一
両側が田んぼの農業用車しか通らないような道路を東へと歩く。これから色を変える背の高い稲が、猛暑の中でも空に向かってピーンと伸びている。
細い道は田んぼに合わせてまっすぐ続いていて、遠くの方で緑色の稲の中に消えていくようだった。農作業をしている人もおらず、動くものは雲と鳥と前方を横切る高速道路の車だけ。
鷹見は川を目指している。
頭には山登りのために買った防水加工の帽子。日焼け止めは塗ったが日傘はささない。一応、ウエストバッグの中にはスポーツドリンクとタオルを入れてある。辺りには自動販売機はない。
この日は火曜日で、本来ならば部活動があるが、実質三人しかいない部員のうち二人が合宿で自動車免許を取りに行っているため休みにした。いつもは部活に行っている時間に家にいるのは手持ちぶさたなので、散歩に出た。
強烈な日差しが彼女に降り注いでいるが、近くに日陰がないので逃れることはできない。風もなく、気軽に散歩に出たことを少し後悔しはじめた。歩みを止めて、スポーツドリンクを一口飲んだ。
この町で暮らし始めたときは、こうやって家の近くをカメラを持って散歩したが、近頃はほとんどしなくなった。時間がないわけではない。続ける理由もないことなので、いつの間にかやめていた。
しかし暑い。考え事をして気を紛らわせようとしたが無駄だった。むしろ、これだけ暑いのだからこの暑さを写真にしてみようと思った。
鷹見は周りを見渡した。歩いてきた道を振り返ると、先ほど横を通ったスーパーがすでに小さくなっていた。その手前、道の上で空気がゆらゆらと歪んでいる。陽炎だ。
赤いハンドストラップを付けたコンパクトデジタルカメラをバッグから出して、陽炎の方に向けた。撮ったことがないのでどう写るかわからなかったが、再生してみると陽炎の部分は薄い水の膜があるかのように見えた。
とても暑苦しい写真が撮れた。これを冷房の効いた部室で後輩達に見せようと思うと、少しだけ足取りが軽くなった。
まっすぐな道を川に向かって再び歩きはじめた。