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天国から地獄

「ぷはあっ! 助かった! 助かったああああああ!」

 水面から顔を出した僕の目の前。

 大小様々な六つのおっぱいがありました。

 あ、おっぱいがいっぱいだ。三人の女の子。全員裸。

……あれ、天国かな? 死んじゃったのかな?


「へ、へ、へ、変態だあああああああああああああ!」

 赤い髪の少女が叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕は変態じゃ――」

「問答無用! 死にさらせぇ!」

 ナイフ!? やばい! 殺される!?


「た、助けてええええええ!」

 危険すぎる。ここは逃走あるのみだ。

 水から出て、ひたすら走る。ここは森の中っぽいし。とりあえず奥に隠れてしまえば――。

「逃がしませんよ」

 い、いつの間に!?

 僕の退路を塞ぐように、金髪の女性が立っている。

 片手じゃ隠しきれない程のふくらみ。まて、そんな事を言ってる場合じゃない。

 とりあえず逃げ――。

「どこにいくの?」

 もう一人、青みがかった髪の少女、いや幼女? つるぺたボディは隠す所なし! ちっぱい最高だ!

 いやいやいや、逃げなきゃマズイ。見蕩れてる暇なんてない。


「やっと追い詰めたわ。さぁ観念しなさい」

 完全に囲まれました。だけど裸の女の子に囲まれるってどういう状況だ。ある意味ご褒美じゃないのか。

「と、とりあえず服を着ましょう! 色々見えてるし!」

 そうだ、一回落ち着いてもらって事情を話そう。それからでも遅くはない。凝視できないし。

「そんのどうでもいいわ。どうせアンタはここで死ぬのよ」

 赤い髪の女性がナイフを構える。なんだそれ、どうしてこの世界の人間は皆凶暴なんだ。

「ちょ、ちょっと待って、話を――」

 躊躇無く、無慈悲にも投げられたナイフは僕の頬をかすり、薄っすらと血が流れ出した。


……今避けなかったら間違いなく顔面ど真ん中に刺さってた。

 間違いない。こいつらは僕を殺す気だ。

 ってか何もしてないのに、何で殺されなきゃならないんだよ。

 殺らなきゃ殺られる。ここはそういう世界なのかもしれない。

 そうだとしても、僕はこんな所で死ぬわけには行かないんだ。


「やる気ね。女だからって舐めてると死ぬわよ」

 鞘に手を掛けた僕に、赤い髪の女が言った。

「死ぬもなにも、殺そうとしてたじゃないか。生憎だけどまだ死ぬわけにはいかないんだ」

 そうは言ってみたものの……この状況じゃどうすればいいんだ。

 他の二人は仕掛けてくる気配はなさそうだけど。それでも一斉にこられたら終わりだ。

 

「うるさい変態! 死をもって償いやがれ!」

 早い! 彼女はナイフを握り締め、一直線に向かってきた。剣を抜いて、彼女のナイフを受けとめる。

 ずしりと腕に衝撃が走った。こんな細い身体で、何て力だ。

 ってか良く受け止めた僕。自分を褒めたい。


 すると、彼女が後ろに距離をとった。どうすればいいんだ。何にも分かんないよ。

「その剣……。珍しい剣だな。見たこと無いぜ」

 見たこと無い? これは珍しいのか? だから距離をとったのか?

