上口を開かない方が無難ですよ?」
「なんだとっ!?」
「…だって、そうでしょう?わたしこそが、次期国王なのだから。そんなわたしの前で次期国王宣言するなんて――暗殺しますよって言ってるようなもんじゃない」
「…………へっ?な、何を言って…」
「それはこちらのセリフです。あなたこそ何を言っているんですか?まさか、我がサルオ王国に女性の王位継承権が存在することを知らないわけではないでしょう?」
そうです。サルオ王国には女性にも王位継承権が存在します。と言っても、今まで女王になったのは、4代目国王のパンジー陛下だけですが。それも、彼女の兄である先代が戦死し彼女よりも王位継承権が低い弟様が成人するまでのごく短い間でしたので、一般の記憶には残っていないでしょうけどね。
ただし、それが許されるのは一般の者だけ。仮にも王家に連なる者がそんなことで許されるはずがありません。
「あなた方は先程から次期国王のジハイドだと言っていましたが、おかしいですね?本当の次期国王であるわたしはこの通りピンピンしているのですが?」
一体誰のことを指して言っていたのでしょう?そう言ってやると先程まで喚き散らしていた連中が一斉に視線を逸らしました。
いえ、正確言うと理解できていない従兄と気狂い女はこちらを焦点の合わない瞳で見つめていました。
「そして、わたしがテールである以上はマームが不敬だということにはならないと思いますよ。それに、そもそもわたしはあなた方が言っていたような行動を取った覚えはないのですから。――ツィンのことを除いてはね」
最後に付け加えたこと……ツィンのことに関しては半分事実である。
陛下から直接わたしを任されたツィンはことあるごとにわたしに呼び出されて色々申しつけられていたので呼ばれるたびにビクビクと怯えていたのです。
国王と次期国王の板挟みにされて平然としていられる平民などそうそういませんって。
もちろん、生徒会の情報を盗ませていたなんて事実はありません。そんなことをしなくても学園側から密偵が調査した資料が送られてくるのですから。
「そんなはずがないわっ!」
あら?とうとう皆さん観念したと思っていたのですが…。随分往生際の悪い人が残っていたようですね。
「そもそも、他人そっくりに変装できる手段なんて私は知らないっ!何回も、何十回もプレイして攻略サイトを見まくっていた私が知らない情報なんて存在するはずがないのよ!」
「……攻略サイト?」
こちらの世界で聞くとは思っていなかった単語に思わず聞き返してしまいました。――それもハッキリと日本語の発音で。
「――まさかっ!あんたも転生者だったのね!」
「…………はて、ナンノコトヤラ」
いけない!気が動転して片言になってしまってた。まさか、彼女も転生者だったなんて…!攻略サイトってことは、ここはゲームか何かの世界だったってことなのでしょうか?
「私も知らない設定で動くなんて!どんな卑怯な手段を使ったのよ!私のハーレムをっ、ツィン君を返しなさいよ!!」
あらあら、公爵令嬢の仮面が剥がれ落ちてますよ?
というか、ツィンもゲームのキャラクターだったんですか。道理で彼女がツィンにこだわっていたわけですね。ハーレムってことは、三バカもってことでしょうか?
こんなことならもう少しゲームをやっておくべきだったなぁ~。
「一つだけ答えてあげるわ。わたしはこの指輪を使って変身していたの」
「……その指輪は?」
「これは先代皇太后様がお作りになっていた魔法道具よ。あなたたちだって知っているでしょう?先代の皇太后様は非常に魔法に精通しているお方だったことぐらい。あの方が自身の最高傑作だとおっしゃっていた魔法道具。――あなたたち風情に見抜ける者ではないわ」
残念ながらわたしにはあのお方ほどに魔法の才能はないみたいだったけど…。というよりもほとんどすべての人間が魔法を扱うことができない。だからこそ、魔法道具は希少性が高く、国で管理している。コレだって売れば相当な額になるはず。
前世主婦をしていた頃の感覚でおっかないと思っても外したりするわけにもいかないのが難儀なところでした。
「さて、わたしの方としてはもう面倒なので他の人に預けたいと思います。――ツィン、あなたもご苦労様でした。今までわたしの我儘に付き合ってもらってありがとうございます」
「……いえ、僕の方こそ。本来だったら姉に降りかかるはずだった災難を解決していただき、何と言ったらいいか」
