三
「おっはよーございましたー」
天水が部室の扉を開けて元気よく言った。
「ました?」
「おはよう。それと久しぶり」
部室に入ってきた天水の手には古泉のと同じ紙袋があったが、それよりも鷹見の目を引くことがある。
「天水、日焼けしすぎじゃない?」
「教習車がオープンカーだったので」
「攻めるねえ。なかなかの教習所だ」
「攻めまくりでしたよ。アウトインアウトですよ」
「日焼け止めを塗らないで、空き時間に散歩してたからです」
古泉が鷹見に事情を言った。
「なるほど、それでか」
「それは置いといて、お土産です」
天水は紙袋を差し出した。中には種類の違う煮干しが三袋。
「全部?」
「はい。全部です」
「私、カルシウム不足とか思われてる?」
「そんなことないですよ。ええ、決して」
「次は車でどこかに行きませんか?」
二人から教習所の話を聞いたあと、天水が言った。机の上にはクッキーと煮干し、飲み物は迷ったがコーヒーを淹れた。煮干しとは合わない。
「いいよ。私が運転するね」
鷹見がそうこたえた。
「いやいや、ここは私たちがすべきでしょう。なんのために免許取ったと思ってるんですか」
「就職のため?」
古泉が天水に聞き返すように言った。
「それもあるけど、今はいい。あ、紅茶に煮干しって合いますね、意外と」
二人は天水に苦々しい顔を向けた。
天水の言葉で鷹見は二人との間に、ある距離を感じた。三年生になってから毎週のように就職についての説明会があり、面接の練習も何度かした。そうしていると嫌でも就職ということを意識してしまう。
しかし、二人にはまだ先の話だ。そう思っていつもと同じ調子で話す。
「電柱にぶつかりそうになったり、縁石でタイヤを擦った人の運転する車には乗りたくないなあ」
「心当たりがー、ありませんねー」
天水は目をそらして空々しく言った。
「大丈夫ですよ。……たぶんきっとおそらく願わくは」
「願望じゃないですか古泉さん」
鷹見は二人の言葉を聞いてますます運転させたくないと思った。
「私は」
と天水が話し始めた。真剣な声音だったので、二人は黙って聞いた。
「二人に見せたい景色があるんです。そこには、電車やバスだと行けないから、だから車で二人を連れて行きたいんです」
天水の表情を見ていると、鷹見は自分の不安なんてものはたいしたことではない、と思った。
「わかったよ。危ない運転をしたら途中で代わるから」
「さすが部長。煮干しをどうぞ」
「車はどうする? レンタカー?」
古泉が天水に聞いた。天水の表情はいつもの明るい笑顔に戻っていた。
「うちの、母の車をかります」
「そういえば天水の家は市内だったね」
話がまとまった。予定を立てようとしたが、天水は行き先を教えてくれなかった。
「あ、帰りに温泉街に寄るので準備しておいてください」
「え、泊まるの?」
「いえ、日帰り入浴です」






