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素晴らしき探究心

「わっ、分かりました!」

「はっ、はい!」

 突然大きな声を出した彼女につられて声を張る。

 次の瞬間、恥ずかしそうに彼女が放った一言。僕は自分の耳を疑った。


「わっ、私の胸を触って下さい!」

「    」

「あ、あの? ケンセイさん?」

「あっ? は、はい」

 余りの衝撃に、一瞬意識が遠くへ飛んでいた。

「だ、だからその……。たっ、確かめたいんです!」

「そ、そんな事言われましても! ご、ご迷惑じゃありませんか!?」

「大丈夫です! きっ、気にせずどうぞ!」

 彼女が手を後ろに組む。

 きょ、強調されているっ! たわわに実った果実っ! それが両手を後ろに回すことによって、その存在感を一層際立たせているっ!


 まさか僕にこんなイベントが起こるなんて。今まで想像した事もなかった。

 胸を触るのは初めてではない、ファーストタッチは魔界で済ませた。

 だがしかし、触ってくれと言われて触るのは初めて。緊張の一瞬、心臓が口から飛び出そうだ。

「じゃ、じゃあ失礼して!」

「はい、お願いしますっ!」

 人差し指を伸ばし、彼女の胸めがけて。

 ああ、当たっちゃう当たっちゃう。ごめんなさいごめんなさい。

 ありがとうございます――。


 指先が胸に触れた瞬間、彼女の身体がピクンと跳ねる。

 思わす腕を引く。触った、確かに僕は触った。指先が間違いなく触れました。

「さっ、触りました!」

「そ、そうですね! じゃあ抜いてみて下さい」

 再び剣を抜く。

 あれ、さっきと変わってないんじゃないか。変わらず小指サイズだ。

「変わってないですね。多分胸は関係ないんじゃないですか?」

 剣を見て、彼女が不満そうな顔をする。

 気持ちは分からなくもない。

 考えた末に胸まで触らせて、何も変わらず。納得いかないのも当たり前だ。


「ま、まぁ今日の所はこの位にして。また今度ゆっくり方法を探しましょう」

 このままでは僕の身体が持たない。心臓発作で死んでしまいそうだ。

 女性に免疫が無い、耐性も無い。

 童貞だ、ドウテインだ。ドウテインって響きがいいな、何かの魔法みたいだ。 

「分かりました――」

 一安心、やっと終わる。そう思っていました、続きの言葉を聞くまでは。


「揉んでみて下さい! 思い切って!」

 全身に雷が落ちたような衝撃。誰かドウテインを唱えましたか?

「さっ、流石に無理ですよ! 何言ってるんですか!?」

「こ、ここまで来たらもう後には退けませんよ! お願いします!」

 引きつった笑いを浮かべ、半ばやけくそ気味に言う。さっきまでとは完全に別人だ。


「ほ、本当にいいんですか?」

「え、ええ。大丈夫です! これは実験ですから!」

 実験。そうか、実験か。実験なら大丈夫、やましい気持ちなど何も無い。

 無心だ、無心。

 ほら、全然大丈夫。彼女の身体がピクンと跳ねようが気にならない。

 実験だし、実験。

 彼女の吐息が漏れようとも、全く気にならない。心頭滅却すれば火もまた涼しだ。


「んっ――」

 はい! はい無理!

 反則だ! 声を出すのは反則だ! 実験終了! おつかれさま!