「気にしなくてもいいと思いますよ?マームだったらきっとなんとかしたでしょうから」
彼女の為人を知っているが、そうそう下手を打つとは思えないですし。とはいえ、この状況ではかなり追い込まれていたのは確実でしょうけど…。
――後日談としては色々大変でした。
ジハイドは一家ごと貴族位を剥奪。さらに、家族全員が別々の修道院預かりとなりました。特にジハイドと叔父は元軍人の神父様がいるという厳しい場所に預けられることになりました。
叔父はお父様が王位を継いだことをずっと根に持っていたそうなのです。
何でも早く生まれただけで何故、と。実は、未遂でしたがまだお父様が王になる前にも色々やっていたそうなのです。
しかし、それはすべて失敗。
ならばと次は息子に自分の夢を託したというわけです。
ちなみにジハイドが王になれると思ったのはこれが原因みたいですね。幼い頃からずっと次の王になるのはお前だと言われ続けてそれを信じたと。叔父も詳しくは知らなかったらしく、王は男しかなれないのだと思い込みお父様には子どもが女の私しかいなかったので確実に次の王だと信じていたようです。
こう考えると、ジハイドはただの被害者ですが…自分で学ぶ機会はあったはずなのにしなかったことを考えると可哀想ですが自業自得でしょう。
ホーランドは当然わたしとの婚約は解消、公爵家からも廃嫡されました。そしてあの美形を活かせないように男だらけの軍隊に入隊。最低でも10年ほどは戻ってこれないでしょう。
あいつはわたしのことが疎ましかったらしく、次期王の旦那という肩書きよりも公爵家の当主として前線で活躍する道を目指していたようです。だから、侯爵家のリリスと結婚し家の地盤を固めるとともにジハイドを王として傀儡にしようとしていたようですね。
えっ?わたし?う~ん…、どうなってたんでしょうか?
考えてもしょうがないので考えるのはやめましょう。
オーギュストですが、彼は当然本国へ強制送還されました。お父様は次のオウラン公国との外交でかなり有利に進められるとホクホク顔でした。抜け目ないですね。
まあ、彼は本国に戻っても肩身の狭い思いをするだけ。いや、さらに次期大公の座は確実になくなったのでかなり厄介でしょうかね。さらには、我が国に来た理由が弱みを見つけて滅ぼしそれを手柄にしようとしていたんですし裁量としては甘いぐらいでしょうか。
オウラン公国側からは謝罪の代わりに皇太子を婿に差し出すと言ってきましたが丁重にお断りしました。当然です。どう見ても今回の件を有耶無耶にした挙句に同盟か合併をもくろんでいるようにしか見えないですもん。
ヨークリはある意味で一番軽い罰です。宰相子息ではなくなっただけです。というのも今回の事件を受けて父親である宰相様が辞任しただけですが…。
あいつは自分に利があると思うとすぐに尻尾を振るタイプの人間だったようですね。
ブーブヒル男爵ですが、彼は一番救いがありませんでした。そもそも、彼がジハイドたちに協力したのはマームが目的だったからです。40過ぎのおっさんのくせに生徒に手を出していたそうで…。今回はジハイドたちに標的にされたマームに目を付けたようですね。
彼女を処刑したと見せかけ、囲い込む魂胆だったようです。
これにはあまりに腹が立ったので、去勢手術をしたうえに鉱山で死ぬまで強制労働という罰をわたしが押し切りました。
むしろ手ぬるいぐらいです。
しかし、あんななのに妻が10人以上いて子どもも20人近く。…まったく、この世はどうなっているのやら。
最後にリリスですが、彼女も当然修道院送りです。ただし、彼女の場合は転生者ということや色々な事情から修道院にいくと見せかけて怪しい魔法を実験している機関に送られることになりました。最悪の場合は記憶をすべて抜かれて抜け殻になるかもしれません。
何故かわたしに訴えてましたが、この状況でわたしが助けると本当に思ったんでしょうか?
彼女の知るシナリオではわたしと仲が良かったという話なんですが、何をどうすれば彼女と仲良くなれるのか興味が尽きません。
そうそう、彼女が連行される前に聞き出したんですが、この世界は「駆け上がれロイヤルロード」ってゲームの世界が元になっているそうですよ。このタイトルでよくやるつもりになるなと思いましたが、感性が違うんでしょうね。
あっ、肝心の学園は中核の問題児がいなくなり、トップに平民が座ったことでようやく身分が役に立たないと悟って平穏が訪れたそうですよ?
