性剣の秘密
ああ、生き返る――。
浴槽に張られたお湯に浸かると、今までの疲れがとれていくよう。
とんでも無い目にあった。まさかこんないわくつきの装備だなんて。僕には使いこなせる気が全くしない。
ガジガラに住む魔女、か。彼女に会わなかったら、僕は今頃どうなっていたんだろう。
もう一度彼女に会いたい。会ってきちんとお礼を言いたい。
情けない僕を殺して、生まれ変わらせてくれた。彼女は僕の恩人だ。
それにしてもこの腕輪、どういう仕組みなんだ。
綺麗な彫刻――あれ? このくぼみはなんだろう。
くぼみに指を置いた瞬間『カチ』っと音が鳴り、光が身体を包む。
光が消えた瞬間、僕の身体は鎧で包まれていた。
おお。こういう仕組みになっているのか。また一つ発見してしまった。
「何だか色々分かっていくってワクワクするなぁ」
浴槽から上がり、股間をさする……何で解除しないんだ。
頼む、解除してくれ。腕輪に戻ってくれ。もっとか? もっと擦ればいいのか?
情けなさすぎるだろこの行為。どう見ても変態です、本当にありがとうござい――。
「け、ケンセイさん、何してるんですか……?」
……もう殺してください。
「遅いから心配で見に来たんですけど、色々と危ない絵でしたね」
「す、すいません。腕輪を触ってたら突然……」
「残念ながらケンセイさんじゃ魔装具の解除は出来ないと思います。ケンセイさんは魔力がありませんからね」
「そうなんですか……。今日は諦めてこのまま寝ますよ」
「け、ケンセイさんが嫌じゃなければ、解除して差し上げますけど……」
「僕は嫌じゃないですけど……。い、いいんですか?」
「お、お困りでしょう? 仕方ありませんもの」
「じゃ、じゃあお願いします。色々とすいません」
「気にしないで下さい。い、いきますね――」
「じゃ、じゃあ私お風呂行って来ます!」
顔を赤らめたモミさんが、僕の脇をそそくさとすり抜けていく。
感無量。我が人生に一片の悔いなし。世紀末覇者の様に、高々と突き上げられたセクシーソード。
もう嫌だこの装備。死にたい。
部屋の中にあったバスローブらしき物を来て、ベッドの上でゴロゴロする。
しばらくして、モミさんが風呂から出てきた。
濡れた髪、火照った肌。女性に免疫の無い僕には罰ゲームの様だ。
「モミさん。この装備の事は他の二人には言わないで貰えませんか? ニーヤには特に知られたくないんですよ。あんまり良い顔しないと思うんで」
考えた末、この話は内密にした方が良い気がした。こんな変態装備、またあらぬ誤解を生みかねない。
「そうですね。分かりました、じゃあこれは二人だけの秘密です」
――二人だけの秘密。
何て甘美な響きだろう。女の子と二人だけの秘密っていいなぁ。
「でも、その剣はどうやって精を力に変えるんでしょう?」
「いまいち分からないんです、自分で確かめながら使えって言われましたし。最初に刀身が現れた時は、その、き、き、き、キス……したんですけど」
「き、き、き、き、キスですか!? ケンセイさん魔女とそんな事したんですか!?」
「い、いや! 僕がしたわけじゃなくて! 向こうがいきなり!」
「そ、そうなんですか。確かに、魔女の精なら納得ですね。あの刀身は凄い魔力でしたから」
「やっぱりそうなんですかね。もうコレは使わないで、他の武器とか持ったほうがいいかもしれませんね。僕には使えそうもありませんし」
「うーん。でもなるべくなら使いこなせるようにした方がいいと思いますよ。ケンセイさんは剣術を習ってはいないんですよね?」
「はい。僕の世界には剣なんてありませんから」
「じゃあ尚更その剣に慣れた方が良いと思います。私もお手伝いしますから、一緒に頑張りましょう」
こぶしをぎゅっと握りしめ言った。
ああ、モミさんは本当に良い人だ。一緒に来ないかって言ってくれたのも彼女だし。こんなに優しい三次元の女性は初めてだよ。
生きてて良かった。いや、死んで良かったなのか? もうどっちでもいいや。
「ちょっとその腕輪見せてもらえま――あっ」
立ち上がった瞬間、バランスを崩して彼女が倒れ込んでくる。
両腕で彼女を受け止めると、甘い匂いが鼻をくすぐった。
「だ、大丈夫ですか?」
「すいません。ちょっと立ちくらみしちゃって。あれ? その腕輪……」
腕輪を見ると、薄っすらと光を放っている。
そしてふと気付いた。僕の胸に当たる、彼女の柔らかいふくらみの感触に。
「あっ、すいません!」
慌てて離れる。いや、今のは僕悪くないな。謝っちゃったけど。
「あ、光が消えましたね」
彼女から離れた瞬間、腕輪の輝きは消えていた。
モミさんが何かを思いついたように口を開く。
「ケンセイさん、もう一度魔装具装備してもらえますか? ちょっと確かめたい事がありまして」
「あ、はい。分かりました」
腕輪のくぼみを押す。しかし何も起こらない。
「あ、あれ? さっきはこれでいったんだけど」
何度押しても、腕輪は腕輪のまま。一体どうしたんだろう。
「うーん。何ででしょうか。もしかしたらそのローブかもしれませんね。後ろ向いてますから、一度脱いでみてもらえますか?」
ローブを脱ぎ、くぼみを押す。あ、鎧になった。
ふむふむ。何か身につけていたらダメって事か。
「やっぱりそうでしたか。じゃあ剣を抜いてみてもらえますか?」
剣を抜くと、申し訳なさそうに小指ほどの刀身が現れた。
……何だこれ。まるでおもちゃじゃないか。
「うんうん。やっぱりさっき私に触れた時、少し魔力に変わったみたいですね」
「あの腕輪が光った時ですか?」
「多分そうだと思います。女性に触れると魔力に変わるんでしょうか」
「あ、でもペロ様に触れた分は変わってませんよね。最初に抜いた時は全く刀身ありませんでしたし」
「そう言われるとそうですね。魔女のキスは良くて、ペロ様の時はダメで、今は――」
ぶつぶつ言いながら、何かを考えている。彼女の探究心は強そうだ。