寝起きドッキリ?
酔っ払って潰れたニーヤをベッドに放り投げ、椅子に腰掛ける。
何となく落ちつかないのは部屋が広すぎるからだろう。風呂はデカイし、バルコニーまである。
「ケンセイさん。セクシーソードはどうなってますか?」
小声で話すモミさん。剣を抜くと刀身は随分小さくなっていた。
「これじゃあもう使えませんね。どうしましょう、ここじゃ一緒に寝るわけにもいきませんし」
今日は相部屋だ。流石に一緒に寝ていたらおかしいだろう。
「今日は仕方ないですね。また明日溜めましょう」
「そうですね、じゃあケンセイさん。お風呂お先どうぞ、解除しますので」
「あ、いや。ペロ様いるから……」
「そうでしたね、じゃあ私とペロ様がお風呂に入りますから、その時私だけ一旦出てきますね」
「分かりました、じゃあお願いします」
「さぁペロ様、お風呂に入りましょう」
二人が部屋の奥に入っていく。
それにしても、お姉さんと妹って感じだな。一緒にお風呂とか入っちゃうんだ。
初めて会った時、水浴びしてたんだよな。
ペロ様のロリボディは色々と危なかったけど。
今考えると、合法ロリじゃないか。世の十八歳じゃ決してありえない。
まさにゴッドボディ! 神の肉体だ。
よからぬ妄想に夢を膨らませていると、奥から駆け足でモミさんが出てきた。
バスタオルで前を隠しているが、まるで別の生き物のように跳ねる胸。ポロリもありそうだ!
「さぁ、急いで解除しますよ」
「お、お願いします」
「何かいつもより……。あっ、何でもないです! 何でもないですよ!」
慌ててモミさんが戻っていく。その姿に、僕の目は完全に釘付け。
モミさん、後ろ姿が丸見えです。ありがとう、セクシーの神様。
「な、何してんのアンタ……?」
聞こえた声に背筋が凍る。恐る恐る振り向くと、ベッドの上のニーヤと目が合った。
素っ裸で、いつもより凶暴化した、光らないセクシーソード。
思考が停止する。それは彼女も同じだったのかもしれない。
全身から血の気が引いていくと共に、ニーヤが発した、サイレンの様な絶叫が響き渡った。
「どうしました!?」
ニーヤの絶叫に、風呂場からモミさんとペロ様が飛び出して来た。
そこにはバスタオルなどない。全裸である。
もう何処を見て良いのか分からない。完全にパニックになった僕は彼女達の脇をすり抜け、風呂場に逃げ込む。逃げるが勝ち、そう思ったから。
――まいったな、どうすればいいんだろう。
部屋からは『変態』とか『殺す』とか『追い出す』とか。そんなワードが聞こえている。
言い訳のしようがない。全裸でたらポッキだ。違う、たらポッキは違う。
フルボッコ? 間違いない、殺されてもおかしくない状況だ。
その時、僕の背中に優しくお湯が流される。
ああ、気持ちいいな。って――。
振り向くとペロ様の姿。やはりバスタオルなどなかった。
「わっ!? ご、ごめん!」
対象を至近距離で確認。慌てて顔を背ける。
いや、僕は何をドキドキしているんだ。ペロ様の裸に興奮しているのか? 少女の裸に?
そして背中に感じる、柔らかい泡の感触。
「あ、ありがとう……」
ペロ様は無言で、優しく僕の背中を擦り始めた。
「あら、すごいですね。ペロ様にお背中を流されるなんて、そうそうありませんよ」
背中越しにモミさんの声がする。
「じゃあ私は頭を洗って差し上げますね」
「だ、大丈夫ですよ。悪いですし」
「遠慮しないで下さい、ちゃんと目をつぶっていて下さいね」
頭からお湯を流される。優しい指使いが、僕の頭皮を刺激した。
至福の時――こんな快感今まで味わった事がない。
頭と背中を同時に洗われる。まるで王様にでもなった気分だ。
「モミ」
突然ペロ様が口を開く。
「どうしました?」
「さっきと違う」
さっきと違う? 何の事だ?
「あっ、そ、そうですね」
「どうして?」
何の話をしているんだ?
「ど、どうしてでしょうかね、わ、私には分かりません」
「嘘、ついてる」
「ええっ? う、嘘じゃありませんよ。そ、そう! 内緒です! ペロ様、これは人に聞いてはいけない事なのですよ。自分で答えを探さなきゃいけないんです」
聞いてはいけない? 全然分からないな。
目をつぶってるし、何の事やらさっぱり――。
「ひゃああっ!?」
「ぺっ、ペロ様!?」
小さな手が、休眠中のセクシーソードを握る。
「答えを、探す」
「ちょっと! アンタ達お風呂で何やって……んの……?」
――今日は色々とタイミングの悪い一日だった。
バルコニーから町を眺める。火照った身体を、心地良い海風が冷やす。
それにしても酷い目にあった。完全に変態扱い。ニーヤの僕に対する好感度は地に落ちただろう。
「ケンセイさん。どうぞ」
モミさんが飲み物の入ったグラスを差し出す。
「ありがとうございます」
「大変でしたね」
「いやぁ、流石に驚きました。ペロ様がまさかあんな事」
「ペロ様は、あまり俗世にお詳しくないんです」
モミさんは困った様な顔でそう言った。
「生まれた時から、神様の子孫として崇められてきましたからね。特に男性はペロ様に近づいてはならない事になっていましたから」
考えてみれば、ペロリン亭でもあまり僕達のテーブルに男性は近づいてこなかった。
「女性でも私達以外はそこまでペロ様と接しません。ペロリン亭でご覧になりましたでしょう? ペロ様にひれ伏す皆様の姿を。本来はそういう関係なんですよ」
まるで神様を崇めるように、ペロ様に頭を下げていた。あれが本当の彼女の姿。
「でも、それって少し寂しくないですか? ペロ様だって、神様の子孫かもしれないけど一人の女の子じゃないですか」
手すりに寄りかかり、モミさんがくすりと笑う。
「懐かしいですね。昔同じ言葉を言った女の子がいました」
「『神様だか何だか知らないけど、アタシにはそんなの関係ない』って」
「もしかしてそれって……」
「ええ、ニーヤです。ペロ様を呼び捨てにするのも、多分そうなんだと思います。ニーヤは一人の女の子として、友達として、ペロ様と向き合って来たんですよ。昔から」
ニーヤらしいと言えばニーヤらしい。そういう感じするもんな。
「正直、そんなニーヤが少し羨ましかったんです。私は、運命を恨んでいましたから」
運命を恨んだ。モミさんは少し寂しそうにそう言った。
「そろそろ寝ましょうか。今日はゆっくり寝てください」
そう言って、部屋に戻っていく。
彼女達の過去を僕が知るのは、もう少し先の話だった。