「――と、色々ありましたがわたしの息抜きも出来て学園の問題も解決。まさに万々歳ですね!それに――こんなに素晴らしい友人も出来ましたし!」
「「ありがとうございます」」
満面の笑みで応えてくれるマームとツィン。同じような雰囲気の二人に笑みを向けられると嬉しさが何倍にも膨れ上がる気分ですよ。
何故かマームは王宮にいる間に侍女としての教育を受けていたらしく、そのままわたし付きの専属侍女に。ツィンは今では平民初の生徒会長として忙しなく動いているようです。
まあ、ツィンならば上手くやるでしょう。
なんだかんだでハイスペックな子ですからね。わたしも子どもの成長を見守る母親の心境で応援していましょう。ちなみに、ツィンとはシナリオによっては結婚する未来があったそうです。まあ、その場合マームはなくなっていたそうなので、そんな未来が来なくてよかったのですが…。
あっ、でも旦那様じゃなくてシェフがやりたければいつでもお受けしますよ?そう伝えた時のツィンはギョッとした顔をしていましたが、満面の笑みで首を横に振りました。
「シェフよりももっとなりたいものが出来たからそっちを目指しますよ。――覚悟しておいてくださいね?」
意味が分からず首を傾げたわたしでしたが、マームは意味深に頷きツィンは決意が固いようで目標に走り出しました。
なんだか楽しくなりそうですね!
――十数年後、サルオ王国史上二番目の女王として即位したわたしの隣に童顔の旦那様が立っていることをこの時のわたしは予想だにしていなかった。
その時旦那様とよく似た雰囲気の侍女が優しく見守っていることは間違いないだろう。
やはり胃袋を掴まれたのが原因だろうか?
テール姫:サルオ王国第一王女。転生者だが、この世界が乙女ゲームの舞台だということには気づいていない。また、ゲーム本編ではほとんど関わりを持たなかったり、ルートによっては婚約者と別れ、新たに別の人物と結婚したりする。また、その際理由は不明だが王位を放棄していることも多い。転生者なので、窮屈な王宮生活に耐えられずマームと入れ替わり学校に行くことを決意。ただし、王や学園長などの主だった者には知らせており、目的は学校に蔓延る身分問題の解決だとしている。
リリス:サルオ王国侯爵令にしてジハイドの婚約者であり、ゲームの世界のヒロイン。転生者でこの世界がゲームの舞台だと知って暗躍していたが、何故か動き出さない悪役令嬢マーム(テール姫)に業を煮やし強引にことを進めようとして失敗。
マーム:平民。王宮に勤める傍ら王が進める革新で平民の身で学校に通うことになっていた。テールの侍女となった後は彼女のよき理解者となり、また後に生まれた二人の子どもの乳母にもなっている。
ツィン:平民。マームの双子の弟。童顔で押しに弱い。テール姫の世話役を仰せつかる。ホーランドルートでは、排除されたマームから紹介され王位を放棄したテール姫と結婚している。そのルートではリリスと仲がいい友人となっている。テールと結婚する頃には大分主導権を握れるように――なりたかったらしい。
ジハイド:王弟の息子、つまりはテール姫の従兄。幼い頃から王になりそこなった王弟のゆがんだ教育を受けており、自分こそが王位継承権を持つ唯一の存在として認識している。また、次期王位継承権を持つ者で唯一公で生活していることから周囲に勘違いされることも多い。だが、サルオ王国には女児にも継承権があることを知らないなど問題が多い。
ホーランド:公爵子息でテール姫の婚約者。身分を重んじるためにテール姫との婚約者になったが、野心家であり男こそが国を引っ張るべきだと思っている。そのため、結婚したら彼女を政治から排除しよとしていた。
オウル(偽名);オウラン公国第二王子。本名はオーギュスト。同盟国でありながら、大公になるためにサルオ王国を手中に収めようと画策していた。
ヨークリ:宰相子息。利に転じやすい性格。もしもジハイドが王となれば、宰相の地位を確約。さらに、以後王を支える重鎮に迎えるという発現にコロッと落ちた。
ブーブヒル男爵:学園で講師を務める肥満体系の人物。歳は離れているが、マームに惚れておりことが成功したら彼女を40番目の妾にもらい、ついでにテール姫も妾にもらえるということで証拠の偽造などにいそしんだ。事件後は去勢されたが、意外と幸せらしい。死の間際は家族が処刑覚悟で見送りに来ていた。
先代皇太后
転生者でしかも未来予知の力を持っていた。ひ孫がこういう行動をとると知っていたからこそ様々な魔法道具を作り出していた。また、孫(テールの父親)にいつか子どもが二度大きなお願いをするが許してあげなさいと遺言している。その遺言は一つは条件付きでもう一つはかなりごねたが結局叶えることとなったので果たされたと言ってもいい。