7 国家の敵
39人は林場の家へと歩みを進める。
林場の家は学校のすぐ近くだった。例え、遠くても、みんなためらうことなく歩いていったことだろう。
林場の家は、閑静な住宅街の中の堂々とした一軒家であった。
39人の学生がそこに押し掛ける。
「林場君! 僕たちは君を救いたい!」
みんな、口々に言った。インターホンを押す。扉をノックする。
だが、何の反応もない。林場の家は静まりかえっていた。
「……留守かな?」
「いや、それはないよ。郵便受けが空だ」
生徒たちは身軽に柵を飛び越えて、庭にまで入っていく。だが、窓から家の中を覗いても、人の姿はなかった。家の奥深くに隠れているのだろうか?
「なぜ林場は出てこないのだろう? せっかく、こうして全員で会いに来たのに」
「気恥ずかしいのかもしれないな」
「だが、林場は実に立派な行為をしたんだ。隠れるべきではないよ。堂々と誇るべきなんだ。今の学校には彼のような生徒が必要なんだ」
つばき組の生徒たちは、なんとしても、林場を一目見ておきたかった。
「こら! そこのおまえ達、一体、何をやっているんだ!」
居丈高に怒鳴る中年の男が路上に立っていた。警察官であった。
直後、警官は、39人の冷たい視線を浴びてひるんだ。
「僕たちは大切な友達に会いに来たのです。邪魔はしないでください」
佐野がみんなを代表して、冷めた声で告げる。
「何を言うか! 学生がこんな時間に、学校にも行かずに何をやっている! 一体、学校では何を教えているのだ! 非常識極まる!」
警官は警棒を振り回す。
「クラスメイトが崇高な自己犠牲の結果、傷ついているのです。彼にはクラスメイトの応援が必要なのです」
「黙れ! 学生は学校で勉強をしていればいいのだ! 引率もなしに、学校の外でこんな風に団体で行動するのは許さん! 今すぐ解散しろ!」
警官は唾を飛ばして怒鳴る。
だが、生徒は誰一人、従う素振りを見せなかった。つばき組に、クラスメイトを見捨てるという考えはないのである。
警官は、自分の手に余る敵だと悟るや、無線で応援を要請した。
たちまち、自転車やパトカーで警官がやってきて、その数を増していく。
果ては装甲車のようなものまで到着して、ヘルメットをかぶった機動隊が林場の家を取り囲む。
「今すぐ解散しなさい!」
拡声器越しの怒声がつばき組に浴びせられた。
佐賀は唇を噛んだ。
すでに警察側は数と装備で優位に立っている。今すぐ解散しないと、機動隊は突撃してきて、つばき組は排除されてしまうだろう。
林場に会うことは不可能であった。これ以上粘っても、被害が増えるばかりだ。
「やむを得ない。一度、退却しよう」
佐賀が提案すると、つばき組の面々は頷いた。
退却すると決まると、後は素早かった。つばき組の生徒達は住宅同士を区切る塀の上にひらりと飛び上がると、塀の上を駆け足で、整然と退却していった。
重装備で鈍重な警官にはとても追いつけない機敏さであった。