表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/144

呪われた装備

 部屋の中は、余計なものが一切ない簡素な室内。

 二つ並んだベッドはそこそこ離れてる、これなら大丈夫そう――ってなにが大丈夫なんだ……。

「私と一緒の部屋ですいません。迷惑じゃないですか?」

「め、迷惑だなんてそんな。僕の方こそ迷惑じゃないかなって思うよ」

「それなら良かったです。少しお話もしたかったんですよ、異世界のお話も聞きたいですし。とりあえずお風呂に入ってゆっくりしましょう、準備してきますね」

 そう言うと、彼女は奥の部屋に入っていった。

 お風呂、か。この世界にもお風呂とかあるんだな。まだまだ分からない事だらけだ。

 知りたい、もっとこの世界の事。そして彼女の名前も。


「そういえばケンセイさん。その剣、さっき私が拾った時は刀身がありませんでしたが。魔力を込めて使う物なんですか?」

 戻ってきたモミさんが、僕の腰の柄を指差して言った。抜いてみるとやはり刀身はない。

「僕にもよく分からないんですが、何でも女性の――」

 言葉に詰まる。女性の前でそんな事言っていいんだろうか。それを聞いた彼女はどんな反応をするだろう。

 変態ソード、いやセクシーソードか。これは中々説明の仕様がない。


「わ、分からないんですよ。どうやって使うのか全く」

 とっさに嘘をついてしまった。言えないって絶対。

 折角信用してくれているんだ。わざわざ余計な事を言って不信感をあおるわけにはいかない。

「そうなんですか。じゃあ一緒に色々試行錯誤していきましょう」

「あ、うん。ありがとう」

 ああ、モミさんの優しさが辛い。罪悪感さえ覚える。


「お風呂の準備が出来ました。ケンセイさんお先にどうぞ」

「いや、モミさん先に入って下さい。僕は後でいいですよ」

「遠慮しないで下さい、大丈夫ですから。でも……私が浸かったお風呂に入りたいって言うなら別ですけど」

「お、お先に入らせていただきます」

 笑顔で何て事言うんだ。やっぱり変態だと思われてるんじゃないだろうか。

 あれ、って言うかこの鎧どうやって脱ぐんだ? 身体にピッタリはまって外れる気配がないぞ。継ぎ目らしき場所も見当たらないし。


「どうしました?」

「いや、鎧の脱ぎ方が分からなくて」

「ちょっと見せてもらえますか? あら、これは不思議ですね。継ぎ目もありませんし」

 ち、近い。いい匂いもするし。しかも鎧の上から触られてるのに、肌を直接触られている様な感触だ。

 それにしても、やっぱりモミさん胸大きいな。

 ガジガラで会った彼女程じゃないけど、柔らかそうで――。


「あんっ」 

「ふぁっ!?」

 ななな、何をやってるんだ僕は!? 身体が勝手に! 手が勝手にいいいいいい!

「すすす、すいません! すいません!」

 謝るしかない! 土下座だ土下座、ジャンピング土下座だ。

 何て事をしでかしたんだ。頭を撫でるのとは訳が違う。死んでしまえ僕、頭を割って死んでしまえ!

「け、ケンセイさん大丈夫ですから。そんなに頭を打ったらお怪我をなさいます。顔を上げてください」

 頭なんて上げられるわけがない。折角モミさんが信用してくれていたのに。もうダメだ。変態のレッテルを貼られて僕は生きるんだ。

 この鎧の所為か? 絶対そうだ。呪われた装備だって言ってたし。

 くそっ、とんだ餞別だ。悪意しか感じないぞ。


「ペロ様の時もそうでしたけど、もしかして身体が勝手に動くんですか?」

「そ、そうなんです! 僕は決してやましい気持ちじゃないんです! 剣と同じく呪われた装備だと思います!」

「剣と同じく……ですか?」

……しまった。知らないって言ったんだった。もう言い逃れは出来ない。

「じ、実は――」



「そうだったんですか。女性の精を力に変える剣、ですか」

「すいません、知らないって嘘ついたりして。正直に話していいものか分からなくて」

「気にしないで下さい。多分これは『魔装具』ですね」

「魔装具ですか?」

「ええ、魔力が込められた特殊な道具です。人間には造れない、魔族専用のアイテムですね。性能は良い反面、何らかの呪いがかけられているパターンが多いんですよ」

「じゃあ外れないって事ですか?」

「そうですね。完全に外すのは不可能かもしれません。でも鎧を解除する方法はあると思うんですよ。ちょっと失礼しますね」

 そう言うと、彼女の手が紫のオーラに包まれた。何かの魔法だろうか。僕の身体を探るように、彼女が手をかざす。


「あっ」

 何かに気付いたように彼女が声を上げる。

「何か分かりました?」

「え、ええ。分かりましたけど……。その……」

 言葉を濁して俯く。何だ、嫌な予感がぷんぷんする。

「も、もしかして外れないとかですか?」

「い、いえ、そういうわけではないんですけど……」

 何だ、一体どうしたって言うんだ。

「め、目をつぶってもらえますか!」

「目ですか? 分かりました」

 彼女の言う通り、目をつぶる。


「じゃ、じゃあ失礼しますね」

「ふぁっ!?」

「す、すいません! 我慢して下さい!」

 股間に感じる、手を覆うオーラの温かさ、指の感触。鎧で隠れているはずなのに、刺激がダイレクトだ。

 触られている! これは触られている!

「ま、まだですか! 色々とやばいです!」

「も、もう少しの辛抱です!」

 そ、そんなに撫でないで。優しすぎる――。


 その時、すっと身体が軽くなった。目を開けると、身体を包んでいた鎧が外れ、左腕に腕輪がはまっていた。

「あ、とれましたね。この腕輪は何でしょう?」

「多分それが魔装具です。鎧の元ですね」

 へー。こんなにコンパクトになるのか。いやはや何とも不思議な感じだ。

「あの、み、見えてます」

 モミさんが恥ずかしそうに目を背ける。

 ん? 見えてる? ……見えてる!?

 自分の姿を見て驚いた。パンツ一丁ならぬ、腕輪一丁。股間には決して光らないセクシーソードが戦闘態勢だ。

「ああああああ! すいませんすいません!」

 僕は脱兎の如く風呂場に逃げ込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