セカンドタッチ
「あ~。もうダメだ。お腹が爆発しそうだよ」
テーブルの上には、食器の山が出来ていた。
七人のお腹を十分すぎる程満たした料理の数々。マスターの本気を見た気がする。
「じゃあアタシ達は先に部屋に戻ってるから。ペロ行こう」
ニーヤとペロ様が食堂を出て行く。あれ、まだ部屋があるのか?
「ケンセイさんを待つために、今日はもう一泊する予定だったんですよ。部屋はそのまま押さえてますから、お風呂に入ってゆっくり休んで下さい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。君達もマスターに言って、部屋で休むといいよ」
「はい。ありがとうございます」
彼女達に告げ、部屋へと戻った。
「さぁケンセイさん。お風呂へどうぞ」
部屋に戻り、しばらくしてモミさんが言った。
「ありがとう。じゃあ入ってくるよ」
タオルを手に取り、風呂に向かう。
「あの、解除しないんですか?」
「あ、そ、そうだったね。でも汚れてるから一緒に洗おっかなー、なんて」
「多分解除すれば汚れもとれるはずですよ」
「あ、そ、そうなんだ。じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「はい。じゃあいきますね」
ああ、この感じ。セクシーアーマーよ、ありがとう。
君は最高だ――。
「あっ、ありがとう!」
そそりたつセクシーソードを押さえながら、風呂場に逃げる。
何度やっても慣れないな。慣れたら慣れたで嫌だけど。せめて反応しないようになれば。
……それはそれで情けない感じになるんだろうか。
風呂に入って椅子に腰掛けると、ドアが開く音がした。
「ケンセイさんお疲れでしょう? お背中流しますよ」
「え? いやぁそんなの悪いですよ――」
振り返ると、そこにはバスタオル一枚のモミさんの姿。
な、何で脱いでるんですかああああ。
「あ、あんまり見ないで下さい……。食べ過ぎたからお腹が出てるかも……」
いや! 出てるのは胸です! バスタオルから3Dの様に飛び出して来そうです!
「痛くありませんか?」
「いや、全然大丈夫です。とっても気持ち良いですよ」
最初こそ落ち着かなかったものの、他人に身体を洗われる心地よさに、僕はすっかり身を任せていた。
「モミさんもドラーシュの事は知ってたんですか?」
「ええ、ワーワルツの人なら誰でも知ってると思います」
「そうなんですか。正直驚きました。魔物と人間が手を組んで、あんな酷い事をしているなんて」
「人が人をさらえば罪になるから、魔物を利用する人間もいるんです。でも、ごく一部なんですよ、どうかワーワルツの人々が皆その様な者だとは思わないで下さい」
寂しそうな声でモミさんが言った。
「分かってます。どこの世界にも腐った人間は居ますから」
「私達が魔王を倒した暁には、そのような行為も無くなると信じています。いえ、必ず無くしてみせます」
力強い言葉。やっぱりモミさん達が魔王を倒すのは村の為だけじゃないんだ。
ワーワルツの、魔物に苦しめられている全ての人達の為。全ての思いを背負って、彼女達は旅をしているんだ。
「ところで、よく装備を盗られませんでしたね。鎧は外れないにしても、剣は盗られそうなものですけど」
「それなんですけど、分かった事があったんですよ。セクシーソードは僕にしか抜けないみたいなんです」
「セクシーソード、ですか?」
しまった。剣の名前を彼女には言ってなかったんだ。だって言えないだろセクシーソードなんて。
「じ、実はですね、これをくれた魔女がそう名づけたみたいでして。何となく恥ずかしいから今まで黙っていたんです」
「そうなんですか。良い名前じゃないですか、セクシーソード。じゃあそれはセクシーリング、鎧はセクシーアーマーってとこですかね」
あれ、意外な反応。良い名前って。しかも腕輪と鎧まで名前決まっちゃったよ。
気分的に『セクシー装備[仮]』だったんだけど。正式名称に決定しちゃったよ。おめでとう。
「でも女の子三人もそばに居たら、結構すぐ溜まったんじゃないですか?」
「最初はそう思ったんですよ、三人とも裸だったし。僕を囲んでもらう様な形で眠ったんですけど、起きた時は全然溜まってませんでした」
「まぁ。じゃあケンセイさんは裸の彼女達に囲まれて寝たんですね」
「い、いや。そこを強調されると困りますよ」
「ふふ、冗談ですよ。それでどうなさったんですか?」
……まずい。その質問はまずいぞ。でも嘘は良くないよな。
別にやましい気持ちでした訳じゃないし。
「彼女達に頼んで……き、き、キスをしてもらったんです!」
背中を擦る、モミさんの手が止まった。
「さ、三人とですか?」
「さ、三人とです……」
「そ、それはすごいですね」
「し、仕方がなかったんですよ。それしか方法がなくて……」
そう、しょうがなかったんだ。あの時はそうするしかなかった。
少しの沈黙の後。モミさんの手が、背中から腋を通り、ゆっくりと前の方に。
「まっ、前は自分で洗いますよ」
「キスだけですか?」
「な、何の事ですか?」
「キスしかしてないんですか?」
まだその話するの!? 掘り下げちゃうの!? 責めすぎじゃないか!?
「そ、そうですよ! 当たり前じゃないですか!」
ダメだダメだ。正直に話して良い事と悪い事だってあるんだ。ついて良い嘘と悪い嘘もある。これは前者だ。間違いない。閻魔大王に舌を抜かれたりはしない。
「セクシーアーマーの呪い、私は知ってるんですよ――」
彼女の手が、ゆっくりと僕の胸を伝い、下の方へ。
ダメだ。彼女には隠し通せない。
「す、すいません。ちょっとだけ触りました……」
「ま、まさか最後までしちゃったんですか!?」
「そ、それは無いです! 鎧も着てますし!」
「そ、そうですよね! うん、うん、そうですよね」
「あっ、あっ、あっ。も、モミさん!」
「きゃあああっ!? す、す、す、すいません! わ、私何てこと!」
モミさんが勢いよく浴槽に飛び込む。
セカンドタッチ。タッチというほど優しくなかったかもしれない。それはとても刺激的な体験だった。