七
鷹見の運転で高原の他の所をまわり、下りていく前に風車に一番近い駐車場に車を止めた。車の運転は久しぶりだが、天水よりはまともな運転ができたと思う。
二人が車から降りたあとサイドブレーキや鍵の確認をして鷹見も降りた。
「思ったよりも大きい」
「まだ距離がある」
ここも広々とした駐車場で、何台かの車やバイク、バスまで停まっていた。昼食をとった丘からは風車があまり大きくは見えなかったが、近付くと風の力で回るとは思えないほどの大きさだった。
その駐車場の先にも道は続いていた。
「ここよりもまだ近くに行けるみたいだね」
「たぶん駐車場がないので、車からは降りられないと思います」
古泉が用意した地図にはこの駐車場までの道しかない。そのため、この先は行き止まりだと思っていた。
「この道、通り抜けできますよ」
地図を見ていた二人に天水が言った。
「じゃあそっち側に下りていくの?」
鷹見は風車のほうを見て言った。
「はい。下りた先に温泉があります」
「それならもう行こうか。温泉までは私が運転するから。天水、案内よろしく」
「カーナビ様にまかせましょう」
交通量の少ない山道をゆっくりと走った。風車のすぐ近くを道が通っていて、車の中からでも回る音が聞こえた。
麓まで下りたときまだ日は高かった。天水があらかじめ調べておいた入浴施設はカーナビの案内ですぐに見つかった。湯上がりに広い畳の部屋で休憩していると、天水は寝てしまった。起こすこともないと思い、古泉が天水をおぶって車まで運んだ。。
「軽い」
「軽そうだ」
天水を後部座席に横たえさせて、鷹見は助手席に古泉は運転席に座った。駐車場を出るときはとても慎重で鷹見が周囲に気を配りながら指示を出したが、公道を走り出すと危なげない走りになった。
国道に出たときには夕暮れになっていた。車は多いが渋滞はしておらず、止まることなく進めた。
町の西側を流れる川に国道の大きな橋が架かっている。その橋にさしかかったとき古泉が、
「この川を越えると、帰ってきたという気になります。ここに住んでまだ半年も経ちませんが」
「電車でもこの川を渡るしね」
鷹見は川の下流に目を向けた。あまり距離がないはずだが河口は見えなかった。帰ってきたという安心感もあるが、もう帰らなければならないと思うと淋しさも感じる。
「もうすぐ着きますね」
「うん。でも、天水家に着くまで油断しないように」
「うちに帰るまでが遠足のパターンですね。……部長」
呼びかけるような声だったので鷹見は運転席のほうを向いた。
「今日はつきあってくれてありがとうございました」
古泉は前を見たまま言った。
「こちらこそ」
橋を渡り終えた。天水を起こすのは家に着いてからにしようと思った。