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初めてのお買い物

――さん。ケンセイさん。

「ケンセイさん。起きて下さい」

 モミさんの声で目が覚める。

「もうそろそろ着きますよ」

「あ、うん。ありがとう」

 もう着くのか、随分寝ていたんだな。

 膝の上に居たはずのペロ様の姿がない。もう皆甲板にでたのか。

 目をこすり、大きな伸びを一つ。部屋を出て甲板に向かった。


 甲板に出ると、目の前には陸が広がっていた。

 遠くの方には、雲を突き抜けた大きな山が聳え立っている。

 あの山も通ったりするんだろうか。頂上にはドラゴンなんか住んじゃってたりして。

 そんな事を考えるとワクワクしてきた。

 まだ知らぬ、ワーワルツの大陸。この大陸のどこかに、彼女がいるんだ。

 初めて出逢った、名も知らぬ魔女が。  


――港町ラーバス―― 


 船が着いた先は、シードラより少し大きい町。

 まずは買い物を済ませる、と言った彼女達の後ろを歩く。

 見慣れない文字、見慣れない建物。全てが僕の好奇心を誘う。

 ムルアラットやシードラでは、度々人の視線が気になった。

 この鎧の所為って事は分かるけど、正直見られるのはあまり好きじゃない。

 でもこの町ではそこまで視線を感じなかった。さっきから鎧を着ている人とすれ違うし、そこまで珍しくはないんだろう。


「ケンセイさんも何か欲しい物ありますか?」

「あ、僕はいいですよ。何を買っていいのかも分からないですし」

「それじゃあこれで何か好きなものを買って下さい。そこの噴水前で待ち合わせって事で」

 彼女が金貨を一枚取り出した。

「あ、ありがとうございます」

 何となく、親に小遣いを貰う子供の気分。ちょっと複雑だけど嬉しかった。


 三人と別れて、町をぶらぶら歩く。

 剣や鎧はともかく、薬草みたいな草や、謎の液体が入った小瓶。何が何だか全く分からない。

 生鮮食品を買うわけにもいかないし、正直困った。


「お兄さん、焼き立てだよ! 美味しいよ!」

 屋台のおばさんに呼び止められる。

 近づいてみると、串に刺さった美味しそうな肉が香ばしい匂いを立てている。

「これは何のお肉ですか?」

「何言ってんだい、横に書いてるじゃないか」

 これは料理名か何かなのか。看板に何か文字が書いてある、だが僕には読めないのだ。


「すいません。字が読めないんですよ」

「あら、それは悪かったね。これはヌールの肉だよ」

「ヌールって何ですか?」

「ヌールも知らないのかい!? ヌールはヌールだよ。説明の仕様が無いねぇ」

 驚いた顔をされた。ヌールって一体何なんだよ。

 牛の仲間とかかな? 牛肉っぽいけど。


「じゃ、じゃあ一本下さい」

 そう言って金貨を出すと、おばさんは困った顔をする。

「金貨じゃダメだよ。兄さん何にも知らないんだね? この辺の人じゃないのかい?」

「ええ、すいません。遠いとこから来てまして」

「あら、そうなのかい。じゃあこれあげるよ」

 そう言うと串を僕に差し出した。


「え、いいんですか?」

「いいのよ。食べた事ないんだろ? ほら、食べてごらん」

「あ、ありがとうございます」

 貰った肉を一口かじると、思ったより柔らかく、ピリリとした香辛料が良く効いて、口いっぱいに肉汁が広がった。

「柔らかくてとっても美味しいですね」

「そうだろう? アタシは何十年もこの場所でこれを焼いてるのよ。ラーバスじゃ一番。いや、ワーワルツでも一番って言っておこうかしらね」

 そう言って、おばさんは笑った。

 

「ところで、この金貨はどれくらいの価値があるんですか?」

「そうねぇ、この串が銅貨一枚だからね。銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨五枚で金貨一枚ってとこね」

 ふむふむ。聞いてみたものの良く分からないな。

 この肉が銅貨一枚って、そもそも銅貨一枚がどれくらいか分からないし。

 もしこれが二百円だと仮定すれば、金貨一枚は一万円位かな。 

「ありがとうございました。何となく分かった気がします」

「うんうん。ぼったくられない様に気をつけなよ。アタシみたいに良い人ばかりじゃないんだからね」

「そうですね、気をつけます。本当に美味しかったです、ありがとうございました」

 おばさんにお礼を言って、僕はまた歩きだした。


 色々と見て回ってると、小さな雑貨屋らしきお店で、赤いバッグが目に止まる。

「お、いらっしゃい。その腰袋は昨日仕入れたばかりなんだよ」

 革で出来たヒップバック。ニーヤも似たようなの腰に巻いていたな。

「いいだろう。革も丈夫で、しかも軽いんだ」

 確かに軽い。生地もしっかりしてるし、これなら長持ちしそうだ。

「これいくらですか?」

「銀貨三枚だね」

 銀貨三枚、って事はあと銀貨2枚しか余らないのか。

 流石に貰ったお金全部使うのはいけないよな。子供じゃないんだから。

「ちょっと考えていいですか? 他のも見たいんで」

「いいよいいよ。好きなだけ見てってくれ」

 結構色んな物があるから、見ていて飽きない。

 何に使うのか分からない物もあるし、僕の世界でも馴染み深いものもある。


 これは、ネックレスかな。綺麗な石が付いてる。

「おっ、いいねぇ。お兄さん見る目があるよ。それも昨日仕入れたばっかりだ」

「そうなんですか。この石は何ですか?」

「それは『トリスタルタイト』だよ。珍しい石さ、ここらじゃまず手に入らないな」

「これ二つとも同じ石なんですか? 色が違いますけど」


 同じネックレスだが、付いてる石の色が違う。

 アクアマリンの様な青と、シトリンの様な黄色。

 同じ石とはとても思えない。

「そこが『トリスタルタイト』の珍しい所なんだよ。この石は採掘時に色が変わるんだ、世界に全く同じ色は二つと無いって話よ」

「へー、そうなんですか。ちなみにこれはいくらですか?」

「これは銀貨一枚だね」

 安すぎじゃないか? そんなに珍しい石ならもっとするだろ普通。


「お、今安すぎだなって思ったね? 偽物じゃないかって思ったんじゃないかい?」

 す、鋭い。商人の特殊スキルか何かか?

「まぁ、確かに安いとは思いましたよ」

「そうだろう、普通に買えば金貨一枚だからな。だが安心してくれ、これは正真正銘トリスタルタイトだ。神に誓ってもいい」

「じゃあ何で銀貨一枚なんですか?」

「何となく兄さんが買いそうだからさ。売れない金貨一枚より、売れる銀貨一枚。そこを見極めるのが商人の器量だよ」


 何となく納得させられた。でもこのままじゃ店主に負けたような気がする。

「じゃあこの二つと、あのバッグ。金貨一枚で、銅貨三枚お釣りをくれたら買いますよ」

「おっ、買い物上手だね! よしわかった! それでいい。じゃあ袋に入れてやるよ」

 店主の言葉に口元が緩む。僕は上機嫌で店を後にした。


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