旅の再開
早朝。朝食を済ませ、僕達は外に出る。
三人の少女と、宿のマスターも見送りに出てくれた。
「いつでも来て下さいよ。うんとサービスしますからね」
「ありがとうございます。必ずまた来ますよ」
マスターと握手を交わし、ふと隣の少女達を見ると、目が潤んでいた。
「また、きっと会えるさ。必ずね」
彼女達の頭に触れると、三人は涙を流しながらも笑顔を見せる。
「きっとですよ。私達は待ってますから」
「ケンセイさん達の無事を毎日お祈りします」
「本当にありがとうございました」
彼女達の姿に目頭が熱くなる。グッと堪えて、僕達は歩き出した。
「別れは悲しいものですね」
「うん。うん。悲しいよ。とっても」
歩き出してすぐ、僕は涙が止まらなくなっていた。
少女達に涙を見せないように、必死に我慢した反動。
前がまともに見えない程、泣きながら歩いていた。
「ケンセイさーん!」
後ろから、少女達の声がした。
「私達、初めてだったけど! すっごい気持ち良かったですよー!」
ピタッとニーヤ達の足が止まった。
「初めてがケンセイさんで嬉しかったですよー!」
僕の涙もピタッと止まった。
「また続きをしましょうねー!」
ニーヤの冷たい視線に、心臓までも止まりそうになった。
「あ、アンタあの子達に何したわけ……?」
「ぼ、僕は何もしてませんよ……」
自然と歩くスピードが上がる。
「あ、ちょっと待ちなさいよ! モミ、何か知ってるんでしょ?」
「わ、私は何も知りませんよ」
僕の後を追う様に、モミさんもスピードを上げた。そんな僕達の横を、ペロ様が追い抜いていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何でアタシを置いて行くのよ!」
僕達は笑いながら走り出す。四人の旅は、駆け足で再開した。
――シーズラ街道――
「ふぅ、終わったみたいだね」
目の前に転がるモンスターの死骸。
道中十匹ほどのでかいネズミに襲われたが、ニーヤと共に殲滅した。
「アンタ、結構やるじゃない。卑怯な技使わないで倒してたし」
そう言われてみるとそうだ。まともに戦闘したのはこれが初めて。
別に怖いとも思わなかったし。
「洞窟で一皮剥けて来た、って感じかしら」
洞窟、か。そうかもしれないな。
「あ、別にそういうつもりで言ったんじゃなくて……」
「ううん。大丈夫だよ。気にしてないから」
そういうつもり、とは、僕が人を殺した事だろう。
そりゃショックを受けたけど。でもニーヤのおかげで立ち直る事が出来た。
ここは僕の居た世界じゃない。ここはワーワルツ。この世界では、命はとても軽い。
ドラーシュがそれを物語っている。
もう誰にも、彼女達の様な思いをさせたくない。そんな思いが、僕の中で大きくなっていた。
途中何度か現れたモンスターを蹴散らし、ひたすら歩く。
ポツポツと建物が現れた頃には、辺りが薄暗くなっていた。
「着きましたよ、ここが港町シードラです」
密集した建物が町を形成している。道の横、大きな看板に魚の絵と何かの文字。
[ようこそ、シードラへ]みたいな感じなんだろうか。
「お腹すいたー。早く何か食べよう」
ニーヤがお腹を押さえながら言った。
足の疲れと空腹をお供に、僕達はシードラに辿り着いた。