「け、剣をお願いします……」

 手を離した僕に、真っ赤な顔で彼女が言った。

 多分僕の顔も真っ赤になっているだろう。顔が熱くてたまらない。

 祈りにも似た感情を胸に剣を抜く。部屋に流れる重い空気。 


 結論だけ言う。

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したお乳は失敗した失敗した失敗した失敗した。


「も、モミさん……」

 返事が無い、ただのしかばねの様だ。

 そこにいるのは彼女であって、彼女ではない。口は半開き、目の光は完全に失われている。 一体どれだけショックだったんだ。


「さ、最後にもう一つだけ、試してみてもいいですか……?」

 人指し指を立てながら、うつろな目で呟く。何と言うメンタルの強さ。狂気さえ感じる。

「わ、分かりました。何をすればいいですか?」

「私を抱きしめてもらえますか?」

「は、はい。分かりました」

 もう戸惑ってなんかいられなかった。言われた通り、優しく彼女の身体を抱きしめる。


 あ、いい香りだ。甘くて、優しい香り。女の子って何でこんな良い香りするんだろう。

 この首元、耳の下。最高だ。深呼吸! 深呼吸! 深呼きゅ――。

……またやってしまった。

「す、すいませ――」

 離れようとした僕の身体を、彼女がぎゅっと押さえる。

「だ、大丈夫です。大丈夫ですから思う存分嗅いで下さい」

「い、いいんですか?」

「大丈夫です。安心して下さい」

 いつもと同じ穏やかな口調で、僕の頭をそっと撫でる。

 彼女の甘い匂いと、優しい手の運び。僕は湧き上がる欲望に身を任せた。


「も、もうそろそろいいと思います。剣を抜いてみてください」

 真っ赤な顔をして彼女が言った。

「あ、わ、分かりました」

 そして僕も多分真っ赤な顔をして答える。

 ゆっくりと剣を抜く――お願いしますお願いします。


「あっ! 大きくなってる!」

 小指サイズだった刀身。それが三十センチ程に成長していた。

「良かった! 良かったです!」

 よほど嬉しかったのか、彼女が僕の胸に飛び込んで来た。

「あっ! す、すいません! 取り乱しちゃって」

「い、いいんですよ。それにしても、一体どういう仕組みなんでしょう?」

「分かりましたよ。ずばりこれはフェロモンですね」

「フェロモンですか?」

「そうです。この剣は女性のフェロモンを力に変える剣だと思います。身体を触っても変わらないのに、匂いを嗅いだら大きくなったじゃないですか。匂いの元はフェロモンですからね。唾液にもフェロモンが含まれていますし、まず間違いないでしょう」

 自信満々に語る彼女。そう言われると、何となくそんな気がしてくる。


「すっきりしました。肩の荷が下りた気がしますよ」

 晴れ晴れとした顔で彼女が笑う。良かった。これでやっと解放される。もう結構眠い。かれこれ二時間位は経過した筈だ。

「じゃ、じゃあ解除しますね?」

 忘れてた、鎧の解除があったんだ。

「お、お願いします」

 彼女の手が伸びる。くそっ、やっぱりめちゃくちゃ気持ちいい。

 気持ちいいけど、恥ずかしすぎんだよ――。  

 

 ああ、神様。僕は今、三本の足でしっかり立っています。

 ええ、もういいんです。悟りました。抗うことは出来ないのです――。


 ローブを着て、ベッドに向かう。

「そ、それじゃあおやすみなさい」モミさんにおやすみを言って、ベッドにもぐる。

 予定だった。


「一緒に寝ましょうか」

 はい? 今何て言いました?一生にネマー商会? 一章に魔性か? 

 ダメだ、どう聞き間違えても無理がある。

「ど、どういう事ですか?」

「一緒に寝れば、寝てる間に力も溜まります。一石二鳥ですよ」

 ごく普通に、さらりと彼女は言った。


 この世界は何だ? 男女が同じ布団で寝る事はさほど問題じゃないのか? 

 まぁ僕の世界でも、外国とかじゃ挨拶代わりにキスしたりするし。

 文化の違いはどこにでもある。それは分かる。そんなさらりと言うって事は、僕がおかしいんだろうか。郷に入れば郷に従えとも言うし。

「そうですね。分かりました」

 何より僕は、早く休みたかった。


 ランプの明かりが消える。

「おやすみなさい」

「お、おやすみなさい」

 彼女のベッドに入り、目をつぶる。甘い香りの誘惑に負けないように、僕は無心になる事にした。

 無心。無心だ。何も考えない。待てよ、既に考えてるじゃないか。無心になるために無心になろうと考えてるじゃないか。ちくしょう、いい匂いしやがる。もう何が何だか分からない。

 この長い、罰ゲームの様な夜が早く終わればいい。甘い匂いと煩悩に包まれながら、僕はひたすら願っていた。

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