六
駐車場の北側の芝に覆われた丘には木の階段がある。急いで上ろうとする天水の後ろから、ゆっくりとした足取りで鷹見は階段を上った。古泉はしゃがんで地面に目を向けているので、二人より少し遅れている。
丘の頂上に近付くにつれて空が広くなっていくようだった。麓で見上げた空よりも澄んでいて鮮やかな色だ。正面には丘の向こう側が見えはじめた。階段の終わりの数段手前、そこからは丸く緩やかに盛り上がった丘といくつかの風車の上の部分が見えた。
階段を上りきると、様々な方向を向いた風車群が隣の丘に並んでいた。風力発電の風車は二十基ほどで、低い木々の間から頭を出している。この距離からはどのくらいの大きさなのかわからない。
風は弱くはないのに回っていない風車もあった。丘の上には視界を遮る木などはなく、三百六十度遠くまで見渡せた。
鷹見はこの場所の写真を見たことがあった。大学に入ってまもなくの頃、近くに景勝地がないかと探していて見つけたものだった。そのうち行こうと思っていたが、いつの間にか忘れてしまっていた。
景色に見とれていると、近くでシャッター音がした。横を見ると天水が鷹見にカメラを向けていた。
「口開いてましたよ」
天水がからかうように言った。
「ほう、何としても消去しなければなあ」
鷹見は天水のカメラに手を伸ばしたが、よけられた。
「させませんよ」
「しかたない、天水、あのベンチの上でなんかかっこいいポーズして」
そう言って指さした先には石でできたベンチがあった。その後ろには麓の町を含めた景色が広がっている。なんとも開放的なベンチだった。
天水は鞄とカメラを置き、腕を回しながらベンチへと向かった。ベンチの上に横向きに倒れるようにして、左手と足先で体を支えた。鷹見は組み体操の扇のはじっこの人のポーズだと思った。
「いいよ天水、輝いてるよ。天水史上最高の瞬間だよ」
「私の十八年間はこれ以下ですかー」
鷹見はそう言いながらも姿勢を崩さない天水の勇姿を写真におさめた。撮り終わって、鷹見はベンチの方に歩いた。
「天水」
「結構疲れますよあの体勢」
「連れてきてくれて、ありがとう」
天水は照れ隠しをするように顔をそらした。階段の方を見ると古泉が上がってきたところだった。
「あ、古泉がきました」
「口が開いてるね」
「これは撮るしかありませんね」
「そうしよう」
しばらく丘の上にいた。人目がないのでいつになくはしゃいでしまった。思い返したときにはバカなことをしていたと思うのだろう。
「あそこでお昼にしようか」
風車側の少し下った所にある休憩所をさして言った。