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賞味。初物

 目が覚めると、そこは昨日と何も変わらない穴の中。

 朝日が射すわけでもなく、鳥の声が聞こえるわけでもない。

 どれだけ寝ていたのか分からない。それこそ朝になっているのかすら、この暗い穴の中では、何一つ分からなかった。

「あ、おはよう」

「おはようございます」

「どれくらい寝てたとか分かる人いるかな? 大体でも分かればいいんだけど」

「多分ですけど、四時間くらいだと思います。そろそろ魔物が来る頃だと思いますよ。この三日間そうでしたから」

「そっか。じゃあ少し離れたほうがいいね」

 彼女達から離れ、剣を抜いて驚愕した。

 何でだよ……何でこれだけしか溜まっていないんだ。

 柄の先、刀身は五センチにも満たない程。

 これじゃどうにもならないじゃないか。一体どうしてなんだ、昨日と何が違うって言うんだよ。

 


 しばらくすると、彼女の言った通りモンスターがやって来た。

「飯だ」

 そう言って置かれたのは、水の入った樽と小さなパンが二つ。

「おい。こんなもんで腹が膨れるわけないだろ」

「あ? うるせえ奴だな。いいんだよ、どうせ後数時間もすれば買い手が来て女を連れて行くんだ。お前は出れねぇけどな。その高そうな鎧でも剥いでやろうと思ったのに外れねぇし、とんだゴミを拾って来ちまったぜ」

 ぶつぶつ言いながら、モンスターが去っていく。

 後数時間で彼女達は――どうすりゃいいんだ。


「あ、あの」

 声に振り向くと、隣には二つのパンを持つ少女。

「これ、食べて下さい」

 パンを差し出しながら少女が言った。

「いや、いいよ。僕は大丈夫だから君達で食べなよ」

「いえ、私達は大丈夫です、どうせ後数時間で売られる運命ですし」

「それに、嬉しかったんです。私達の為に泣いてくれた事。だから食べて下さい、そして貴方はどうか生きて下さい」

 後ろの二人も頷いている。


 これから売られて行く自分の事より、僕の事を気遣ってくれる。

 そんな彼女達の優しさに、またも涙が溢れてきた。

 どうしてそんなに優しいんだ。こんなに小さな身体で、どうして何も出来ない僕に、優しい言葉をかけてくれるんだ。

 目の前の彼女を強く抱きしめる。

 僕につられたのか、彼女も静かに泣きだした。そして後ろの二人も。

 四人のすすり泣く音が、暗い穴の中に響いていた。


「僕の最後のお願いを聞いてくれないかな」

「は、はい。私に出来る事なら何でも」

「……キスさせてくれないかな」

「き、キスですか!?」

 驚くのも無理は無い。余りにも突拍子もない話だ。

「そう。キスさせて欲しい。ふざけた話に聞こえるかもしれないけど、決してふざけてるわけじゃないんだ」

「そ、それは私だけですか?」

「いや、出来れば三人にお願いしたい。キスしたからって助かる保障はないんだ、でももしかしたら助かるかもしれない。最後まで諦めたくないんだ。お願いします、どうか僕にキスさせて下さい」

 諦めたくない。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみたい。

 頭を地面につけて、僕は彼女達にお願いした。  


「わ、分かりました。顔を上げてください」

「キス、します」

「ほ、本当にいいの?」

「はい。何となく、変な気持ちじゃないって分かりましたから。貴方を信じます、私達の身体を好きにして下さい」

「い、いや。身体はいいんだよ。キスだけしてくれれば」

「そ、そうなんですか!? す、すいません。私ちょっと勘違いしました」

 流石に身体までは求めていない。もしその先があっても、生憎セクシーアーマーは外れない。

「じゃ、じゃあちょっと待ってて」

 樽に入った水を口に含むと、念入りにうがいをする。失礼があってはいけない。

 それを見た彼女達もうがいをして。これで準備は整った。


「ど、どうすればいいですか?」

「じゃ、じゃあ膝の上に乗ってくれるかな。二人は僕を左右から挟む様に座ってくれる?」

 膝の上、そして左右。こんなに近くで裸の女の子を見たのは初めてだ。

 目が喜んでいるが、決してやましい気持ちじゃない――はずだ。

「な、何かすごい緊張します。あ、あの、私初めてなんで、上手く出来ないかもしれませんが……」

「え、本当に?」

「わ、私もです」

「私も……」

……全員ファーストキス。その事実は僕の心を揺さぶった。


 本当に良いのだろうか。僕に彼女達の初めてを奪う権利があるのだろうか。

 いや、考えてる暇はないんだ。文句なら助かった後にいくらでも聞く。罰があるなら甘んじてそれを受けよう。今はとりあえず、彼女達を助けたい。

「誓うよ。絶対に君達は僕が助ける――」


 目の前の少女と唇を重ねる。舌を絡ませ、唾液を貪る様に。右の少女とも、そして左の少女とも。手が自然に彼女達の身体を求める。彼女達は何も言わず、僕の手を受け入れた。

 身をよじり、吐息を漏らし。肌を上気させ、うっすらと滲んだ汗が甘い香りを放つ。

 暗い穴の中、妖しげな水音が絶えず響き渡っていた。


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