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授かりし命とセクシーソード

 何だここ。よくわかんないな。何してたんだっけ。

 何だかいい匂いがするな。これは何だ? ああ、何だこれ。すごい柔らかいな。気持ちいい。初めてだけど懐かしいような、そんな感覚。

「そんなに余の乳がいいのか?」

「あっ、あっ、あっ」

 こいつは僕を殺そうとした女。身体が動かない。涙が溢れる。

「もう何もせんよ。悪かったな、怖い思いをさせて」

 そう言って、彼女は僕の額に優しく手を置く。その手はとても暖かく、身体の力が抜けていくような気がした。

 僕の腕を切り落とし、足を踏み千切り。殺されそうになった筈なのに。

 額を優しく撫でる彼女の手に安心感を抱く。


「しかしまさか乳を揉まれるとは。やはりその腕、落としたままの方が良かったかもしれんな」

「すっすいません! 手が勝手に――」

 あれ、手がある。足もある。裸!? どうして僕は裸なんだ!?

「ふっ、服はどこですか!? 僕の服!」

「ああ、身体を洗うのに邪魔だったからな。色々と漏らしておったし」

 驚愕の事実。色々と漏らしていたのは何となく覚えている。って身体を洗った? 彼女が? 僕の身体を? 殺そうとしたのに? そもそも何で生きているの? 色々な疑問が頭の中をかき回し、同時に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「何を赤い顔をしておる。どこか痛い所でもあるのか?」

 彼女が僕の身体を見る。違う、丸出しなんだ。隠したくても何故か身体が動かない。見られてる! 見られてる!

「はっ、恥ずかしいんですよ! 見られるのが!」

「今更恥ずかしがる事もなかろう。洗った時に見て触っておるのだ。気にするな」

 そうか、もう見られたし触られたのか。じゃあしょうが――。

「さっ、さわ、触ったんですか!?」「触らんと洗えぬだろう? ははぁ、お前さては……」

「あっ!」彼女の手の感触。ファーストタッチを奪われた!? 

「知らんのだな。女を」

「しっ、知りません知りません! すいません!」

 何故か謝ってしまった。とりあえず謝っとけばいい。日本人の悪い癖だろう。

「ほう、これは中々いいものを持っておる。熱くて、硬い」

 どんな状況なんだ。全く理解できない。天国から地獄。いや、地獄から天国だろうか。

「このまま千切ってしまえばどうなるんだろうな」

 彼女の言葉に、全身の血が一気に抜けるような感覚を覚えた。

「あっはっは。これは愉快だ。子供に戻ったわ」

 笑えない冗談。全然面白くないんですが。今すぐにでも逃げ出したい気分だ


「てか、身体が全然動かないんですけど」

「ああ、しばらくすれば動くようになる。お前は死に掛けたのだから当然だ。しかし、よほど乳を揉みたかったのであろうな。動けるはずがないというのに、手が乳に伸びてくるのだ。流石の余も驚いて固まってしまったわ」

 別に胸だと知って触った訳じゃないけど。

 そうか、やっぱり僕は殺されそうになったんだ。あれ、じゃあ何で怪我してないんだ?

「何で怪我してないんですか? 僕の手も足も変わった様子が無いんですけど」

「余が治したからな、魔法で」

 魔法。日常的にいつも耳にしていた。しかし、それはフィクションの中でだ。

「魔法……ですか? 僕の世界には魔法なんてものは存在しないんですが、この世界には魔法があるんですか?」

 僕の言葉に、彼女は驚いた表情で言う。

「魔法が無い? それはどういうことだ?」

「僕が住んでいた世界では、魔法は御伽噺の中の存在です。見たこともなければ、使える人なんて居ませんでした」

「ほう、それは可哀想な世界だな。魔法が無い、見たことも無いとは。では――少し見せてやるとするか」

 ニヤリと笑った彼女に、何となく身の危険を感じた。

「もっ、もう痛いのはいいです!」「そう怖がるな、何もせんと言っただろ。ほら、あの木を見ていろ」

 指差す方向には一本の木。彼女がゆっくりと息を吸い込んだ、次の瞬間だった。

 勢いよく火柱が上がり、木が一瞬で炎に包まれる。まるでガソリンでもかかっていたかの様に。


「す、すごい……。これが魔法……」

 夢か現実か。もうそんな事はどうでもよかった。猛々しく燃え盛る炎。そして左手で感じる胸の柔らかさ。それは全てを――。

 胸の柔らかさ……?

「余程乳が好きと見えるなお前は」

「ひぃっ!? ちがっ! 手が勝手に!」

 勝手に動いてる! 今回は間違いなく勝手に動いてる! まるで別な生き物の様に、自分の意思とは無関係に彼女の胸を揉んでいる!

