二
『免許とれました』という件名のメールを天水から受けとった週の土曜日、部室に入ると、古泉がデスクトップパソコンに向かっていた。彼女と会うのは約二週間ぶりだ。
「おはよう」
「おはようございます」
古泉は座っている椅子を回転させて鷹見のほうを向いて言った。そして、机の上に置いてあった紙袋を持って、鷹見に差し出した。
「おみやげです」
「おおー、ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
紙袋には箱が入っていて中身はクッキーだった。四角いクッキーに魚の絵が浮き彫りになっているので魚拓のように見えた。部室の中央の机に箱を置いて、古泉にクッキーを一枚わたした。
「どうも」
「観光する時間とかあったの?」
「時間はありましたが、移動手段がなかったので。海を見たくらいです」
「そっか。せっかく行ったのに残念だったね」
「いえ、なかなか楽しかったですよ。スリルがあって」
「運転が?」
「はい」
古泉の運転する車には乗りたくないと思いながら、パソコンのモニターに目を向けた。画像編集ソフトが立ち上げられていて、拡大された写真が表示されている。鷹見の目線に気付いて思い出したように古泉が言った。
「ところで、大きさを変えるのってどうやるんですか?」
「大きさを……圧縮のこと?」
画面上ではすでに写真が拡大表示されているので拡大のことではないだろう、と思って聞き返した。
「データ自体を、ではなくてですね、余計な部分を切りとるやつです」
「ああ、トリミングね」
「そう、それです」
「えっと、まず下の小さい写真から編集したいのを選んでダブルクリックして。新しいウィンドウが出るから」
古泉はマウスカーソルを動かして、二回左クリックをした。しかし、写真が選択されただけだった。明らかに一回目と二回目のクリックの間が長かった。一瞬固まって、ごまかすように慌ててダブルクリックをした。
「よし」
新しいウィンドウが表示され、最大化した。
「いや、ごまかせてないよ」
「次、いきましょう」
「はいはい。で、左上の『編集』の中の『範囲選択』ってのを押して」
マウスカーソルが十字になった。
「ドラッグして残す範囲を決めると」
写真の中に小さく写った猫を囲むように枠をつくった。
「ダブルクリックほどの難易度はないですね」
「難易度? まあいいや、最後に右クリックして『切り抜き』を押す」
「できました」
画面に猫が大きく表示された。写真の形は正方形に近い。
「そういえば古泉が編集するのってめずらしいね。初めてだった?」
「はい。たまにはやってみようと思いまして」
天水が部室に来るまで、古泉に写真編集ソフトの使い方を教えた。