ニートは撲滅対象となる?
「喰らえ残業増加の雪だるま! 退職ビィィーーム!!」
「減った人員は増やすまでよ! 派遣シールド!!」
悪のニートが放った退職ビームがハロワマンを襲う。
しかしハロワマンはそれをそのまま喰らう事などしない。目の前に、透明なシールドが現れる。
シールドはニートの放った「退職ビーム」の威力を削ぐが、完全に防ぎきることは出来なかった。減ってしまった人員の穴埋めを派遣社員で補おうとしても、いきなり全ての仕事を任せることができないからだ。残業時間は軽減できるが、完全になくすことは出来ない。
「フッ、ハロワマンめ! これで終わりだ!! 新作ネトゲフィールド!!」
退職ビームがダメージを与えた事に気を良くしたニートは、広域に就労意欲減衰効果のある「新作ネトゲフィールド」を展開した。初期投資が大きいため、ニートにも負担は大きい。しかし、一回効果があれば気力体力を一気に削ることができる強力な技だ。
「効かぬ!」
「何ぃ!?」
「選択を誤ったな、ニートめ! 残業疲れの今は、新作ネトゲに手を出す気力など無いのだ!!」
「しまったぁ!!」
だが、先ほどの退職ビームの影響が抜けきらぬハロワマンに、新作ネトゲフィールドは効果を発揮しない。本来は勢いづいたところにカウンターで放つ新作ネトゲフィールドを追撃で使ってしまったが故の結果だった。
ニートの大技が失敗したことで、大きな隙が生じた。そこにハロワマンは全身全霊の一撃を放つ。
「ニート滅すべし! 親の涙ぁ! ストラァーイィクゥ!!」
「ぐぁぁ!! くっ、ハロワマンめ! 我がやられようと、すぐに第二、第三のニートが現れる……。努々忘れるな、世界はニートに満ちていることを…………」
ハロワマン最後の一撃が、親のすねを齧るニートの意識を刈り取った。養ってくれる相手との関係悪化はニートにとって最も恐れる事の一つだ。お金が無ければニートは出来ないのだ。
ハロワマンは呪いの言葉を残すニートの言葉は無視し、すぐさまその首にシャチクリングを取り付け、控えていた搬送スタッフへと引き渡す。
「ふ、ならば俺は戦い続けるだけさ。それに……」
ハロワマンは自分の周りにいる仲間を見る。
「俺は、1人じゃない」
こうして悪の秘密結社「グッバイワーク」、最後の怪人が倒された。1週間の長きに及ぶハロワマンの戦いは、ようやく終わったのだ。
ハロワマンは振り返らない。「お疲れ様です」と声をかけてくれる仲間と共に、ハロワマンは家に帰るのだった。
(ぐぉぉ! 我が輩の、我が輩の身体を返せぇ!!)
2ヶ月3ヶ月と、残業と言う名の悪夢に耐えた新戸ケビン。
このまま続けても更生しないだろうというスタッフの手により、彼は今、シャチクリング・レベル2に支配されていた。
シャチクリング・レベル2の能力は首から下の肉体支配のみならず、首から上、つまり表情や発言にまで支配が及んだ。
結果、シャチクリングに支配されている間はケビン本来の言動は封じられ、ニートを倒すヒーロー「ハロワマン」を演じる事になった。
「ハロワマン」はニートを倒し、シャチクリングで更生させる正義の味方である。
天帝の治世、そこに暮らす民草をニートから守るのが目的だ。
ニートは労働という社会への参加を拒否した、社会を蝕む害悪である。放っておくとニートウィルスによって周囲の者までニートと化すのだ。更にニート化した人間は怪人となり、ニート理論による特殊能力を得る。つまりニートとは、最悪のモンスターであった。
社会秩序を維持するにはニートを捕え、シャチクリングで更生させるしかない。
戦えハロワマン。負けるなハロワマン。みんなが君を待っている。
ハロワマンの是非はさておき、ケビンは同志であるニートを狩る側へと回された。
かつての仲間を相手に、心で涙しても武力で捕えていくハロワマンのケビン。
それはまさしく生き地獄であった。