「はははは。面白い顔だ。愉快愉快」

 楽しそうに笑う彼女。自分の胸の鼓動が聞こえた気がする。

「それも魔法だ、意のままに人の身体を動かすことの出来る魔法。もう解けているはずなんだが、随分と気に入った様子だな」

 彼女の言葉に驚いて手に力を入れた瞬間、あっけなく手は離れた。

 あ、手が動く、足も動く。

 さっきまでの脱力感は既に消え、身体中に生気がみなぎる様な感覚。何だか最初より元気になったような気がする。


「あ、ありがとうございました」「ん? それは何の礼だ」

「いや、身体。治してくれて感謝してます」

「おかしなやつだ、殺そうとした奴に感謝するとは。気でも狂ったのか?」

「もう一度死ぬなんて、僕が馬鹿な事言ったから。貴女は情けない僕を殺してくれた。命の恩人みたいなものです。もう死のうだなんて言いません、頑張って生きてみます」

 どうしてこうなったのかは全く分からないけど。生きてみよう。この不思議な世界で。

 何かきっと意味があるはず。僕がここに居る意味、それを見つけるために。


「ふむ、良い心がけだ。命は粗末にするものじゃないからな」

 そう言って彼女は立ち上がり、僕の額に手をかざす。

「異世界の少年よ、名は何と言う?」「僕は剣聖です」

「ふむ、ケンセイか。ではケンセイ、お前に餞別をくれてやろう」

 彼女の手から光が放たれる。身体に少しの熱を感じた時、僕はもう裸じゃなくなっていた。


「これは、鎧……?」

 全身を覆う銀色の鎧。重厚な外見とは裏腹にとても軽く、まるで仕立てた様に僕の身体にフィットしていた。

「そうだ。腰に刺さってるつかを抜いてみろ」

 腰の左部分、豪華な装飾が施された剣の柄がささっている。ゆっくりと引き抜くと、柄の先には何もなかった。


「あれ? 何にもついてませんけど」

 何だこれ、柄だけじゃないか。シャキーンって凄い剣とか出てくると思ってたのに。

「うむ、その剣には刀身はない。呪われた剣だからな、ちなみに鎧も」

 突然の爆弾発言。なにそれ、呪われた剣と鎧? 歩くごとにHPが減っちゃうとか、混乱しちゃうとかそんな感じ? 早く教会に行かないと、それともシャ○クか?

 

「そんな驚いた顔をするな、何も死にはしない」

「だ、だって呪われた装備ってやばいじゃないですか! どうなっちゃうんですか!?」

「それは女の精気を吸って力に変える剣だ。女を知らぬお前には少々使いこなすのに難あり、と言ったところだがな」

 そう言って、彼女はクスクスと笑う。……それじゃあ一生僕はこの剣を使えないじゃないか。


「そんな顔をするな。何とかなるさ。どれ、ためしに目をつむれ」

 目をつむる? 瞑想するみたいな事だろうか。とりあえず彼女の言うとおり目をつむる。

 何となく意識を集中させながら――。


 その時、時間が止まったような気がした。瞑想した訳でも覚醒した訳でもない。

 僕の唇に触れる、柔らかい感触。唇をこじ開ける、妖しく動く舌の感覚。そして蕩ける程甘い、濃厚な唾液の味。


「よし、コレでよいだろう」

 ふぁ、ファーストキスです。正真正銘。十八年間、感じた事のない衝撃。

 完全に僕の思考は停止していた。

「おい、何ボケッとしておる。早く抜け」「ぬっ、ヌいていいんですか……?」

「良いに決まってるだろう。早く剣を抜け」「あっ。は、はい! 抜きます!」

 そっちか、いや、うん。そうだよな。

 先程と同じように剣を抜くと、柄の先から、眩い光が放たれた。

「これは……」鞘から繋がる、光のオーラの様な刀身。

「精気を刃に変える武器、『セクシーソード』だ」彼女はドヤ顔で言った。

「せ、セクシーソード……」

 何てダサい名前なんだ。いくらなんでもセクシーソードはないだろう。こんなに恥ずかしい名前を聞いたのは初めてだ。まだ厨二全開の名前の方がカッコイイぞ。


「何だその顔は? 不満でもあるのか?」

「い、いやありません! セクシーソード、いいですね! カッコイイです!」

「そうだろうそうだろう。余が命名したのだからな」

 満足気に頷く彼女。マジすか。命名しちゃったのか、セクシーソード。


「詳しい事は自分で確かめながら使え。余がしてやるのはここまでだ」

「あ、ありがとうございます。助かりました」

「じゃあ人間界に送ってやる。達者でな」

 彼女は僕に向かって手をかざした瞬間、身体が光に包まれた。

 あれ、僕浮いてないか? 足が地面から離れていく。何これ、ルー○見たいなやつ?


「な、名前は何て言うんですか!? 貴女の名前!」

「もう一度会えたら教えてやろう!」

 彼女が手を上げた瞬間、僕の身体は空高く舞い上がった。

 ああ、名前聞けなかったな。もう一度会えたら、か。

 よし、じゃあ必ずもう一度彼女に会いに行こう。それが、この世界で僕が生きる目標だ。


 それにしても、随分飛んでないか僕? 結構なスピードだし。

 ちょっと待って、これ何処に向かってるの? いや、その前にどうやって止まるの? あれ、何か下がってないか? ってか落ちてる? 

やばい。このスピードで落ちたら絶対死ぬ。絶対死ぬ――。


「あああああああああああああああ!」

 猛スピードで叩き込まれたのは水の中。着地ならぬ、着水だ。

 くっ、苦しい。このままだと溺れてしまう。光の射す方へ必死に泳ぐ。

 くそっ、こんな所で死ぬわけにはいかないんだ。僕はもう一度彼女に会わなきゃいけない――。

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