 こうなったら一か八か、ハッタリだ! 剣の達人っぽくアピールするんだ。戦意喪失してくれれば、話も聞いてくれるかもしれないし。


「そりゃあああああ!」

 それっほい掛け声と共に、剣を一振り。威圧感を出して敵を牽制する、はずだった。

 だけど起こったのは、全く予想外な展開。

 振られた剣から、まるで空気を切り裂く魔法の様に、光の軌跡が真っ直ぐ彼女に飛んで行く。

 それは周囲の木々を真っ二つにしながら。彼女の身体を吹き飛ばした。

 彼女の身体から血が噴き出す。その瞬間、頭が真っ白になった。


 剣を捨て、彼女に駆け寄る。倒れこんだ彼女を支えると、涙が溢れてきた。

 人を傷つけた。それも女の子を。それがとても衝撃的で、とても怖かった。

「くっ、よくも――」

「ご、ごめんなさいごめんなさい」

 僕はひたすら謝った。謝る事しか出来なかった。とめどなく流れる涙が、彼女の身体を濡らしても。


「……いいよもう」

 彼女の言葉に、顔を上げる。

「分かったから泣くのやめてよ。アンタの涙で身体中びしょびしょだよ」

 彼女の身体を見ると、涙が胸を伝い、へそに小さな水溜りが出来ていた。そして忘れていた。彼女は全裸だ。

「あっ! ごめん!」

 とっさに手を離した瞬間、ゴツンと鈍い音が響いた。

「いったあああああ! アンタいきなり何すんのよ!」

「あっ、ごめん! ごめん!」


 気配を感じて後ろを向くと、いつの間にか服を着ていた他の二人が笑っている。

「ねぇ、アンタ達何で笑ってるの」

「面白いからに決まってるじゃないですか」

「って言うか普通助けたりしない? アタシやられてたかもしれないじゃん?」

「その方に悪意は無さそうでしたし。ねぇペロ様」

 金髪の女性の言葉に、隣の幼女がコクンと頷く。

「まったく、それでも仲間なの――ちょっと血を洗い流してくるわ」

 そう言って、彼女は森の中に歩いていく。彼女の腕から流れてた血は、今はぴたりと止まっていた。



「ところで、貴方は一体何をしていたんですか? 上から落ちてきたみたいですけど、木の上で覗きでもしていらっしゃったのかしら?」

「ち、違います! 魔法みたいなので飛ばされて、落ちた先が丁度あそこだったんですよ!」

「そうだったんですか。それにしても珍しい鎧ですね、剣もそうでしたが」

 あ、そうだ。剣はどこだ。この辺に落としたはずだけど。

「探し物はこれですか?」

「あ、それです。ありがとうございます」

 刀身の光は消え、柄だけになったセクシーソード。さっきので力を使い果たしたのか?


「ねぇアンタ。さっきの技はなに。そしてその剣と鎧。アンタ一体何者なわけ? テヘペロには居なかったよね?」

 戻ってきた赤い髪の女性が尋ねてくる。

……てへぺろ? 絵文字……? ニュアンス的に地名? 全く分からない。

「それが、僕にもよく分からなくて――」

 とりあえず、彼女らにざっと一連の説明をする。


「異世界……ですか。確かにニホンって言う場所は聞いた事ありませんね」

「信じられないな。ペロはどう思う?」

「嘘、ついてない」

 この幼女、ペロちゃんって言うのか。可愛いなー。ちっさくて、青っぽいショートの髪。なでなでしたくなるわー。 


「おい、お前何やってるんだ」         

 !? 何をやってるんだ僕は。あろう事が、見ず知らずの幼女の頭をなでなでするなんて。いや、したいとは思ったけど、どんだけ欲望に忠実なんだ僕は。

「ごっ、ごめんなさいごめんなさい! 何だか身体が勝手に!」

「やっぱこいつ怪しいぞ! 変態だって、間違いない!」

「落ち着いて下さい。彼もやましい気持ちで触ったわけじゃないでしょう。ね、ペロ様もお許しになられますよね?」

 小さな頭をコクンと縦に振る。よかった、どうやら怒ってはいないらしい。

 だけど一体どうしたっていうんだ。勝手に手が動いたような。


「と、ところでここは何処なんでしょうか? この世界の事を僕は何も知らないんです」

「この世界はワーワルツと言います。ここはテヘペロですよ」

 ワーワルツって言うのか。テヘペロとはどうやら地名らしい。かわいい地名だな。

「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はモミと申します。こっちの赤いのがニーヤ。この青いのがペロ様です」

