そして、恋をする
今日は入学式。
やっとこの日がきた。
私はずっとこの学校に入りたかった。
彼に会うために。
私には前世の記憶がある。
前世の私には、好きな人がいた。
だけど、その好きな人は漫画の中の人で。
私の恋は叶うはずがなかった。
そして。私は生まれ変わったのだ。
この次元が何次元なのかはわからない。
だけど、この高校は彼が通っていた高校だ。
この高校へ入学すれば、必ず彼に会える。
何故かそんな確信が、物心ついた頃からあったのだ。
入学するために必死に勉強した。
マネージャーをするために、彼がやっているスポーツの勉強もした。
必ずここで彼と出会う。
彼が今何歳なのか。
彼も生まれ変わりで名前も何もかも違うかもしれないけれど。
私は前世で決めたんだ。
必ず会いに行くって。
「隣、いいですか?」
決められたクラスの席で座っていると、そう声をかけられた。
声だけで、胸がざわつく。
まさかー
顔を上げると彼がいた。
間違いない。私の心臓が彼だと言っている。
「はい。空いてます」
そう答えるのが精一杯だった。
まさか、同い年で出会えるなんて…
「あの、名前…なんていうんですか?」
彼が答えた名前は、前世の記憶と一致していて。
ずっと心臓が鳴り響いている。
それから、すぐに私たちは打ち解けた。
少しだけ不安だったんだ。
私は、前世の記憶を持っている。
彼が運命の人だと信じているけれど。
彼は、前世の私すら知らない。
だから、彼に振り向いて貰えるか…少しだけ不安だったんだ。
「ねぇ、やっぱり君の声、聞いたことある」
彼が不意にそう言い出した。
「え…どこで?」
今まで彼にあった覚えはない。
会っていたら必ず、声をかけていたはずだ。
「夢の中で。よく見る夢があるんだ。僕は部活をしていて、その休憩中に声が聞こえるんだ。女の子の声がね。『待ってて。必ず会いに行くから』って」
それは…前世の私?
「その女の子の声。凄く必死で。姿形も見えないんだけどさ。なんだか、ずっと気になっていて。君…だったのかな」
「そうかも」
「え?」
「やっと会えた」
彼が照れ臭そうに笑い、私も笑う。
ねえ、前世の私。
彼に届いていたよ。
前世の私の気持ち。
これからは、貴女に出来なかったこと。
私が叶えて見せるよ。
貴女が起こした奇跡を必然に変えて見せるから。
見守ってて。
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同じ高校の制服をきたカップルが手を繋いで、歩いている。
だが、男の方がいきなり足を止めた。
「あ」
「どうしたの?体調悪いの?」
「いや、俺の一生涯の友人が夢を叶えたようだ」
「なんで、そんなのわかるの?」
「うーん、以心伝心?かな」
「ふーん」
その可憐な容姿の女の子は彼氏に詳しく追及しなかった。
追及しても本当かわからない前世の話をされるだけだと悟ったからだ。
「梨乃」
「んー?」
「好きだよ。何十年も前から」
「知ってる」
そう笑顔で笑いあいながら、また歩き出す。
“おめでとう”
男は心の中で、前世を共に歩んだ伴侶に語りかける。
彼女の笑顔が男には見えた気がした。