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「おっはよーございましたー」

 天水が部室の扉を開けて元気よく言った。

「ました?」

「おはよう。それと久しぶり」

 部室に入ってきた天水の手には古泉のと同じ紙袋があったが、それよりも鷹見の目を引くことがある。

「天水、日焼けしすぎじゃない?」

「教習車がオープンカーだったので」

「攻めるねえ。なかなかの教習所だ」

「攻めまくりでしたよ。アウトインアウトですよ」

「日焼け止めを塗らないで、空き時間に散歩してたからです」

 古泉が鷹見に事情を言った。

「なるほど、それでか」

「それは置いといて、お土産です」

 天水は紙袋を差し出した。中には種類の違う煮干しが三袋。

「全部?」

「はい。全部です」

「私、カルシウム不足とか思われてる?」

「そんなことないですよ。ええ、決して」


「次は車でどこかに行きませんか?」

 二人から教習所の話を聞いたあと、天水が言った。机の上にはクッキーと煮干し、飲み物は迷ったがコーヒーを淹れた。煮干しとは合わない。

「いいよ。私が運転するね」

 鷹見がそうこたえた。

「いやいや、ここは私たちがすべきでしょう。なんのために免許取ったと思ってるんですか」

「就職のため?」

 古泉が天水に聞き返すように言った。

「それもあるけど、今はいい。あ、紅茶に煮干しって合いますね、意外と」

 二人は天水に苦々しい顔を向けた。

 天水の言葉で鷹見は二人との間に、ある距離を感じた。三年生になってから毎週のように就職についての説明会があり、面接の練習も何度かした。そうしていると嫌でも就職ということを意識してしまう。

 しかし、二人にはまだ先の話だ。そう思っていつもと同じ調子で話す。

「電柱にぶつかりそうになったり、縁石でタイヤを擦った人の運転する車には乗りたくないなあ」

「心当たりがー、ありませんねー」

 天水は目をそらして空々しく言った。

「大丈夫ですよ。……たぶんきっとおそらく願わくは」

「願望じゃないですか古泉さん」

 鷹見は二人の言葉を聞いてますます運転させたくないと思った。

「私は」

 と天水が話し始めた。真剣な声音だったので、二人は黙って聞いた。

「二人に見せたい景色があるんです。そこには、電車やバスだと行けないから、だから車で二人を連れて行きたいんです」

 天水の表情を見ていると、鷹見は自分の不安なんてものはたいしたことではない、と思った。

「わかったよ。危ない運転をしたら途中で代わるから」

「さすが部長。煮干しをどうぞ」

「車はどうする? レンタカー?」

 古泉が天水に聞いた。天水の表情はいつもの明るい笑顔に戻っていた。

「うちの、母の車をかります」

「そういえば天水の家は市内だったね」

 話がまとまった。予定を立てようとしたが、天水は行き先を教えてくれなかった。

「あ、帰りに温泉街に寄るので準備しておいてください」

「え、泊まるの?」

「いえ、日帰り入浴です」

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