四
鷹見は天水の家の場所を知らないので、駅前で古泉と落ち合ってから向かった。人の多い参詣道の途中から脇道に入ると、天水が生け垣の前に立っていた。
「さっそく出発しましょう」
天水がそう言って運転席に座った。鷹見が助手席に、古泉は後部座席に座った。軽自動車ではないが小さい五人乗りの車だった。
「これ、どこかに入れておいて」
鷹見は鞄から取りだしたお守りを天水に差し出した。彼女の家の近くにある神社の交通安全のお守りだ。
「実はもうあります」
ハンドルの横の小物入れを開くと、全く同じお守りがあった。
「御利益は二倍ですかね?」
「いや、二乗かもしれないよ。同じ神社のだし」
「相殺?」
古泉がボソッと不吉なことを口にした。数秒、車内にはカーエアコンの音だけがした。
「そ、そういえば、あそこの神社は車のお祓いができるらしいですね」
「通りがかりに見たことあるよ。駐車場の車の横で大幣を振ってた」
教習所の教科書に書いてあるようなチェック項目を一通り確認して、鷹見の許可が下りたので発進した。家の前の路地はおっかなびっくりといった様子だったが、県道に出ると話す余裕が出てきた。
「晴れて良かったですね」
国道に出る交差点の信号待ちの時に天水が言った。
「うん。雲一つもなくもない」
「小さいのは少しありますね」
「風が強いのが心配だけど」
「いや、ちょうどいいですよ」
含みを持たせたような天水の言葉に疑問を感じたが、目的地に着けばわかるだろうと鷹見は思い、何も聞かなかった。伏せておくだけの理由があるのだろう。それならば期待させてもらおう。
カーナビの案内によると、この国道を北上して、西に曲がって県道に入り、もう一度曲がるだけで着くそうだ。到着予定時刻は約一時間後。雑談で音声案内を聞き逃してはまずいので、鷹見がときどき指示をだした。
鷹見にはカーナビの目的地の近くに表示された地名に見覚えがあった。県内なので観光案内などで知る機会があったのだろうが、いつこの地名を見たのかは思い出せなかった。
「古泉はここ行ったことある?」
国道から県道に曲がったときに鷹見が聞いた。
「初めてです。どんな場所かは知っていますが」
「写真とか見たの?」
「はい」
車は県道から山道へと入っていった。急勾配の上り坂でカーブも急なものが多かった。天水の運転は思っていたほどのことはなく、危険な目にあうことはなかった。もっとも、急停車は何度かあったが。
長い直線の道にさしかかると坂が緩やかになって、上りが終わろうというところに陸橋があり、そこからは麓の景色が見えた。
「いい眺めだ」
「天水、よそ見しない」