「あ、僕は剣聖です。よろしくお願いし――」

「ちょっと、赤いの青いのってあんまりじゃない?」

 黙って話を聞いていた赤いの――じゃなかった。ニーヤっていったか。僕を殺そうとした凶暴な女性が、不満げな顔で口を挟む。

「その鎧、貰ったって言ったわよね。その人の名前は何て言うの?」

「それが分からないんですよ、もう一度会えたら教えてやるって言われて。だから僕はその人に会いに行きたいんです――カジガラへ」


 僕の言葉に、彼女達の表情が強張る。

「……アンタ、カジガラが何処だか知ってて言ってるの?」

「ば、場所は知りませんけど。魔界だって言ってました」

「魔界がどれだけ恐ろしい所か知らないわけ? 人間が行ったら一瞬で魔物の餌よ」

「でも僕が会ったのは魔物って感じじゃありませんでした。綺麗な女の人だったし」

「魔女、かもしれませんね」

 モミさんが口を開く。

「魔女、ですか?」

「ええ、ガジガラに住む魔女の噂を聞いた事があります。何でも美しい美貌と、強大な魔力を持ち、魔王でさえも下手に手を出せない実力だとか」


 魔女。そう言われてみるとそうかもしれない。

 天使と見紛う程の、人間離れした美貌。そしてあの魔法。

 そうか、彼女は魔女だったのか。すごい人なんだな、魔王でさえも手が出せないって――。

「魔王!? 魔王とかいるんですか!?」

 これは驚きだ。ファンタジー全開じゃないか。

 いや、魔界があって魔物が居るんだから、その王が居てもおかしくないか。


「本当に何にも知らないのね。それでよくガジガラに行こうだなんて言えるよ」

「そうですね。ケンセイさんは少しこの世界の事をお勉強なさったほうがいいかもしれません」

「でもこれから何をすればいいのか……」

 そうだ、これから僕はどうすればいいんだ。

 知ってる人も居ない。場所も分からないしお金も無い。彼女に会いに行く以前の問題だ。


「じゃあケンセイさん。私達と一緒に来ませんか?」

「えええっ!? こんな変態と一緒に行くの!?」

「それはもう誤解だって分かったじゃありませんか。私達と一緒に旅をして、ワーワルツの事を知ってもらえば。ね、ペロ様」

 ペロ様が静かに頷いた。ってかこの子あんまり喋らないな。

「今一緒に旅をって言いましたが、皆さんは旅人か何かですか?」

「アタシ達は魔王を倒すために旅をしてるんだよ」

 ニーヤの言葉に驚いた。魔王を倒す? この子達が?

「あ、今アンタ『何言ってんだこいつ』って思ったでしょ」

「いや、単純にビックリしちゃって。君達みたいな女の子がどうしてって」

 ニーヤは僕と同年代っぽいし。モミさんは僕よりちょっと上くらい。ペロ様なんてどう見ても子供だ。


「どうして、か。アンタちょっと来なさい」

 そう言うと、ニーヤは立ち上がり歩いていく。彼女の後を歩いていくと、崖の様な場所に出た。

「あそこ、見てみなよ」

 彼女の指差す先。崖から見下ろすと、視界に飛び込んできたのは衝撃的な光景だった。

 村。いや、村だった、と言ったほうが正しいのかもしれない。

 真っ黒な墨の様に焼け焦げた、かろうじて建物の面影を残した残骸の数々。火は消えているようだが、所々からもくもくと白煙が上がっている。

 

「酷い……。何があったんだ……?」

「あれがアタシ達の村、テヘペロ村。魔物に襲われて、もう村は無くなってしまったけどね」「君達の村? 村の人はどうなったんだ!?」

「全員死んだ。殺されたんだ」

 悔しそうに、彼女が拳を握る。

「生き残ったのはアタシ達三人だけ。だから決めたんだよ、魔王を殺して、村のカタキをとるんだって」


 言葉にならなかった。目の前の光景は、僕の生きてた世界では決して目にする事のない現実。日本以外では戦争もあるし、ニュースでも見た事ある。でも、どこか他人事で、僕には関係のない世界の話だった。

 今見ている光景は、この世界の現実。

 魔物に村が襲われる。よくあるゲームの中の話ではなかった。

 ワーワルツの――哀しい程、残酷な現実。


「あ、アンタ何泣いてんの。アンタには関係ないでしょ、知らない世界の知らない村なんて」

「そうだけど、すごく悲しいんだ」

 気がついたら涙が零れていた。どうしてかは分からない。ただ、目の前の現実が悲しかった。


「行こう」

 僕の顔を見て、呟くようにニーヤが言った。

「アンタが悪い奴じゃないって分かったから、とりあえず一緒に行こう」

「いいんですか?」

「変な事したら殺すけどね。あと敬語はいいよ、歳もかわらなそうだし」

「あ、ありがとう」

「べ、別に礼を言われる筋合いはないよ。さっさと行くよ、日が暮れる前に森を抜けないといけないから」

 そう言って彼女は歩き出す。

 何も知らない異世界、ワーワルツ。僕の冒険が始まった瞬間だった。

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